テラーノベル
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青空の彼方で光るのは。
カキーンッ!!
金属に固いものがぶつかる、軽快な音。夏休みのグラウンドで、その音は鳴り響いている。
野球部の練習だ。今日は吹奏楽部も陸上部も居ない。グラウンドで大きな音が鳴るのはバッティング音の他に何も無く、サッカー部も思わず野球ボールを追いかけるほどその音は目立っていた。
翠「 やったぁ!ヒットだぁ~っ!! 」
「 やるじゃん、翠~っ!! 」
そしてその軽快な音を鳴らしていたのが、ヒットだヒットだと騒ぎ立てているスイカ頭の翠。俺の幼稚園からの幼馴染で、野球が大好きなインドア。ちょっと矛盾。
茈「 …い~なぁ、 」
「 こら、集中。 」
茈「 はぁい、… 」
かく言う俺は、夏休み前の定期テストで赤点を取ってしまい、補習の最中だった。
翠と旅行の予定等々頑張って立てたものがあったのだが、しばらくは補習が入って殆どがパァ。その代わり翠は練習に励めているようだが、少しくらいは寂しがってもいいんじゃないかと思う。
と言っても、ああ見えてかなり薄情な奴だ。そんなこと考えないんだろう。
茈「 …ん、? 」
翠「 、!! ( 笑顔 手振 」
茈「 っふは、…w ( 振返 」
面白いやつ。
茈「 は~っ、がち補習だり~。 」
翠「 赤点取ったのは茈ちゃんだよ~? 」
茈「 ぅっ、ぐ… 」
俺の怠けた発言に、刺々しい正論で刺してくる翠。こういう所が辛辣なんだよな。
しかし言っていることは事実だし、俺が言い返してもまた言い返されるだけ。長年付き合っているのもあって、それぐらいは理解出来る。
ジリジリと俺たちの肌を焼き付けるように日差しを振り注ぐ太陽は、夏の怠さすら無視して、にっこりと笑って輝き続ける。紫外線で焼けるわ、馬鹿野郎。
セミの大合唱と、冷やし中華の張り紙と、照りつける日差しと、汗ばんだ服。
そのどれもが夏というものを表していて、数ヶ月前の冬なんてとっくに通り過ぎたのだと実感を持たせに来る。
翠「 …アイス、買う? 」
茈「 ん、買う。俺ソーダ。 」
翠「 俺スイカ~♪ 」
近くのコンビニに入ると、別世界のように冷風が俺の汗を冷やしてくれる。サウナの後の水風呂みたいな、温まってた体が冷えていく感じ、好きだな。
アイスコーナーに行ってお求めの品を探したのだが、あいにく売り切れているらしい。
茈「 え~…… 」
翠「 他のソーダ味食べよ、ね。 」
翠「 バリバリ君じゃなくてもいいじゃない。 」
茈「 ……ぅん、 」
そんな翠の言葉に負けて、俺は仕方なく、違うアイスのソーダ味を手に取った。
その瞬間、頭上からにゅっと手が伸びてきて、俺の手元にあったアイスを取り上げた。見上げてみれば、翠が俺のアイスを取ったようだった。
なぜだ、と聞くと、俺がお求めのアイスにたどり着けなかったから奢ってくれるらしい。別にそんなことで奢らなくてもいいんだけどな。
いいからいいから、と、俺は先にコンビニの外で待たされた。いやあちぃよ、入らせろ。
翠「 はい、公園で食べよ? 」
茈「 …ん、 」
翠が言っていた公園とは、俺たちが小さい頃から遊んでいる公園のことだ。
閑静な住宅街の中にある物静かで小さな公園で、あまり子供も来ないから快適な穴場だ。遊具は鉄棒と滑り台だけ。あとはベンチがいくつかあるくらい。
茈「 …ぅわっ、垂れてきた… 」
のんびりアイスを食べていたら、溶けてきて手に垂れ始めた。
ったく、夏というのは本当に付いていない。食べたいアイスは溶けて、暑さのせいで勉強も運動もろくにやる気が出てこない。全部太陽のいたずらだな、コノヤロウ。
そんなことはさておき、急いでアイスを食べないと。
翠「 …ん、 ( 手舐 」
茈「 ぅひゃッ”…、、!!? ⸝⸝ ( ぞわっ 」
翠「 んん!ソーダも美味しいね! 」
茈「 ~~~ッッ” ⸝⸝ 黙れ変態!!!” ( 肘打 」
翠「 いたぁっ!?酷~い!! 」
人の手を舐めておいて、何がソーダも美味しいね!だ。ふざけてんのかコイツ。
中学に入った辺りから、翠は少し変わった。異様なほど俺と共に行動しようとして、家以外は俺と一緒に居るようになった。
気になって本人に聞いたことがあった。突然どういうつもりなのか。
…知らなくていいよ。と、翠は小さく微笑んだ。その笑顔が、今までにないくらいに不気味な笑顔に見えて、「これ以上詮索するな」と、圧をかけられたようで。
気圧された俺は、その後なんの会話も弾ませることができなかった。
茈「 人の手舐めんじゃねぇよ、 ( 怒 」
翠「 ごめんなさぁい、 」
茈「 ったく……、 」
翠「 ふふ、可愛いねぇ、 」
茈「 …るせ、 ⸝⸝ 」
一体こんな俺のどこが可愛いと言うのか。
昔からそうだ、翠は俺にやたらと可愛いという言葉を投げかけてくる。小学校高学年の頃には日常的な会話でも言われるようになっていた気がする。
別に特別嫌な気がしている訳でもないのだが、自分に可愛いところがひとつも見つからないので少しむず痒いというかなんというか。
褒められること自体は好きだ。うん、結構好き。
茈「 …ぁ、大会までには補習終わらせるから、 」
翠「 !頑張れ、 ( 笑 」
茈「 …ぉわ、すごぉ… 」
街中のこぢんまりとした球場で、翠が出る試合を見る。
3年生にして初めてメンバー入りしたらしく、昔からアイツの野球に熱心な姿を見てきた俺にとっては、自分の初メンバー入りと同じぐらい喜ばしいことだ。
翠は5番目らしい。今は4番が出ている。
茈「 …あ、翠。 」
翠「 ……… 」
集中してる。険しい顔だ。
ちゃんとユニフォームを着て試合に出ている翠を見て、なんだかいつもよりかっこよく感じてしまう。そんな衝動に何かと理由を付けては、目を背けていた。
いつものスイカ頭もヘルメットで見えなくなっている。少し残念。
_カキーンッッ!!!
茈「 、!わぁ……っ! 」
翠が打ったその球は、相手のピッチャーの頭の上を通って、センター上空に放物線を描きながら、向こう側の観客席に入っていった。
…ホームランだ。 5回裏3-0、ツーアウト満塁ホームラン。
塁にいた人が全員帰ってきて、翠も塁を回ってホームに帰ってくる。仲間たちとハイタッチをする翠は、満面の笑みで嬉しそうだった。
そんな中、急に客席を向いたかと思えば、バチッと目が合った。
茈「 !お・め・で・と・う、!! 」
翠「 …スゥーーーッ、 」
翠「 茈ちゃあ”ぁぁ”ぁんッッ”!!!! 」
茈「 うわぁ”っ!? 」
翠「 ずっと、ず~っと前から”ッ!!! 」
翠「 大好きでしたッッ”!!! 」
茈「 …ぇ、ッ 」
翠「 付き合ってくださぁ”ぁい”ッッ!!!! 」
困惑。この一言に尽きるだろう。
えっと、?翠がホームランを打って、仲間たちとハイタッチしてて、俺と目が合ったかと思えば、大声で、告白…して、きた、…
やばい、自覚したらなんか恥ずかしくなってきた。
茈「 ~~~ッッ” ⸝⸝⸝ 」
翠「 はぁ”ッ、はぁ”っ…… 」
茈「 …ッぉ、俺も”っ! 」
翠「 、! 」
ずっと無視をし続けてきたこの気持ちに、答えが出たような気がする。
ごめん、ずっと逸らし続けて、突き放し続けて。勝手に理由を付けて見ないようにしていただけなんだ。本当はずっと気づいていたのに。
ねぇ、今から届けても遅くないかな。
もう翠は教えてくれた。あんな綺麗な景色を見せてくれた上に、こんな大勢の前で。答えなくてどうするんだよ、俺。
確かにすごく恥ずかしいし、こんな所で目立つことするのも嫌だけど、
今答えなきゃ、後悔する。
茈「 だ、ッ….. 」
茈「 大好きですッッ”!!! ⸝⸝⸝ 」
翠「 !!やったぁぁ”~~~ッッ”!!!! 」
「 翠お前喜びすぎな~!! 」
「 まだ勝ってねぇぞ~!! 」
翠「 えへへ、 ⸝ 」
茈「 …… ⸝⸝⸝ 」
やば、自分で言っといてめちゃ恥ずい。
いやでも?あんな状況でそんなこと言われたら誰でもパニクるっていうか、驚いて本音が出ちゃった的なあれで、だから…ッ
茈「 ぅ”~、 ⸝⸝⸝ 」
…そんな理由、取って付けたって、
公開告白は、ずるすぎるでしょ…
翠「 茈ちゃぁんっ! 」
茈「 ん、試合おつかれ~、 」
翠「 頑張ったよぉ~! ( 抱着 」
茈「 ぅ、…ん、ッ ⸝⸝⸝ ( 撫 」
翠「 !あははっ、珍し~! 」
茈「 ッるせぇ、 ⸝⸝⸝ 」
あんなことされた後にまともな会話なんてできやしねぇよ!!
でも、泥まみれになってて少しぴっちりしたユニフォームと、額から流れ出る汗を見て、ちょっと胸が疼いちゃったり。
翠「 …大好きだよ、 」
茈「 …俺も、っ! 」
溶けるほど暑い、初夏の夕暮れ。
蝉達の大合唱を聞きながら帰路に付き、他愛もない話をしながら歩いていく。ただそれだけの時間でも、何故か心地よく、愛おしく感じられた。
日差しは変わらずニコニコと笑顔を絶やしていないけれど、そんなもの気にしない。
だってもう溶けたのだ。酷い暑さの七月の夕暮れ時、紅く、甘く、どろどろに、俺たちの恋は溶けていった。それはお天道様のせいかもしれない。
けれどこの熱は、心の奥で燻るこの熱だけは。
お天道様でも北風でも温度を変えられない、俺たちだけの熱だ。
青空に溺れる翠さんの熱。
太陽に揺れる茈さんの熱。
紅く染まって、甘く溶けて、二人の愛は成されゆく。
二人の熱が溶け、混ざりあってしまえば、
きっと夏の暑さだって、その熱は超えられない。
コメント
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めっちゃ大好きです!