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#山中柔太朗
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「佐野さん、ちょっと他科の薬局から最新の処方薬データブック借りてくるわ! すぐ戻るな〜!」
「おう、気をつけて行ってこいよー!」
舜太が元気にナースステーションを出て行ってすぐのことだった。
バタバタと不躾な足音とともに、他科の威圧的な医師ふたりと看護師が総合診療科へ上がり込んできた。
「おいおい、噂通り物置みたいなナースステーションだな。こんなところでまともな診療ができるわけないだろ」
先頭の医師が嘲笑うように吐き捨て、受付の太智にカルテを雑に放り投げた。
「これ、うちから回す患者のカルテ。まあ、お前らみたいな雑用専門のところにピッタリな、原因不明のややこしい患者だけどな」
その露骨に見下した態度に、太智の額に青筋が浮かんだ。
「……なんですか、その言い方。僕らの仕事は雑用やなくて——」
「はぁ? 威勢だけは一人前だな、ベテランぶってる看護師さんよ。結局、専門医になれなかったドクターの使い走りだろ? お前のやってることなんて、誰にでもできる雑用だよ」
「……ッ、なんやと……!?」
拳を握りしめて怒りを露わにする太智の前に、柔太朗がすっと割って入った。静かだが強い目線で相手を制する。
「言葉が過ぎますよ。太智さんの看護とアセスメントがあるから、この現場が回っているんです。撤回してください」
「何?先輩の庇い合いか? 完璧主義気取ってるけどな、専門知識もないのに出しゃばるなよ。見てて痛々しいんだよ」
柔太朗にまで牙を剥く他科の医師。柔太朗は悔しそうに唇を噛みしめた。
「そこまでにしてもらっていいですか?」
奥から立ち上がったのは仁人だった。氷のように冷ややかな眼光で相手を射抜く。
「うちのナースたちに非はない。用がないなら自分の病棟へ戻りなさい」
「出たよ、元心臓外科医の落第生。プライドだけは高くて、現場から逃げてこんな何でも屋に収まったんだろ? 哀れだな」
「お前、いい加減にしろよ!!」
ついに佐野がデスクを叩いて爆発した。白衣の袖を捲り上げ、前に立ちはだかる。
「懸命に患者と向き合ってる俺の仲間にこれ以上暴言吐いたら、絶対に許さねぇ!」
「ハッ、元小児科医の熱血ごっこか? お前らのやってる診察なんか、根拠もないおままごとだ。この病院の面汚しなんだよ!」
佐野たちの怒りは頂点に達していた。
総合診療科のナースステーション全体が、悔しさと怒りで冷たく張りつめた、その時。
「——へぇ。えらい賑やかやなぁ」
聞き慣れた軽い関西弁が、部屋に響いた。
本を抱えて戻ってきた舜太だった。
いつものふわふわした笑顔……ではない。目は一切笑っておらず、氷のように冷徹なエリートの光を宿していた。
「なんなの君? 薬局の新人? 邪魔だから退いて——」
「『おままごと』に『根拠がない』、か」
舜太は他科の医師の言葉を遮り、ゆっくりと歩み寄った。
机の上に置かれたカルテを一瞬でスキャンし、冷ややかな声で言葉を紡ぎ出す。
「あんたが持って来たこのカルテ、患者の腎機能(eGFR)が35まで落ちてんのに、腎排泄型の強心薬と代謝経路が被る抗ヒスタミン薬、定量のまんま併用処方してあるやん」
「な……ッ!?」
「これ、CYP3A4の代謝が競合して、薬物血中濃度が急上昇して不整脈起こすレベルの過剰投与やで。薬物動態学の基本中の基本すら計算できてへん。……まさか知らんかったん?」
舜太の口から溢れ出すのは、完璧すぎる有機化学と理論。
他科の医師が顔を真っ赤にして口を挟もうとするが、舜太の弾丸のような論理がそれを許さない。
「専門医ぶって偉そうに人に暴言吐く暇あったら、PubMedで最新の薬物相互作用の論文一冊でも読んできたらどうなん? 人を『雑用』だの『面汚し』だのバカにする前に、自分の処方ミスで患者殺しかけてる自分のアホさ加減に絶望した方がええで」
一切の隙もないマジレス。
完璧な薬学知識で逃げ場を完全に塞がれ、他科の医師たちは白目を見せる勢いで絶句した。
「な……な……っ! お前、なんなんだよ……っ!!」
「俺? 総合診療科の薬剤師」
舜太はフッと冷たい笑みを浮かべ、ドアを指さした。
「自分の浅い知識に反省しながら、さっさと自分の病棟に帰り?」
ぐうの音も出ないほど完膚なきまでに論破された他科の連中は、捨てゼリフすら残せず、逃げるように走り去っていった。
静まり返るナースステーション。
ポカンと口を開けていた佐野、吉田、太智、柔太朗の4人が、一斉に舜太へ視線を向けた。
次の瞬間、舜太はいつもの大型犬の笑顔に戻り、パッと手を広げた。
「みんな! 俺、めっちゃ格好よく追い返せたやろ〜!? 言わせっぱなしなんて絶対に許さんからな!」
「……舜太……!!」
一拍して、辺りは先程の空気が嘘のように賑やかになった。
「うおおお! 舜太ぁぁぁ!!」
「スカッとしたわ!!」
「さすが舜太だわ」
「舜太すごいじゃん」
佐野が叫びながら抱きつき、太智が爆笑しながら頭をガシガシ撫で回す。
柔太朗も心底嬉しそうに目元を緩め、仁人も誇らしげに微笑んでいた。
ナースステーションには変わらない温かな笑い声が響き渡っていた。
コメント
1件
舜太くん、めっちゃかっこよかった〜!🤍💥 「言わせっぱなしは絶対に許さん」って、もうその言葉だけで滾る。 あの専門用語バシバシの論破シーン、何度でも読み返したい。 普段ふわふわしてる人が、怒るとあんなに冷徹になるギャップがたまらん…。 仲間を守るために本気で怒れるの、尊いよ。 もうね、スカッとしすぎてスマホ投げそうになった(笑) 次回も楽しみにしてるね🥀