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#恋愛
ばたっちゅ
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meyu0530
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「――煮物は水が十に対して、みりんと醤油は一の割合で煮るのが基本です。割合で覚えると、分量が変わってもわかりやすいですよ」
「結構薄めなんですね」
「最初は薄いですが、煮込んでいくうちに濃くなるので安心してください。それから、調味料を入れる順番ですが、砂糖から入れていきます」
「どうしてですか?」
「分子が大きく食材に浸透するのに時間がかかるためですね。今回の料理に限らず、調味料は基本の『さしすせそ』の順番に入れると覚えておくと便利です。自宅では面倒かもしれませんが仕上がりに差が出るので、時間があるときはぜひ」
すっかり丸暗記してしまったマニュアルに、自分の言葉を加えて作業を進めていく。
智美さんは普段ほとんど料理をしないらしく、包丁さばきもぎこちなく、少し手こずっているようだった。
「私料理のセンスないかも……」
「始めたばかりですから大丈夫ですよ。今はレシピをちゃんと守って作ることを第一に進めましょう。それで、楽しく作れたらバッチリです」
「楽しくかぁ。私、実家暮らしだから全然料理しないんですよね。緋真先生は家でも料理されるんですか?」
「料理は唯一の趣味みたいなもので、毎日してますよ。私も実家暮らしが長かったですけど、わりとしてましたね。SNS用に動画撮ることもあったので」
「……長かった、ってことは、今は実家じゃないってことですよね」
何気ない言葉を指摘され、一瞬言葉に詰まる。既婚者であることは隠していないが、なんとなく彼女の目が鋭く感じた。
「ええ、まあ。今は夫と一緒に」
「へぇ、緋真先生結婚されてるんですね。羨ましいです。ご主人、どんな方なんですか?」
「どんな……優しくて誠実な方、ですよ。あっそれじゃあ、煮込んでいる間に汁物の準備をしましょうか」
仕事でプライベートな話をするのは気が引ける。伊織さんは医師だし、あまり職業のことについても話しづらいのだ。
当たり障りのない返答をして話を切り替えると、智美さんはやや不満そうに唇を尖らせた。
「それなら料理も楽しいですよね。毎日食べてくれる人がいるんだもの」
「……そうですね。誰かに食べてもらえるというのは、料理の楽しみのひとつでもあると思いますよ」
「ですよね? 実は私も好きな人に手料理食べてもらいたくて、料理教室に通い始めたんです」
ぱっと顔を綻ばせた彼女は、瞳までキラキラ輝かせており、恋する乙女のよう。好きな人のために苦手な料理を頑張るのは、健気で好感が持てた。
「それなら頑張って上達していきましょう。私も協力しますから」
「わあ、緋真先生にそう言っていただけて嬉しい。相手の方、お医者さんなんです。同じ職場に勤めてるんですが、いつも忙しそうで。だから健康的なご飯のほうが体にいいかなって」
「……そう、なんですね」
伊織さんと同じ職業にドキリとしつつ、平静を装って相槌を打つ。聞けば智美さんは普段医療秘書として働いているらしく、今日は休みなのだとか。医療秘書とはその名の通り、医療機関で医師や看護師のサポートが主な仕事で、仕事内容としては一般企業の秘書と似たような業務も多いという。伊織さんの勤める病院にも医療秘書の方がいて、以前彼から話を聞いたことがあった。
秘書と聞くと漠然と美人なイメージを持っていたが、あながち間違ってはいないようだ。智美さんも、童顔ではあるが顔立ちは整っている上にスタイルもいい。さらに年齢の割には喋り方も落ち着いていて育ちの良さを感じた。さぞかしモテるだろう。
「ちなみに、緋真先生は家ではどんなものを作られるんですか?」
「SNSに上げているものは、どれも家で作るものですよ。夕食作りとあわせて撮ることも多いので」
「特別ご主人が好きなものとかありますか?」
「ええ? どうでしょう……。だいたい何でも食べてくれるので」
「……では、緋真先生の投稿参考にさせていただきますね」
「は、はい? ぜひ」
何故わざわざそんなことを聞くのだろうか。純粋にファンとして慕ってくれているような素振りを見せるが、智美さんの発言にはやや違和感がある。
しかしながら言及するほどではなく、また適当に話を切り替えて作業を再開した。
◇
その後も、プライベートな質問をされては躱してを繰り返し作業を進めているうちに、あっという間に授業が終わった。
「お疲れ様でした。お料理はすべてお持ち帰りですか?」
授業の後、四人分の料理を丁寧にタッパーに詰めている智美さんに声をかける。
「はい、実は今日は夜から職場の飲み会があって……。料理は一度家に持って帰って明日家族でいただきます」
「そうでしたか。お休みの日まで大変ですね」
「いえ、先ほど話した好きな人も参加するので、私から参加を申し出たんです」
そう言う智美さんは心底嬉しそうで、純粋にその人のことが好きなのだろうと、微笑ましい気持ちになった。
「楽しんでくださいね。ちなみに、今日の授業はどうでしたか?」
「大変でしたけど、ためになりました。私も、料理もっと頑張ってみます。また緋真先生の授業予約してもよろしいですか?」
「よかった。もちろんです。いつでもお待ちしてますね」
「はい。よろしくお願いします。それから次ももっといろいろお話したいです」
また意味深なことを言って、智美さんが綺麗な笑みを浮かべる。
ちょうど次の授業の生徒たちがやってきて、挨拶を交わしていると、彼女はそそくさと荷物を片づけて去っていった。
なんだろう、この感じ……。単に私が気にしすぎてるだけ?
しばらくの間、智美さんの後ろ姿を目で追っていたけれど、次の授業の生徒に声をかけられ、気持ちを切り替えたのだった。
コメント
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うわあ、第7話……じわじわ来ますね🥀✨ 智美さんの「好きな人=医者」って発言で、緋真先生が一瞬ドキッとするところ、すごくリアルでハラハラしました。プライベートな質問をかわしつつも、なんか彼女の視線が妙に鋭くて……「またお話したい」って笑顔も、ただの生徒じゃない感じがしてゾクゾクします。料理のシーンも丁寧で、読みながら一緒に作ってる気分になりました! 続き、気になります……!