「俺は今日は仕事で来てる。彼も一緒に」
ずっと気になっていた龍聖君の後ろにいた紳士的な男性が、3歩前に進んだ。
「ご挨拶が遅れました。龍聖さんと一緒に仕事をしている青山と申します」
青山と名乗った男性は、物腰が柔らかく、丁寧な話し方で好感が持てた。
「あっ、こちらこそ気になりながら、失礼しました。桜木 琴音と申します。龍聖君とは高校の同級生で……」
「同級生だったんですか。私はまた、龍聖さんの彼女さんかと思いました。珍しく龍聖さん、ご自分から女性に声をかけられましたから」
見た目は50代くらいか、青山さんはニコッと微笑んだ。私の緊張を見抜いて、ほぐそうとしてくれたのかも知れない。
「い、いえいえ、ただの友達……です。ね、龍聖君」
「ああ……友達。バスケ部の仲間なんです」
「それはいいですね。青春時代を一緒に過ごされたお仲間でしたか。お2人は久しぶりに会われたんですね? では、私はいろいろと見ておきますので、龍聖さんは少し桜木さんとお話してきて下さい」
そう言って、青山さんは私達から離れた。
「お仕事だったんでしょ? 良かったの?」
「ああ、大丈夫。あの人は、うちの客室部門で課長をしてくれてる。昔から、何人かいる俺の教育係のうちの1人」
高校時代にもスーツ姿の大人が龍聖君の周りにいたことは覚えているけれど、みんな教育係だったのか。
「青山さん、とても紳士的で素敵な人だね」
「あの人は、人間的にも立派だけど、良い品物を見極めるプロだから。今日は一緒にここで色々勉強させてもらおうと思ってた」
「勉強……?」
「ホテルで使用するタオルやガウン、化粧品に至るまで、お客様には質の良いものを提供したいと思ってる。今でももちろん自信を持ってるけど、どんどん良い物が生まれてくる世の中だから。常にアンテナを張ってないとダメなんだ」
そう語る龍聖君の表情はとても真剣だった。
「ホテル業界って、す、すごい世界だね」
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