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「守満《もりみつ》様、では、几帳は、守恵子《もりえこ》様の前で?」
「うん、これなら、守恵子の姿も見えない。上野に叱られる事もないだろう?気兼ねなく、守恵子も、私達と話が出来るしね」
守満は、御簾の内へ移る難儀さを考慮していた。男と違い、女の衣装は動き辛い。そして、日がな一日、房《へや》の中、御簾が降りた薄暗い場所に閉じ込められていては、滅入るだろうと、作法、習慣も、分かっているが、兄として、守恵子に気を配ったのだ。
それに、上手い具合に、気のおけない面子が、勢揃いしている。
これを、逃してなるものか。しがらみから、放たれて、好き放題話が出来ると、守満自身の心も踊っていた。
そして、あの、師匠と、尊んでいた琵琶法師の行い。晴康《はるやす》は、何故、分かっていたのだろう。相変わらず、表方からは、琵琶の音が流れて来ている。
何を企んでいるのだろうか。守満が、不審に思っていると、
「あーー!紗奈《さな》!それは、大学寮からお借りした書物だぞ!なんで、噛んでるんだよぉ!!」
「なっ!兄様!私が、噛む訳ないでしょう!おぶって頂いている時も、しっかり守っておりましたっっ!!噛んでいるのは、タマですよっ!タマ!」
「あーー!もうーー!タマだろうが、お前だろうが、一緒だよっっ!!どうしてくれるんだぁ!!!」
常春《つねはる》が、異常に取り乱している。
原因は、言葉通り、借りて来た書物を、守恵子が飼っている子犬、タマに、ガリガリと、かじられてしまったことにあるようだ。確かに、大学寮の書物となれば、これは、一大事。
「では、大納言様が、かじったことにすればよろしい。さすれば、どなたも、文句は、言えませんでしょう」
晴康が、口を挟んで来た。
「えええーーーー!なんで、大納言様がっ!!」
「上野様は、いちいち大げさなんだから」
「ハハハ、これは、面白い事になった!守恵子、お前、どう思う?」
「守満様!また、守恵子様に、余計な知恵をつけようとなさるっっ!!!」
まあまあ、と、守満は、怒る上野と、放心状態の常春をなだめながら、ではと、騒ぎの火付け役、晴康を伺った。