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それから翌日。5月2日。13時。
朝の摘採を終え、短い休憩を挟んだ村人たちは、おじろくおばさを弔う為の作業を本格的に開始した。
最初に行われるのは、長年森の奥に佇み続けてきた祠の解体である。
祠の前には信愛と数名の村人、そして天虎村にある小さな寺の住職が集まっていた。
若い村民の一人が祠を見つめながら口を開く。
「まずこれを取り壊すんだな?」
信愛は力強く頷いた。
「はい!ですけどその前に──」
言葉を言い終える前に、別の若い村民が意気揚々とハンマーを振り上げる
「よし!壊すぞ?」
勢いよくハンマーを振り上げる。
その瞬間、信愛の表情が一変した。
「わあぁぁ!待って!待って下さ〜い!」
森に響く切迫した叫び声に、村人は思わず動きを止める。
「おお、おっと!」
祠を壊す気満々だった村人は、慌ててハンマーを下ろした。
「ど、どうしたんだ?」
信愛は乱れた呼吸を整えながら、真剣な眼差しで祠を見つめる。
「すぐに壊すのはやめてください!」
そして隣に立つ住職へ視線を向けた。
「これはあくまでも祠ですから!簡易的な
除霊をしてからでないと・・でしたよね?」
信愛の問いに住職は静かに頷いた。
「左様でございます。」
穏やかな口調のまま、村人たちへ説明を続ける。
「無闇に取り壊す事は、おじろくおばさの怒りを
更に増幅させる結果を招く恐れがありますので」
その言葉を聞き、若い村人は納得したように息を吐いた。
「あぁ・・なるほどな」
信愛も安堵したように微笑む。
「はい・・ですから、少し待ってください」
「あぁ・・・分かった」
先ほどまで勢いよくハンマーを構えていた村民は素直に頷き、一歩後ろへ下がった。
辺りは再び静寂に包まれる。
そして住職は祠の前へ静かに歩み寄ると、数珠を両手に掛け、ゆっくりと目を閉じた。
辺りは鳥の声すら聞こえず、森を吹き抜ける風だけが木々を揺らしている。
若い村民は固唾をのんだまま、その様子を見守っていた。
信愛もまた息を潜め、住職の一挙手一投足を見逃すまいと視線を向ける。
「それでは離祠の儀式を始めます」
「お願いします」
信愛が深く頭を下げると、住職は静かに頷いた。
住職は祠の四隅へ清めの塩を丁寧に撒き、祠を囲むように歩きながら読経を始める。
低く響く読経の声は、森の静寂へゆっくりと溶け込んでいった。
「霊魂安護土地清魂──
怨念鎮静安寧祈願──
浄化清明合掌礼拝──
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
魂を慈しみ──
解放を願いて──
祠離鎮魂」
その瞬間だった。
祠の奥から、小さく軋むような音が響く。
「ゴクリ・・・」
若い村民は思わず唾を飲み込み、肩を震わせた。
やがて住職はゆっくりと目を開き、数珠を胸元へ納める。
「これで除霊は終わりました」
そう告げる住職の表情は穏やかだった。
「取り壊してもらって大丈夫です」
その言葉に信愛は安堵の息を漏らした。
「ありがとうございます」
「いえ、礼には及びません」
住職は柔らかく微笑む。
若い村民は念のため確認するように尋ねた。
「じゃあもう、取り壊しても大丈夫なんですか?」
「はい・・もちろんです」
その返答を聞いた若い村民は、大きく頷く。
「分かりました!」
こうして離祠の儀式は無事に終わりを迎えた。
その後、解体された祠は軽トラックへ丁寧に積み込まれ、天虎村へと運ばれていった。
コメント
1件
第110話、読みました。離祠の儀式、静かで丁寧な描写がとても良かったです。信愛さんが「待ってください!」と叫ぶところ、あの慌てた感じがかえってリアルで、祠をただ壊すだけじゃない彼らの真摯な姿勢が伝わってきました。住職の読経の一文一文も、ちゃんと意味が込められている感じがして、世界観に引き込まれましたね。次はどうなるのか、気になります。