テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第18話: 【検証】異世界の謎を調べてみた【都市伝説】
朝の村には、鍋の匂いが残っていた。
昨日の料理で、みんなの体は軽かった。
ロッカの動きは速くなり、リクの音は少し揃い、マヒロの声はよく伸びた。
ナギの頭も、いつもより言葉が並びやすい。
けれど、村にはまだ謎が多かった。
なぜ、投稿を見ると飛ばされるのか。
なぜ、投稿履歴が能力になるのか。
なぜ、転生タイムラインは勝手に更新されるのか。
なぜ、コメントだけは届くのか。
ミレナは朝から帳面を抱えていた。
「検証したいことが多すぎるわ」
ロッカは短く言った。
「危ない検証はするな」
「危なくない範囲で」
「その言い方が危ない」
ナギはスマホを開いた。
転生タイムライン。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
検証動画
異世界の謎
実験好き
ナギは顔を上げた。
「来る」
ヨミトが言った。
「実験回ですね」
ロッカがため息をつく。
「嫌な予感しかしない」
その瞬間、広場に小さな棒が落ちてきた。
次に、ひも。
次に、メモ板。
次に、丸い石。
最後に、人が落ちてきた。
「落下時間、約二秒。地面の硬さ、中。痛み、あり。では検証します」
ナギは思わず言った。
「もう始めてる」
その人は立ち上がり、服についた土を払った。
「検宮トオルです。検証動画を投稿してました。噂、裏技、生活の疑問、やってみた系、危なくない範囲で調べるのが好きです」
ロッカが前へ出た。
「危なくない範囲を守れ」
トオルは真剣にうなずいた。
「守ります。失敗したら検証になりません」
ミレナの目が輝いた。
「分かる」
ロッカがすぐ言う。
「分かり合うな」
スマホが震えた。
能力名
検証ラボ・フィールド
効果
異世界の現象を小規模に再現し、結果を記録する。
補正
仮説の明確さ。
安全対策。
記録の丁寧さ。
失敗を認める姿勢。
注意
大規模検証は危険度が急上昇します。
ロッカは画面を見て言った。
#魔道具職人
こはる
338
742
#異世界転生
しめさば
6,417
「大規模禁止」
トオルは即答した。
「はい。小さくやります」
ナギは少し安心した。
トオルは広場に線を引いた。
「第一検証。転生者の能力は、食事でどれくらい安定するのか」
まかなが鍋を持って出てきた。
「昨日の残りなら少しある」
トオルは目を輝かせた。
「助かります。比較対象が必要です」
ミレナが横に座る。
「記録は私もするわ」
「お願いします」
ナギは小さな木札を前に置かれた。
「ナギさん、まず普通にお題を」
「普通にお題って変だな」
トオルは言った。
「危なくないもので」
ナギはうなずいた。
「お題。世界一安全な実験道具とは」
答える。
「失敗しそうになると、自分から小さくなる道具」
木札が淡く光った。
小さな実験台が現れる。
少し揺れた瞬間、台はさらに小さくなった。
トオルは拍手した。
「成功。危険回避型」
ミレナが書く。
「大喜利実現、食事後は安定」
次に、ナギはまかなの温かい汁を一口飲んだ。
もう一度、お題を出す。
「世界一片づけやすい実験道具とは」
「終わった瞬間、箱に戻りたがる道具」
実験台は、ぽすんと小箱に収まった。
トオルの目がさらに輝く。
「能力安定、上昇。まかなさんの料理、効果あり」
まかなは少しだけ笑った。
「よかった」
桶が言った。
「検証してえらい!」
第二検証は、コメント欄だった。
ナギのスマホに転生タイムラインが開く。
トオルは画面の前に小石を置いた。
「コメントが現実へ影響するか、小さく調べます」
ロッカがにらむ。
「小さくだぞ」
「はい。小石だけです」
コメント欄に、現実世界の声が流れる。
「石、動く?」
「右に転がって」
「危なくないやつで」
小石が、ほんの少しだけ右へ転がった。
全員が黙った。
ミレナの手が震えた。
「コメントが……影響した」
ヨミトが目を細める。
「効果は弱い。でも、ゼロじゃない」
トオルは深く息を吸った。
「第三検証は中止します」
ナギが聞く。
「何で?」
トオルは真剣な顔で言った。
「コメントの影響力は危険です。今は石だけで止めるべきです」
ロッカが少しだけうなずいた。
「判断は正しい」
ミレナは悔しそうだったが、帳面を閉じた。
「中止も記録するわ」
トオルは笑った。
「中止は大事です」
その時、村の外でゴブすけが声を上げた。
門の先に、小さな裂け目のような光が浮かんでいた。
村人達がざわめく。
トオルはすぐ言った。
「近づかないで。まず距離を測ります」
カイが壁を作る。
ミチルが目印テープを出す。
ツクルが注意札を書く。
近づかない。
触らない。
投げ込まない。
トオルはひもを結んだ木片を、そっと光の近くへ滑らせた。
光は揺れた。
木片は消えずに戻ってきた。
「吸い込まない。熱もない。音は?」
ソウマが耳を澄ませる。
「低い通知音に近い」
ナギのスマホが震える。
転生タイムライン
未分類現象を検出。
トオルは画面を見る。
「この光、転生タイムラインの残り香かもしれない」
ナギは眉を寄せた。
「残り香?」
「誰かが飛ばされた後に残る、通路の跡みたいなもの」
ヨミトが言った。
「触るとイベント発生しそうです」
ロッカが即答する。
「触るな」
トオルもうなずいた。
「触りません。観察だけ」
だが、森の魔物が一匹、光へ向かって走ってきた。
こよりが叫ぶ。
「止まって!」
ゴブすけも門番として前へ出る。
教官車がぴっと鳴る。
光へ触れそうになった瞬間、ナギは叫んだ。
「お題! 謎の光へ突っ込もうとした魔物が、急に止まった理由とは!」
答える。
「検証前の注意書きを、なぜかちゃんと読んだ!」
魔物の前に大きな札が現れた。
検証中
触らない
見守る
魔物は止まった。
首をかしげた。
それから、こよりの方へ戻っていった。
トオルは息を吐いた。
「助かりました」
ロッカは短剣を下げる。
「危なかった」
トオルは光を見つめる。
「第四検証。これは今後の大きな謎です」
ミレナが静かに書く。
「転生タイムラインの通路跡。触れずに保管観察」
カイが光の周りに柵を作る。
ミチルが札を固定する。
ツクルが紙芝居で子ども達へ説明する。
ひなたが優しく言う。
「きれいでも、触らないよ」
子ども達はうなずいた。
夕方まで、トオルは村中の小さな謎を調べた。
しゃべる桶はどこまで褒めるのか。
教官車は何を危険と見るのか。
ゴブすけは何人まで確認できるのか。
笑顔予約券はいつ使えるのか。
ダンボールカーはどの重さでへこむのか。
まかなの料理効果は何時間続くのか。
結果は、全部がすぐ分かるわけではなかった。
分かったこと。
分からなかったこと。
危ないからやめたこと。
トオルは、全部分けて記録した。
ミレナはそれを見て、小さく笑った。
「検証って、答えを出すことだけじゃないのね」
トオルはうなずいた。
「分からないと分かるのも、結果です」
桶が言った。
「分からなくてえらい!」
ナギは笑った。
「桶、今日は深いな」
夜。
広場に、検証結果の札が並んだ。
分かったこと。
まだ分からないこと。
触らないこと。
後で調べること。
ロッカはそれを見ていた。
「こうして置くと、危険が少し減る」
トオルは言った。
「謎は、放っておくと怖いです。でも、雑に触るともっと怖い」
ナギはスマホを見た。
転生タイムライン。
検証動画
映像には、トオルが落下直後に検証を始める姿。
小さな実験で能力の安定を調べる姿。
コメント欄が小石を動かす場面。
謎の光を触らず観察する場面。
村中に結果札を並べる姿が映っていた。
コメント欄が流れる。
「検宮トオルだ!」
「ちゃんと中止してて偉い」
「触らない検証、大事」
「コメントで石動いたの怖い」
「ナギの注意書き大喜利助かった」
「ミレナ楽しそう」
「桶、分からなくてえらいは深い」
トオルは画面を見て、少しだけ笑った。
コメントが続く。
「帰ってきたら検証まとめ待ってる」
「危ないことはするなよ」
「中止も動画にして」
トオルは画面に向かってうなずいた。
「中止も、ちゃんと出します」
返信は届かない。
でも、コメント欄は穏やかに流れた。
ナギは謎の光の方を見た。
触れない。
まだ分からない。
でも、名前がついた。
通路跡。
観察対象。
危険区域。
分からないものが、少しだけ形になった。
スマホがまた震えた。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
異世界RTA
有名人に会う
ダンジョン踏破
お金持ちRTA
ヨミトが画面を見て、顔をしかめた。
「RTA勢です」
ロッカが聞く。
「何だ」
ヨミトは言った。
「ものすごく速く目的達成しようとする人達です」
トオルがすぐ言う。
「検証対象ですね」
ロッカが即答した。
「止める対象だ」
ナギは深く息を吐いた。
「次、絶対に走るな」
桶が言った。
「止める準備してえらい!」
夜の村には、結果札が静かに揺れていた。
転生タイムラインは、また次の投稿を準備している。
好きなことで、生きていく。
調べること。
試すこと。
途中でやめること。
分からないと書くこと。
それもまた、この世界では、村を守る力になった。
コメント
1件
第18話、めっちゃ良かった!検宮トオル、登場シーンからもうガチ検証勢のオーラ出てて笑ったわ。「落下時間約二秒」って即検証始めるの、完全に同類だよあれは(笑)。でもちゃんと危険なラインは引ける判断力あるのが安心感あった。コメントで小石が動いたシーンはゾクッとしたな…「コメントが現実に影響する」って設定、地味に怖くて好き。 桶の「分からなくてえらい」が一番刺さった。検証って答えを出すだけじゃないんだよな、分からないことを整理するのも大事ってトオルが言ってたの、めちゃくちゃ頷けた。次回のRTA勢、どうなるんだろう…走り回る前に止められるのか気になるわ🔥