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翌日、部活の買い出しのために駅前を歩いていた凌は、あるショップの前で不自然に足を止めた。
その視線の先にいたのは、ふっくらとしたお腹を愛おしそうに撫でながら歩く、一人の美しい女性だった。
「……栞さん?」
凌の声に、女性が驚いたように顔を上げる。凌の脳裏に、中学生の頃の、決して届かないと分かっていながら必死に追いかけていた淡い記憶が蘇った。
「……凌くん?」
「栞さん、お久しぶりです。妊娠されてるんですね」
「そうなの。生まれるのはまだ先なんだけどね。凌くんは今、高校生?」
「もう高3です」
「そっか、もう高3か。早いなあ」
栞は、あの頃と変わらない穏やかな声で笑った。凌の初恋の人。当時、彼氏がいた彼女を、凌は好きになってはいけないと自覚しながらも、中学生ながらに想い続けていた。
「あ……もしかして旦那さんは、当時付き合ってた人ですか?」
凌が慎重に尋ねると、栞は少し困ったように首を振った。
「……違うよ。別の人。元彼は当時はすっごい優しかったんだけど、私が働き出してからはだんだん変わっていって。……ヒモになっちゃったの」
「……まじっすか」
凌は絶句した。あの頃、彼女が選んだ「優しかった彼氏」が、その後そんなふうに変わってしまっていたなんて。大切だった人が自分に見せていなかった苦労を知り、胸の奥がチリついた。