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「いや、ほんとに。ゆずの声が聞けて、こうやって近くで過ごせてさ……幸せすぎて逆に不安になるんだよ」
「……そんなの、僕だって同じだよ! 卿と一緒にいられるのが信じられなくて、でもすごく嬉しい」
言葉を詰まらせながら伝えると、卿はふわりと笑って僕の額に熱い誓いのようなキスを落とした。
「これからもずっと、俺と一緒にいてくれる?」
「もちろんだよ。卿が望んでくれるなら、一生一緒にいるよ」
約束を交わすように小指を絡める。
この穏やかな日常が、永遠に続くと信じて疑わなかった。
◆◇◆◇
けれど、そんな幸福に影が差し始めたのは、それから数日後のことだった。
卿の仕事が急激に忙しくなり、連日の残業が始まったのだ。
「遅くなるから、先に寝てていいからね」
と言われたあの日から、帰宅時間はどんどん後ろに倒れていった。
「なるべく早く帰る」という言葉が、どこか虚しく響き始める。
「ねえ、卿……最近仕事、すごく忙しいの?」
「あーうん。まあ……色々あってね。でも心配しないで大丈夫だよ」
笑顔で答える彼の目の下には、くっきりとしたクマが刻まれていた。
頬も少しこけて、明らかに痩せている。
「ねぇ……卿、無理しないでね……? 倒れたりしたら僕、嫌だからね?」
「大丈夫大丈夫。俺、体力には自信あるし」
さらりと躱されるが、その疲弊ぶりは誰が見ても明らかだった。
それでも卿は、優しく僕の頬に手を添えてくる。
「ゆず、無理してるわけじゃないよ。ただ……ちょっとね、仕事が立て込んでてさ」
―――本当に?
喉元まで出かかった疑念を飲み込む。
僕が知っているのは、この部屋の中の彼だけだ。
外で彼がどんなことをしているのか、僕には知る術がない。
その距離が、ひどくもどかしかった。
「じゃあ、帰ったら少しだけでも休んでね? 無理しちゃダメだよ……」
「うん、分かってる。ゆずがいてくれるから、俺、頑張れるんだから」
そう言って抱きしめてくれる卿の腕。
いつもなら頼もしく感じるはずのその力が、今日はどこか弱々しく、今にも折れてしまいそうで怖かった。
大丈夫。そう言ってくれれば、信じるしかない。
でも、本当はもっと何かしてあげたい。
ただ「いい子」で待っているだけじゃなくて、彼の荷物を少しでも分かち合えたらいいのに。
そんな葛藤を胸に抱えながら
僕はまた、閉ざされたドアの向こうへ消えていく彼の背中を見送った。
◆◇◆◇
数日が経過すると、その忙しさは落ち着いた。
けれど、卿はやっぱり疲れている様子だった。