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私は今、非常に煩わしい頭痛に見舞われている。頭だけでなく心臓までも遠慮なく握られるような痛み。しかしそんなものはこの手を止める理由にはならないのだ。カリカリ、カリカリ……ペンの音が頭を揺らす音に紛れて部屋に響く。机上の鏡に自分の顔が映った。目下の隈が数週間前より一層深くなっている。今だって、少し瞼を閉じればきっと夢の世界に行けるのだ。だが、無理だ。この仕事が終わらなければ、「あの子」に怒られる。何より、「あの子」の助けになりたい。そんな、現状を無理矢理打ち消すような表面だけの願望を、自分の気持ちだと刷り込む。………頭が痛い…。眠い。

ガタン。新調したばかりのお洒落な椅子を乱暴に引き、私は部屋の隅の戸棚に足を運んだ。上から数え2番目の引き出しをゆっくりと引く。そして、中から黒褐色の固形物を取り出し、キセルもどきにそれを入れる。

スゥ……………   落ち着いて、固形物を溶かしたものを吸った。

「あ、ふ…ふぅっ…!」

その瞬間、脳が快感に襲われる。先程の頭痛が嘘のように消え去った。まるで空気の良い野原を歩いているような気分。

あれ、どうして私はあんな面倒くさいことをしていたのでしょうか?自分にはこんなに疲れが溜まっていた…気がするだけだが。とにかく、寝ましょう。寝て、忘れましょう。

ふふっと満面の笑みを浮かべ、あんなに被るのを渋っていた布団を広げて自身の背中を覆わせる。頭の中はただただ心地よさが支配していて、「あの子」のことなど全て消え去っていた。







「う………んッ?」

目が覚めると齧り付くように向き合っていた机から景色が一転して、見上げた天井があった。私の背中を冷や汗がつたる。仕事を終わらせた記憶が無い。そもそもベッドに入った記憶すら無いのだが。私は悟った。また、自分がやってしまったということを。もう辞めようと決意した筈だった。どんなに頭が痛くても、眠くても、辛くても。絶対に、吸わないと。

「あ、教会、出ないといけませんね…」

時計を見てぼやけた視界を取り戻す。ぺちりと頬をひと叩き、自分を何とか躾けて足を進ませた。行き先は、自分が本業をしている大きな教会である。いつもは他の者に任せているのだが、今日は自分が行かないといけなかった。




「みなさん、おはようございます。」

「おはようございます、イギリス様!今日の礼拝は貴方が来てくださり嬉しいです!」

私が教会に入るなり、教徒の数人が駆け寄って来た。ぎゅ、と肩を抱いて、尻尾を振る犬のように身体を震わせた。浮き足立つ彼らの姿は、如何に待ち遠しかったのかを語っている。神父でありながら余り此処に来られない自分を恨めしく思うと同時に、来るたびに多くなるスキンシップに嫌悪感が増した。…と、そこに背後から刺すような視線が送られる。

「〜〜ッさ、あなたもそろそろ席にお着きなさい。始まりますからね。」

「はい、承知しました!」

最後の1人が席に着くのを確認し、先程の視線の主にアイコンタクトをする。眉間に皺を寄せた彼は、すぐにビジネススマイルに戻った。私はほっとして向き直り、礼拝の位置に着いた。


「〜〜♪〜〜♪〜〜♪」

聖歌が唄われる最中、あの子だけが口を開けず、只々こちらを見つめている。気まずくなり、視線を逸らす。

「………。」

普通、教徒には礼拝で歌を唄ってもらわなければならない。それをしないものにはきちんと指摘をする。だが、唯一あの子には注意ができない。いや、してはいけない。この教会の命運は、「あの子」が握っているのだ。そう、私の息子である、アメリカが。


アメリカの視線に耐えながら、私は記憶を振り返っていた。







一年ほど前だったろうかーー

私が神父をしている教会は、たくさんの慈善活動を行なっており、それを運営するために事業にも手をつけていた。その事業とは、主に他の都市との交易であり、元々私には経営の才があったのかもしれないと思う程それは上手くいっていた。だいぶ苦しかった教会を助けるため、少しだけでもと足を突っ込んだ世界でどんどん他の企業を抜き、気づいた頃にはこの街での1番の企業は私の教会になっていたのだ。思えば、その時からアメリカの視線が厳しいものになっていたような気がする。事情を聞いても全く答えてくれなかったけれど。

教会運営は上上、追い風が吹いていた。そんな時であった。

「イギリス様、すみません。今日の取引に行く予定だった者が急病になってしまい…生憎皆予定が詰まっていて、その…」

額を汗だくにして、助祭の者が弱々しくそう言ってきた。気まずいのか、おどおどとしていて情けない。なんとなく察した私はにこりと笑って答えた。

「私が行きましょう。丁度予定も空いているんです。」

すると、助祭は嬉しそうに何度も頭を下げ、腰を低くして部屋を出ていった。扉の音が鳴ったのを確認し、貼り付けた笑みを剥がす。一つため息をつき、取引に必要な資料をまとめ始めた。

今回の取引相手は、連合会社機密局、か。どうやら連合会社という大手の下請けらしい。そこで少し違和感が走った。連合会社とは、ここの街の組織であるはず。それが、どうして同じ街の教会と交易をしたがったのだろう。いや、取引を持ち込んできたのは本部ではなく下請けだ。何かしら事情があるのだろう。深く考えないでおこう、そう思考を放棄した。



カッ、カッ、カッ… 靴の音が少し埃っぽい廊下に響く。前に先導を置き、無駄に長い廊下を歩いていた。

「……けほ、」

あたりを見回していたせいで舞った埃でむずがゆくなり、少し咳を漏らす。

「すみません、清掃員の怠惰のせいでして。」

先導の者が口を開く。キリッとした見た目に反して随分と優しい声だった。

「いえ、問題ありませんよ、えーと、」

「アイスランドと申します。どうぞよろしく、イギリス様。」

「こちらこそ。」

恐らく彼方も上っ面であろう。自分もよくやる顔なのでわかってしまう。嫌気が差してくるが、なんとか押し潰して足を進めた。

「此方です、どうぞ。」

「お邪魔します。」

やっと長い廊下を歩き終わり、「応接間」とあるプレートがかかった部屋を指される。数回ノックをしてゆっくりと足を踏み入れれた。中は随分と綺麗な場所で、年代物のソファが置かれている。そして奥の方には1人座っている者がいた。

「どうぞお座りください。」

少しゴテゴテしたスーツを着たその男は重い声でそう言う。私は素直に指されたソファに腰掛けた。そして、交易の話を始める。口火を切ったのは彼方で、“スペイン”と名乗った。如何なものかと出方を伺っていると、あからさまに此方に利益のない条件で話をしていて、はん、と私から見下しの笑みが漏れてしまうほどだ。彼方がようやく黙ったところで資料を提示する。私直々に“それっぽく”作った資料のため、スペインからも簡単に批判は出来ないだろうという目論見だ。何度か子供のような口論をした後、私の出した条件に落ち着いた。


「はぁ、はぁ。」

「どうしたんですか、そんなに疲れ切って…まあ、取引はちゃんと成立しましたのでよろしくお願いしますね。スペインさん。」

彼があまりにも面白い反応をするもので、つい煽り口調で笑いかけてしまった。スペインは何も言わずにうなだれている。そんなに生兵法が通用しなかったことが悔しいのだろうか。

「えー…、とりあえず、私帰らせていただきますね?」

無言が返ってきたため、肯定と受け取り帰ろうとスペインに背を向けた。“無言は肯定”なんて都合の良い言葉なんでしょうか。そんな風に微笑んだそのとき。



ガッ、



彼に右腕を掴まれた。口喧嘩の弱さに反し力は強いようで、振り解くことが出来ない。

「ちょっと、何するんですか。連合会社の沽券に関わりますよ。」

ため息をついてあしらおうとするも、返ってくるのは無言のみ。ドアの前に立っていたアイスランドは、いつの間にかいなくなっている。少し怖くなり、強引に放させようと左腕を絡めた。すると好機と言わんばかりに両手を掴まれる。本当に訳がわからなくなって、力に比例して私の恐怖は増していった。だがスペインは無言を貫いており、それが余計に感情を増幅させる。そしてずっと握られている手首が麻痺してきた。さすがにまずい。スペインを足蹴にしようと振り上げたーーーー



グイッ、ーー顎を掴まれ無理やり上げさせられる。「ぇ、ちょっと、何す」


ゴク、ン。


言い終わる間もなく、何かが喉を通った。感じたことのない感覚で、全身の神経が麻痺する。腕の痛みなど感じないくらいに。気持ち悪いような、それでいて心地よいような匂いが嗅覚を刺激する。頭に向日葵が咲いたような気分だ。暖かいのだろうか、養分を吸い取られているのだろうか、しかし気分が良いことには変わりない。

ーーーーーーーーー手が、痛い…………

振り払えない心地よさの中でなんとかスペインのことを思い出し、探り探りで掴まれた腕を振り上げた。

「はは、息が荒いぞ?」

スペインの声がなんとか向日葵の世界から私をリアルに繋ぎ止めている。その声に縋るように、私は声帯を必死に振るう。

「な、に、…私、飲ませて………」

「ん?聞き取りづれー。」


「何をっ、飲ま”せたッ…!ーーゲホッ、ゲホッ、」

うざったく耳を傾けていたスペインが、ああ、と言うように口を開いた。


「アヘンだぜ。」


ーーーはっ?ア、ヘン…………??

私は理解が追いつかなかった。いや、快楽が理解を遅れさせていたのもある。だが、私の症状は、昔見たアヘン中毒者の病状と酷似していた。その記憶が、自分が飲んだのがアヘンだと否が応でも認めさせる。

「ははっ、不憫だなぁ…。経営がノってきてた教会の神父様が、“アヘン中毒者”になっちまうなんてな。」

歪に笑うスペインを見て、私は涙が溢れた。それには2つの思いがある。

1つは、教徒たちへの申し訳無さ。

もう1つは、自分への軽蔑。小さい頃見てきた汚い世界。その中でも“薬物中毒者”なんてのは、最低だった。見下して白い目で見ていたのだ。かつて下に見ていたものに自分が成り果ててしまう。それほどの屈辱があるのだろうか。どうしようもなくなって泣き崩れていると、スペインがそんな私を横目に毒を吐く。

「は、いい気味だぜ。俺らが、この街で1番の組織なんだ!教会なんかが出しゃばって良い訳ねぇだろ、身の程を知れよ!お前のせいで俺らは酷い言われようだ!身を持って知りやがれ、クソ神父が!」

吐き捨て終わると、私の腹を一度足蹴にし、なんの気兼ねもないように部屋を出ていった。

「ぇ、あ、あぁ………、うッ、」

初めての快楽と、スペインからの毒、ストレスも相まって、私は動けなくなっていた。出てくるのは涙ばかり。しかし、涙が止まっても私は動けないままだった。腰が抜けてしまったのだろう。まだ脳内に蔓延る快楽をかき分けるように、大声で叫ぶ。

「誰か…ッ、誰かいませんか…」

だが、掠れた声しか出ない上にここは街外れの錆びれた施設。期待など出来ない。私の力が抜けていくばかりである。





キ、イィ…………

「!?」

壁にもたれ掛かり力尽きようとしていると、右方でドアの開く音がした。私は飛び上がりそうなほどの期待の眼差しでそちらに力を振り絞って視線を向けた。しかし、私の思いは一瞬で打ち砕かれたのだ。

「こんばんは、イギリスさん。体調はどうですか?」

「あ、アイス…ランド、さん…。」

「どうですかと言っても、良いわけないですよね。現に死にそうですし。」

「……します、…けて…さい…」

「え、何て言いました?」

「何でもします、助けてください…ッ!」

「………!」

もう媚びるしかなかった。神父としての矜持を捨ててでも、教会に帰らなければ。待ってくれる人たちがいるのだ。誰でも良いのだ、選んでいる暇などない。歯を食いしばって、余っている力で精一杯頭を下げる。すると、アイスランドはあの時のスペインと同じ歪な笑みを浮かべた。そして口を開く。

「僕もね、スペインさんの部下ですから。あなたのこと大っ嫌いなんですよ。」

辛辣に、冷酷な視線を容赦なく突き刺す。ある程度の暴言には慣れたつもりだった。だが、今の状態では私の心の防御は無いに等しい。涙が自然と溢れてくる。アイスランドは続ける。

「でもね、あなたの泣いてるところは、すっごく…可愛いとか思っちゃったんですよね。」

っはぁ、、? 訳がわからない。これは、快楽のせいなのか。アイスランドがおかしなことを言っているだけなのか。

「というか、なんでもしてくれるんですよね。じゃあ、ちょっと今から僕のいう姿勢になってくれますか?」

ぽけっとした頭は、自分の発言に縛られて、アイスランドのいう通りに体を動かした。頭が働かない。だがそんな思考は、アイスランドの凶器のような魔羅を押し付けられた途端一変した。

「ぁ、アイスランド…さん、何をなさって…」

返答は無く、彼は私の下の衣服をすい、と悪びれもせず脱がした。そして、懐から何かの袋を取り出す。

「ねえ、“アヘン中毒者”さん。そろそろこれ、欲しくなってきた頃じゃ無いですか?」

「私は、そんなんじゃ……ぅえ”ッ、」

目の前にぴらぴらと押し出されたのは、黒褐色の粉が入った包装。私の本能が、手を伸ばす。

「はは、やっぱりですね。スペインさんの言う通りでした。はい、じゃあこれ欲しかったら、僕とやりましょうか。」

「ぇ………あ、やっぱりやめッ」その瞬間。


ッチュン!!!

「〜〜〜〜ッ!!??ぁ”、」

自身の下部が裂けそうなほどに軋んだ。しかしまだ隅に残る心地よさが、その痛みを快楽へと変えた。アイスランドは、休ませる間もなく腰を動かしている。

「顔、見せてくださいよ…!」

「ぃ、あ、あ”、」

「見せろつってんだろ、助けねえぞ!!」

「ひっ、すみませ、ん…!」

「ふふ…ありがとうございます!唆ります…!」


気が狂っている。私は、関わってはいけない奴等を怒らせてしまった。







「は、う、ぁ…。」

「可愛かったですよ、“アヘン中毒者”さん。あなた一応父親なんですっけ。けど男とやるのはハジメテですね。はい、アヘン。」

「あ、ありがとうござ、ます…、アイスランド、さん。」

私の意思ではなく本能で、アヘンを啜る。もう抗えないのだろうか。とりあえず、ここから出られたら病院に行こう。それでなんとか最善の対応をしてもらおう。教会の皆にも謝るのだ。とにかく事は過ぎた。アイスランドの顔色を伺い、小さく言った。

「えっと、私の教会まで送ってもらえますでしょうか…?」

「は?んな簡単に帰すわけないじゃないですか。」

「え、話が違う…!助けてくれると言ったじゃ無いですか!」

「さっきのことは、あなたがアヘンを貰うために慈善でやってくれたことでしょう?まだ“なんでもする”は終わってませんよ。」

そんなのは屁理屈だ。確かに中毒症状は出ていた。だが、あまりにも卑怯ではないか。言いなりにさせておいて掌返し。私の街にこんな輩がたくさん蔓延っているのだと考えると吐き気が催される。いつも私には外面しか向いていなかったのか、そう考えると悲しくもなる。それよりも、此奴は一体何を考えているのだろう。隙を見て良いところで逃げる事は可能だろうか。回復してきた頭で思考を巡らせていると、アイスランドがにやりと笑った。

「あなたには、ぜひ来てほしい場所があるんです。」

アヘン中毒のUK様

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コメント

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あ〜!!すげぇ良い!!神作品!! ハートたくさん押すぞー!

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