がらがら、と店のシャッターを下ろし、鍵を掛けると翔太はのろのろと家路に着く。
あまり酒が得意ではないのに、今日は随分と客に飲まされてしまった。ふらつく脚で、よたよたと歩いていると、目の前を急に大きな影に塞がれた。
気づいた時にはもう遅くて、翔太はその胸にぶつかるようにして、バランスを崩し、その場に尻餅を着いた。
「いって……」
「ごめん!大丈夫?」
慌てて差し出された大きな手。
その、ごつごつとしているのに、優しい感触にはなぜか遠い記憶を呼び覚ますチカラがあった。引き上げられ、立ち上がると、目の前にはかつて別れたはずの男の姿。
「照……?」
「……え?翔太?えっ?まぼろし??」
翔太を見下ろす優しい眼差しは、かつて別れた岩本照、その人に見間違えようがなかった。
翔太の酔いが一気に醒める。
それでも脚元はやはりまだ少しふらついていて、照のがっしりとした腕が翔太の肩を抱いたままだ。
「お前、どうしてココに?」
翔太がおそるおそる尋ねると、いや、出張と、照は短く答えた。よくよく見ると、照は、地味なスーツを身に纏い、別れてからの年数分、しっかりと大人になっていた。
「……老けたな照」
「お前も。翔太」
「なんだと!!!!」
日頃、美容に気を遣う翔太は、自分から仕掛けた言葉に気づかず声を荒げる。照は少しも動揺せずに笑って彼を抱きしめると、耳元で優しく言った。
「嘘だよ、翔太は前よりもっともっと綺麗になった」
何を隠そう、この男、岩本照こそが亮平に半分血を分けた父親である。この地方都市で、この時、二人はいたずらにも再会した。
力尽くで離れようとする翔太を、照は強く抱いたまま離さない。そして、会いたかった、とまるで一人言のように呟いた。
二人が別れを選んだのは、翔太の一方的な最後通牒からだった。
『もう会わないから』
最後に電話で翔太は照にそれだけを告げると、ありとあらゆる連絡手段を断ち切り、突然、誰にも何も告げずに失踪した。
彼のその後の消息は、翔太の長年の幼馴染ですら知らされていなかった。
しかし、翔太が、入って間もない大学を突然辞めた後で、照は風の噂で翔太の妊娠を知ることになる。
居ても立っても居られなかったが、当時高校3年生だった照にはどうすることもできなかった。
かつては同じ高校の先輩と後輩で、いつのまにか好きになり、照が強引にアタックしてやっと手に入れた翔太は、当時から年齢よりも幼く、可愛らしく、しかし内面は、誰よりも大人で優しくて、みんなの憧れの的だった。
彼らが求め合い、愛を重ねたその営みの中で、子供だった自分たちが、まさか親になってしまうことがあるだなんて思いもよらなかったのだ。
遠いどこかの街で翔太が『自分の子』を一人で産み育てているのだと思うと、照はこれまでいつも胸が締め付けられるような思いがしていた。
それから15年の歳月が経ち…。
まさかこうしてまた再会するなんて夢にも思わなかった。照はこの機会を絶対に逃すわけにはいかないと、翔太に縋る。
「翔太、今どんな暮らしをしてるの?ちゃんと食べてるの?せめて電話番号だけでも…」
「離せよ」
翔太は強引に掴まれた腕を何とか全力で振り払った。
「お前こそ、今どうしてんだ?今年32だろ?結婚でもしたか?」
「してないよ」
きっぱりとことわる照に、息を呑む翔太。
その目には微かに動揺が見られた。
「結婚なんかしない。俺には今も昔も翔太以外考えられない」
そう言ってまっすぐに翔太を見つめる照の視線の強さに、翔太は自分の身体が熱くなるのを感じた。目には涙が溜まる。そして、翔太もまた、照を求め続けていたのだとその時初めて自覚した。
「なんだよ……かっこいいじゃん、お前…」
「もう大人ですから」
そう微笑むと、照はまた翔太を抱きしめた。
コメント
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えかっこよすぎん💛

ひゃー💛💙その後の展開気になります✨