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さなみき
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『また、今日もかけなかった』
今夜で3度目になるこの言葉。
物書きである私にとって、そのようなネガティブな口癖が生まれてしまうこと自体が致命的で。
知人という知人にかけ合うなり、行事ごとに誘い出すなりした。
ある者は珍しいと言った、普段は大人しいお前が、と。
またある者は喜んでいた、中々イベントに来ないお前が、自分から…と。
それでも。
結果として何も思い浮かばないどころか、友人が2人ほど減ってしまった。
歳を重ねていくうちに脳みそが凝り固まってしまったようだった。
そろそろ、堅実な生き方を学んでみるというのも経験かと、何度も思い直そうとした。
『まだ、夢を見ていたいと思うのは、私の勝手だろうか』
勝手だろう。
それは明白だ。
外から聞こえる雑音が徐々に煩わしさを増す。
私はそそくさと起き上がり、ベッドから降りた。
隣で安らかに眠る娘を少しだけ見て、髪に触れた。
『………高校受験、合格だったか。』
目を逸らす。
若干の罪悪感がないわけではなかったが、もう遅い。
クローゼットの前に向かうと、扉を開いて迷いなく防寒着を手に取る。
外では、雑音がさらに五月蝿さを増す。
最後くらいエアコンをつけておくべきだっただろうか。
『…。』
廊下へ続く扉を開く。
出ていく前に、もう一度ベッドのほうを振り返った。
どう説明したところで、取り返しがつかないのは明らかだった。
『最初は、お前を食わすために奔走していたのにな。』
もはや、一種の日課と化してしまっている。
『最高の作品を作るためだ。』
そのために、私は今日も、最低で最悪なことを。
悪辣外道な散歩を。
もう、それが必要なくなったらしい相手のためにしてこようと思う。
・・・・・
『きっと、今日も書けない。』
『口喧嘩の拍子に娘の首を絞めて殺めた主人公の小説。』
『その前は、旧い友人との金銭トラブルで彼女を殺害した主人公の逃亡物語。』
『…つまらないだろうな。』
最低で最高の作品を。
コメント
1件
うわあ…これ、めちゃくちゃ重たい一話でしたね。設定の仕掛けに惹き込まれました。最後の3行で「書けない」と言いながら、実は真っ黒な殺人小説を何作も書いてきた主人公の背中が浮かぶ。“悪辣外道な散歩”が何なのか想像すると背筋が冷えます。タイトルの「最低で最高な作品を。」が、このラストで鮮烈に炸裂しました。続き、気になります。