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「……火災を使う、と、いうよりも、どうか、ここまで、に」
ただの出火ではなく、あやかし、絡みと、野次馬を謀っている。おそらく、今日、明日には都の噂になるだろうし、あやかしに憑かれた賊に、襲われたとなれば、これは、普通の賊よりも、質が悪いと、放置できない話になる。
もちろん、賊を捕まえる、ではなく、あやかしを、と、なり、都に降りかかった穢れを落とすと、下手すれば、勅命沙汰になかもしれない。賊退治、よりも、祈祷やら、何やら都中を巻き込んでの、大がかりな話になるかもしれない。
そうなると、琵琶法師も、何かと上の動きが、強化され、下手に動けず。恐れている、報復も、先の話になるだろうから、時間稼ぎはできる。
賊の罪、よりも、穢れに皆の目は行くはずだ。内大臣家の姫君の件も、あやかし、絡みで処理できるかもしれないが、それは、内大臣家の話──。
あやかしの穢れに乗じて、たちまちは、皆、おとなしくなる。そして、手も、切れるだろうが、その後は、敵対関係になるだろう。
しかし、そうなったとしても、この様な、禁中をも巻き込んでいるような物事からは、手を引くべきで、今なら、あいまいに、そっと、逃げる事ができるはず。
常春は、考えを巡らした。
とりあえずは、琵琶法師が、動いた根本、内大臣の、宮の奥へ唐下がりの香を、広めるという動きを、確実に止めること。
そういえば……。
通晴《みちはる》とかいう、内大臣家に、家司《しつじほさ》として、潜り込んでいた売人が、禁中をも手中にできる機会などと、くちばしっていた。
琵琶法師は、内大臣や守近ごときの権力ではなく、都ごと、いや、日ノ本の国の中枢から、乗っ取るつもりなのだろう。
そんなことは、させてはならないし、また、こちらも、関わっては、ならない。
「できれば、内大臣家に、恩を売って、そして、それきりに。さすれば、もう、内大臣様は、守近様の前には表れないでしょう」
「ふむ、やはり……内大臣様か。そうだな、あやかし、を使えば、穢れを落とすだ、なんだと、ほとぼりが、さめるまで身を隠せる。皆の同情ももらい、どうにか、面子は、保たれるが、その後、だな……」
常春の言葉に、守近も、何か思うところが、あったようで、考え込んでいる。
「……それから、のことは、守近様ご御自身でなされませ。我らが、ここまで、危険な目に合っているのです。事の発端を作ったと言える、守近様、あなたが、やらなければ……それに……」
「それに?」
常春の、様子に、何かを感じた守近は、注意深く、その先を問うた。
「守近様、私と紗奈《さな》は、御屋敷を、おいとま、致しとうぞんじます」
「……おいとま、とは、つまり、屋敷を離れると?」
はい、と、しっかり答える常春に、守近は、目を見開いた。
「とうとう、見切ったと……」
「……正直、それもあります。そして、紗奈が、危ない。琵琶法師の報復を一番先に、受けるのは、紗奈でしょう。妹を、守りたい。だから、御屋敷から、離れた方が良いのです。いえ、守孝様と、共にいたのは、御屋敷から、すでに、飛び出したが為。結局、行動を共にさせられましたが」
「そうか、常春は、屋敷を出た、のか……」
そうも、なるだろうなぁ、と、守近は、寂しげに言った。
「しかし、それだけではなく……どのみち、一度、国へ、帰らなければならなかった……」
「常春や?」
この一件とは、関係のない何か事情があるのかと、守近は、再び、常春へ、声をかけた。
「……文が着たのです。北の方様から……」
あれは、三月《みつき》ほど前のこと、常春の元へ、紗奈の実母である、正妻──、北の方より、文が届いた。
跡取りの、長兄が、狩の途中落馬した。常春も、何かと、お供することがあるだろうから、気をつけるようにと、達者にやっているかという類いの、ものだと思っていたのだが……。
事態は急変する。
長兄は、打ち所が悪かったのか、そのまま、床に臥したまま。寝たきりの状態であると、追って、あちらの、家令《しつじ》からも、文が届いたのだ。機会があれば、紗奈と一緒に、帰って来て欲しいとのことなのだが、真意は、かかれていなかった。
兄の見舞いに、訪れろ、つまり、それほど、悪いのか、はたまた、兄を見切ったのか……。
寝たきりでは、執務など、到底行えない。
今は、父が、家長、上野国の、国司として、治めているが、代替わりとなれば、さて、上野国が、譲られるかどうかは、お上次第。しかし、家は、確実に兄が、継ぐことになる。
寝たきりの体で、お勤めもだが、一族をまとめられるはずがない。
常春の、心配通り、里からの文は、増えて行く。
結局、親族は、正妻の子供である、紗奈に婿を取り、跡取り娘として、立てると、決めたのだった。
父には、側室、妾、に、子供がいる。常春も、その一人だが、正妻の子供、というのは、その、長兄と、紗奈、だけ。
揉め事にならないようにと、配慮してのことらしい。
正妻の子供、と、打ち出せば、確かに、やっかみは受けるが、何よりも、強い。逆らうことは、まず、できない。
後は、適した婿を見つけるだけだと……文は、常に、その一文で終わっていた。
あまりのことに、常春は、紗奈へは当然、誰にも、相談できなかった。
そもそも、どこまでの話かも、わからない。
まさに、帰って確かめない限り、動くに動けない話なのだ。
常春から、話を聞いた守近は、
「それは、また、難儀な話だな。守満のことは、適当に、対処する。お前達のことだ、納得の行くように動きなさい」
そうゆうことならば、一度、国に、帰るべきと、守近も、思っているようで、こちらのことは、もう、大丈夫だと、やけに気をつかってくれた。