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Side 大我
今日は久しぶりに朝から動悸があった。ベッドから起き上がっただけでも苦しくなりそうで、また寝転がる。
俺が起きてこないのを心配してか部屋に入ってきた母親は、眉をひそめた。
「無理そう?」
俺はうなずく。頓服薬飲んどきなさい、と言い残して出て行く。
学生鞄の中に入っているピルケースから薬を取り出して、口に含んだ。
昼くらいには治まりそうな予感がする。長い経験があるからそれなりにわかるんだ。だから午後はしっかり勉強しないと。
大人しくしばらく寝ていると、枕元に置いてあるスマホの着信音で目が覚めた。
画面を見ると、樹からの電話だった。今の時間ならもうとっくに授業が始まっている。ということは……。
「もしもし? 休みでしょ?」
『ああ、よくわかったな』
そう笑い声が聞こえてきた。
『ちょっと昨日発作起こしてから不整脈がひどくてさ。なんか起きるのもめんどいし。んで、きょもは行ってるかなってダメ元で掛けてみたら行ってなかった』
「ナイスタイミング」
彼らしい理由でくすりと笑える。
「声は元気そうだけど」
『あー、まあ。今は大丈夫。きょもは?』
「俺も動悸がさ」
ほかの人が聞いたら高齢者の会話かと思われるだろうが、一応高3だ。
そっか、と樹はからりと言う。
『ベッド?』
「うん」
『一緒だな』
俺と全く同じく寝転がってスマホを耳に当てている樹を想像して、何だか面白くなる。
すると、
『…なあ、俺ってさ』
急に冷静な声になって訊いてくる。
『俺らってさ』
なぜか少し言い換え、黙り込んだ。
そんな様子はみたことがなくて、動揺する。
「…どした?」
『普通の大人になれるのかな』
え、と乾いた声が漏れる。
樹は明るい性格だし、やんちゃな見た目をしている。だけどそんなことを真面目に言うものだから、
「何で?」
声のトーンを落として理由を尋ねた。
『だって、一生付き合っていかなきゃなんねーじゃん。だから仕事とかできんのかなぁって。……ごめん、こんな重い話嫌だよな。ちょっと思っちゃっただけだから』
やっぱり、教室であの発作を起こしてから何かが違う。
どうしたんだろうか。
「樹」
俺は言葉を探しながら、
「普通って人それぞれじゃん。だから、別にこれでいいんだよ。俺らにとって大切なのは、生きるってことだから」
恥ずかしくて小声になっちゃったけど、樹は笑声を上げた。
『…ハハッ、お前いいこと言うな』
「そうか。それなら良かった」
『ん。じゃ、明日は学校で会えるといいな』
そうだね、と答える。じゃあな、ともう一度声がして電話は切れた。
少し心が軽くなっていた。
明日も生きる。
明日も、樹と一緒にいられることを信じて。
カーテンの開いた窓からは、雲の切れ間にのぞいた太陽の光がわずかに降り注いできた。
続く