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「行ってらっしゃいませ!」
3人の背中を頭を下げて見送りながら、橋本はあることを考えていた。
新規の枠が、ひとつだけ空いている現状を打破すべく、あの3人のうちの誰かに声をかけて、専属ドライバーの提案をしてみようと思った。
部署の中でも優秀な証券マン。間違いなくいい給料を貰っているので、金はあるだろう。そんな上客を顧客にしたい。いや、顧客にしなければ。給料アップのために――。
橋本の今の楽しみといえば、通帳を眺めることくらいしかなかった。
学生時代は、 男子校だった関係で、同性と恋愛に興じていたが、大学生になってからは、女性とも恋愛するようになった。
異性と同性の両方に、好意を寄せることについて違和感がなかったし、性行為に関してもそれぞれの良さがあったので、普通に抱くことができた。
社会人になってからは、異性との出逢いが増えたため、必然的に同性との性行為がなくなった。
サラリーマン時代に、そんな出逢いの中から結婚したい恋人ができたのだが、相手の女性にその気がなくて、振られることもしばしばあった。
そうなると、女なんてもういらないと自暴自棄になり、ハッテン場にて男漁りをして、一夜限りの関係を続けた。それだけじゃなく、女性との出逢いを絶つために、ハイヤーの運転手になった。
表面上は、女のコ好きを公言しているため、知り合いに声をかけられて、合コンによく顔を出していた。実家の両親が口を揃えて告げる『結婚はまだか?』という言葉を回避するための、橋本の建前になっていた。
そんなプライベートが充実しないせいで、仕事に精が出てしまう。
考え事をしていたら、余計なことを思慮しなくて済む。寂しい現実から目を逸らすのには、打ってつけだった。
1時間弱の運転の間に交わした、3人それぞれの会話を、ぼんやりと思い出す。
(狙うなら、会話が一番弾んだ榊くんだろうな――)
母校の先輩の権力をかざせば、難なく契約が成立するだろうが、そういうもので彼にいうことをきかせることが、なぜだか憚れた。もっとフレンドリーに、尚且つ断りにくいものを提示して、契約にこぎつけたい。
ゴルフ場の駐車場で待っている間に、橋本は頭の中でいろんな戦略を考えついたのだった。