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ティオ夫妻の家を出発した後。
ローパーに襲われる程度で済んだ柊也とルナールが、何となくギクシャクした空気のまま神殿の敷地前に無事到着した。元の世界の各地に点在する神社の様に自然に囲まれた広い敷地に、小さいながらも厳かな白亜の洋風神殿がドーンと建っており、柊也が言葉を失った。同じ敷地内には涅槃の大仏っぽい像、シーサーによく似た二対の狛犬などといった多種多様な物と、赤い鳥居が門のように共存しているせいで彼の感じる違和感が一層大きくなる。
何なんだ?この取り合わせは……と、柊也は遠い目をしながら思った。
「どうかしましたか?トウヤ様」
「……無い、コレは無い。壊滅的にセンスが悪い……無いって。方向性を絞ろうよ!王都の主神殿はアレで、地方はコレって。何があったの⁈——はっ!よく考えたら“神殿”に“巫女”が居るって時点でおかしかった!主神殿も充分迷走しとった!」
ぶんぶんと首を横に振る柊也を、ルナールが不思議そうな目で見詰めている。彼にとってはコレが『普通』なので、柊也が何に対して『無い!』と言っているのか全くわからなかった。
「えっと……もしかして、トウヤ様の世界は一神教なのですか?」
「んーそうとも言えるし、そうでは無いとも言えるかな。国や地域によって信じる対象が違うからね。僕の家は特にどこも信仰していなかったけど、正月になれば神社にお参りには行くし、お葬式はお寺さんにお願いしたりするしなぁ。一神教を信仰している人もいれば、多神教を信じる人もいて、全くそういったものには関わらない人もいるから、僕が育った国では『個人の自由』って感じだったかなぁ。こっちは……どう見ても、多神教みたいだね」
色々とごった煮状態の敷地を見ては、違うと勘違いのしようもない。
「はい。この国は八百万の神々を信仰しております。なかなか難儀な性格をなさった方々ばかりなのに御機嫌を損ねられると即天罰なので、信仰は生活に密着したものの一つです。魔法なども加護を得られればかなり強化出来るので、それらに関わる職種の者程、八百万の神々を大事にしております」
「あはは、まるで神様に会えるみたいな言い方するねー」
「えぇ、実際お会い出来ますからね」
「……は?」
「トウヤ様の世界では、もしかして拝顔出来るのは貴族階級からなのですか?」
「いやいやいや!見た事がないからこそ『んなもんは居ない!』とも言い切れないけど、僕が知る限りでは、どんな人だろうが会える存在ではないよ⁈——だって、相手は“神様”だよ?」
「トウヤ様の世界では、皆様お忙しいのでしょうかね?こちらには、それこそ八百万もいらっしゃいますからねぇ、会えない方が、私からしたら不思議な気分です」
「わーお……」
驚く柊也だったが、魔物が存在している時点で、神だろうが精霊だろうが妖精だろうがいるよなぁという考えに辿り着く。でも召喚獣であるレーヴが『妖怪に会いたい!連れ帰ったら延滞を挽回出来るかも!』と騒いでいた事を考えると、それらの存在は居るにしてもかなりのレアポップなのだろうなぁとも思った。
「逢ってみたい、ですか?」
「え?僕でも会えるの⁈」
「……龍属でしたら、まぁ。正確には『下っ端の、神みたいな者』くらいな程度ですが」
「会いたい!あ、でも神罰下る?んな見世物見たさみたいな反応なんかしたら」
柊也の『会いたい』の一言が胸に響き、ルナールの頰が少し桜色に染まった。彼の不可思議な反応に柊也は気が付きはしたが、頰を赤らめた理由まではわからなかった。
「いいえ、かなり深く抱きつかれはしますでしょうが、天罰の心配は不要ですよ。むしろ、過剰な加護を注がれる事は回避出来ないでしょうけどね」
「……注がれる?」
(『洗礼だー』とか言って聖水でもぶっかけられる、とか?だとしたら随分とアグレッシブな神様だな)
首を傾げる柊也の肩を後ろから軽く抱き、「さ!暗くなる前に中へ入りましょうか」とルナールが声をかけた。
ちょっとやってみたい事を言葉にし過ぎたなとルナールは少し心配だったが、柊也にはイマイチ意味が通じてない事が表情から読み取れ、安堵した。ルナールが『逢える』と言ったその対象が誰かなども、柊也には推測出来ていない事も明らかだった。
「此処……随分静かだけど、勝手に入っても平気?」
「『入るな』とも言われていませんから問題ないでしょう。そもそも、【純なる子】であるトウヤ様を門前で追い払うなど、私がさせませんけどね」
ぐいぐいと背中を押されながら、柊也とルナールが敷地内へと入って行く。
神社の様に丸い砂利を敷き詰めた通路の端を歩き、鳥居を超えた時に一瞬だけ柊也の肌に静電気のようなものが走ったが、それは結界を通過した事によるものだった。各地にある神殿にはその地域を守護する土地神の加護を受けた品々も多く置いてあるため、悪意ある者は全てこの結界により弾かれ、敷居を跨ぐ事すら出来ない。広い地域を少ない人数で管理しており、此処のように、駐在人の居ない神殿の方が全国的にも多いのだが、ルナールはそれらの説明を端折った。
「鍵は?建物に鍵がかかっていたら入れないよね?誰かに連絡して開けてもらうの?」
「そんな物があるとは聞いていないので、ないと思いますよ?——あ、ほら」
ルナールが扉に手をかけて引っ張ると、難無く開いた。
ぱっと見た感じは海外にある教会か、結婚式場を思い起こさせる白を基調とした綺麗な内装をしていて、美しい神殿の中身までは『信仰対象のごった煮』状態ではないみたいだ。
ルナールが柊也の手を引きながら入って行く。掃除はきちんとされており、埃っぽさなどは皆無だ。大きめな天窓からは広い室内へ光が差し込み、その光がベールのように美しい。
「いいのかな……本当に」
「いいんですよ。そんなに心配でしたら、今からウネグ様に許可を頂きましょう」
「是非そうしよう!僕の気持ち的にも、ちゃんと許可が出ないとくつろげないし」
室内最奥の中央部に置かれた大きめの石像の側までルナール達がやって来た。
湖が近いからか、神殿内に祀られている神様は龍神様みたいなのだが……やっぱり『コレを教会っぽい内装に祀るのはオカシイだろう!』と、柊也は陶器のように艶やかな神像を見上げながら思った。街並みや美術品、服装など、古風ながらもファンタジー感満載の美しい物ばかりなのに、何故各地の神殿だけはこうなった⁈と、どうしてもまた考えてしまう。せめてこれが西洋風のドラゴン像ならば話は違うのだが、東洋風の龍神様なので雰囲気と合っていない。
(気難しい御方ばかりだとルナールは言ってたけど、絶対この世界の神様ってのは、寛容性の塊だわ!)
相も変わらず不満を抱く柊也の横で、ルナールが探し物をするようにキョロキョロと周囲を見ていた。
「あ。トウヤ様、ありましたよ、“水晶球”」
「“水晶球”?」
『占いでもするのかな?でも、なんで今?』と柊也が疑問符が頭に浮んだ。そんな柊也の顔を見てルナールは、これが柊也の世界には無い物の一つである事を察した。
「これを使えば、遠くに居る者と連絡を取る事が出来るんですよ。他にも“遠見の鏡”といった品もありますが、鏡の方は一方的に監視するくらいにしか使いませんね」
「へぇーこんな形してるけどビデオ通話みたいなこと出来るのか、凄いね。どんな作り——って、どう考えたって魔力がどうこうってやつですよねぇ」
構造の不思議さを推測する楽しみをすぐに捨て、ルナールの顔を柊也が見上げる。顔には『んで、これはどうやって使うの?』と描いてあり、そんな表情が可愛いなぁとルナールがニヤけた。
「『ウネグ様、ルナールです。今お話は出来ますか?』と、こう手をかざし、魔力を少し流しながら呼びかけるんです」
「え!それじゃあ僕には使えないじゃんっ」
魔力の無い柊也がガッカリし、項垂れる。でもルナールは、柊也が隠れて誰かと連絡を取る事が出来ないのが嬉しくって堪らなかった。
「まぁまぁ、使ってみたい時は私が手伝いますから。ね?」
そうすれば内容を把握出来るなとルナールは考えているが、柊也がそれを察する事はなさそうだ。
「ありがとう、ルナール。やっぱり優しいね」
軽く涙目になりながら柊也がルナールの袖をぎゅっと掴んだ時、水晶球に応答があった。
バスケットボールを少し小さくしたくらいのサイズの水晶球いっぱいに、ウネグの迫力あるスキンヘッドと厳つい顔面が大きく映し出され、神殿内の何処に居ようが聞こえそうな程の声が響き渡る。頭の中でキーンッと耳鳴りの様な音が鳴り、顔の側で銃を発射されてしまった時のように柊也は音が一瞬聴こえなくなった。
体がふらつき、柊也がルナールの方へ軽く寄り掛かる。彼がそこに居なかったら、柊也は大き過ぎた音のせいで床へへたり込んでいた所だった。
ルナールの方はといえば、こうなる事を予測していたのか、事前に獣耳を伏せてあったみたいでわりと平気そうだ。そんなルナールに対し、『こうなるかもって一言言って欲しかった……』と柊也がジト目になっている。
「ウネグ様、小声でお願いします。トウヤ様の耳はとっても繊細なので」
『おぉ、それは大変失礼を。久々の対面が嬉しくって、つい。はっはっは!』
小声で頼んで、やっと普通のボリュームだった。『ウネグさんは内緒話など出来ないタイプだな』と柊也は思ったが、もちろん口にはしない。
「お久しぶりです、ウネグさん。こちらからあえて訊くまでもなく、お元気そうですね」
『もちろんですぞ!生まれてこのかた、不調を感じた事など一度もないのが私の誇りですからな』
柊也の挨拶し対し、腕を張ってウネグが言う。納得の一言に柊也がくすりと笑った。
「ウネグさん、あの……今地方にある龍神様の神殿に来ているのですが、こちらで一晩休ませて頂いてもいいですか?此処には管理者がいらっしゃらなくって、勝手にもう入らせてもらっているんですけど」
『結界内へと入れている時点でもう土地神様の許可がおりてますので、どうぞご自由に』
「ね?平気だったでしょう?」
「……なんかごめん」
ルナールに対し柊也が小声で謝ったが、『僕は基本的に小心者だからコレは必要な儀式だったんですー!』と内心では思っていた。
『そうそう、丁度お二人に御報告があったのです。よいタイミングでご連絡を頂けたので助かりましたぞ』と、ウネグが無駄に水晶球いっぱいに顔を映し出したまま言った。
何だろうか?と柊也とルナールの二人が顔を見合わせる。こちらが報告すべき事はあっても、向こうからとなるとちょっと思い付かない。
追加の従者の話ではなければいいが……と、ルナールは思った。
『実は、二人目の【純なる子】を召喚獣ウルススが発見し、こちらに送り込んできた、らしいのです』
ウネグが『らしい』の部分を過剰なまでに強調した。
「……“らしい”?」
『はい。正式な報告が神殿にも王城へすらもあがっておらず、風の噂で聞いた程度だったのです。が、エゾ地方から来た者が口を揃えて「【純なる子】が呪いを解いてくれた!」「一瞬で全て解決した!」と触れ回っているのです』
「蝦夷地方って事は北海道か。でも、そんな遠くまで僕達はまだ行っていないですよ?」
柊也が元の世界の地図を頭に浮かべ、置き換えて考え、それをそのまま声に出してしまった。
『存じております。各地の巫女や神官達からトウヤ様の御活躍は随時伺っておりましたからな。ですので、不思議に思い、間者を送った所「それっぽい者に、なんでか“アレ”が常に一緒なので、探るのも難しい」と、解読難儀な短い答えしか返ってこず、しばらくはらしいのままだったのです。だがしかし、間者の言った“アレ”が何者かはすぐに察しがついたので直接“本人”に訊いた所、確かに【純なる子】はカムイの街に居るそうですぞ』
「おぉ!……あれ?……という事は、僕は——」
一瞬とても嬉しかった柊也だったが、『ギリ適正でしかなかった僕は、もう用済みって事?』と考えてしまった途端に、彼の目の前が真っ暗になった。