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#恋愛
ばたっちゅ
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meyu0530
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◇
その日の仕事終わり。郁ちゃんと訪れたカジュアルダイニングにて、先日のピアス騒動の件を話すと、彼女は眉を釣り上げてグラスを置いた。
「緋真ちゃんには悪いけど、それ絶対クロだよ」
新婚早々友人が不倫疑惑で悩んでいるのだ。郁ちゃんとしても怒るのは無理はないだろう。
こうもはっきり言われてしまうと、いかに自分が心のどこかで伊織さんを信じ込もうとしていたかがわかった。事実だけ聞いてしまえば、紛れもなくアウトだ。
「相手からの牽制じゃない? 伊織さんは気付いてる感じないの?」
「うん……。いつも通りだし、とくに変わらず」
私の気持ちに靄がかかっているだけで、伊織さんは至って普通だ。優しくて気が利いて、完璧な夫。それもあって、彼を信じる気持ちが捨てきれなかったのかもしれない。
「ちなみに、相手の人に心当たりは?」
「それが――」
智美さんに感じていた違和感、そして彼女がなくしたピアスの片方が、伊織さんの鞄から出できたものと一致していたことを告げると、郁ちゃんは目をぱちくりとさせたあとで声をあげた。
「それ白鷹さん確定でいいよ! だって、わざわざ緋真ちゃんの授業貸し切りにして受けてさ。ピアスだって、わざと伊織さんの鞄に入れて、緋真ちゃんに匂わせたとしか思えないよ……」
「やっぱりそうだよね……」
病院勤務だの好きな人が同じ病院の医師だのと、智美さんからは聞いてもない情報をたくさん聞かされた。それもこれも、私に伊織さんとの関係を匂わせるためだったのだろうか。
「ていうか、思い出した! 私もこの間授業で白鷹さん担当したんだけど、緋真ちゃんのこと聞かれたもん。どんな先生なんですか? って」
「えっ……それで?」
「もちろん、業務上で当たり障りのないことしか言ってないよ? 白鷹さん、緋真ちゃんのファンだって言ってたから、私もそこまで怪しんでなかったんだけど……そういうことか~……怖すぎるよ!」
郁ちゃんは自分のことのように震え上がる。どうして私のことを特定したのだろうと疑問に思ったけれど、郁ちゃんには「緋真ちゃんは有名人だから」と平然と返されてしまった。そんなことよりも、これからどう対処するべきか考えなくてはならないのに。
頭を悩ませていると、郁ちゃんも同じく何かを考え込んでいるよう。そして、難しい表情を浮かべながら口を開いた。
「でもさ、もし相手が白鷹さんってなると、ちょっと話は違ってくるかも」
「どういう意味?」
「あくまで憶測だけどね? 話を聞いてる感じ、白鷹さん余裕ないっていうか……。伊織さんに相手にしてもらえなくて、緋真ちゃんに嫌がらせしてるようにも思えてくるんだよな~。あからさますぎるし、そもそも伊織さんはそういう面倒なタイプに引っかからなさそうだし」
「まあたしかに、言われてみれば……」
伊織さんのことだから、万が一不倫していたとしても、絶対にバレないように上手くやりそうな気がする。彼はとても頭が良い人だから。
「それに結婚して一カ月で不倫相手にのめり込むのは早すぎるかな~って思うんだよね。今が一番ラブラブな時じゃない?」
「うーん、それは何とも。もともとラブラブって感じでもないんだよね……」
「どういうこと? この間は上手く行ってる感じだったのに」
食い入るように見られ、誤魔化すようにグラスのマドラーをかき混ぜる。
しかしながら、元々郁ちゃんには相談しようと思っていたことだ。意を決してずっと抱えていた悩みについて切り出すと、彼女は戸惑ったように頭を抑えた。
「えっと、待って……。結婚して一緒に住んでるのにしたことないって……出会ってから一度もってこと?」
こくりと頷けば、郁ちゃんはやっと意味を理解したのか、興奮気味に身を乗り出した。
「緋真ちゃん、それはマズいよ! 向こうだって絶対溜まるし、外で発散されても仕方ないやつだよ? あ、不倫は絶対ダメだけど……」
「そういうものかな……?」
「うんうん。男と女なんだから、夜の生活もちゃんとしないと。しかも新婚さんなんだし今たくさんしないでどうするの!?」
見た目こそ幼い印象を与える郁ちゃんが性的な話をしているのは、何だか変な感じだ。少なくとも私なんかより経験豊富であることは重々承知しているけれど。
「でも、どうして? 伊織さんすっごいイケメンなのに。やっぱり異性として見れないとか?」
「あ、いやそうじゃなくて……なかなかそういう雰囲気にならなくて……」
「え……伊織さんが緋真ちゃんに興味ないってこと?」
「うん……。私に魅力がないのかも」
「興味ない」はさすがに傷つくけれど、要はそういうことだろう。悲しいことに、彼は最近まで私に触れることすらしなかったのだから。
郁ちゃんはあまりに話が衝撃的だったのか、へなへなとテーブルに項垂れた。
「だ、ダメだ……伊織さんがわからない……緋真ちゃんは美人さんだよ、大丈夫。私が保証するから」
「あはは、ごめんね郁ちゃん……フォローさせて」
「お世辞じゃないからね? もっと自信持って。緋真ちゃんと一緒に寝て何の気も起きない伊織さんがおかしいから、やっぱり浮気ってことはないと思う」
その理論はどうなんだろうと首を傾げるが、郁ちゃんは自信満々だ。
そして、核心を突くような目で私を見た。
「一応確認だけど、緋真ちゃんはしたいってことでいいんだよね?」
正直、伊織さんと体を重ねることに躊躇してしまう自分がいる。言うまでもなく、原因は私の体の問題だ。けれど私は伊織さんとちゃんと夫婦になりたいし、いつかは子供だってほしいと思っている。そして、それ以上に――
「うん……。私は伊織さんのことが好きだから」
彼が私をどう思っているのかはわからないが、この気持ちだけはどうしようもない事実。
素直に打ち明けると、郁ちゃんは瞳をうるうるとさせてこちらを見ていた。
「緋真ちゃん……恋してるんだね。応援するよ! 伊織さんのことベったべたに惚れさせちゃお」
「あ、ありがとう。べったべたは無理かもしれないけど……。それでね、郁ちゃんに相談があって」
「うん?」
「えっと、私……実はその、経験がなくてですね。どう誘っていいか、アドバイスをもらえたらなぁと……」
消え入りそうな声でもごもごと口にすると、郁ちゃんはぽかんと口を開けたまましばし停止した。そして、本日三度目の驚きの声をあげた。
「え、え! 経験ってそういうこと……だよね?」
「はい……情けないことに……」
「情けなくなんかないよ。初めての人が旦那さんなんて素敵。いいね~そういうの」
郁ちゃんは揶揄するどころか、うっとりと明後日の方向を見つめる。今まで経験がないこともコンプレックスに感じていたのに、そういうものなのだろうか。きっと、ないものねだりなのかもしれない。
「それでどう誘ったらいいかってことだよね? 改めて聞かれると難しいな~」
「ご、ごめんね。些細なことでも何でもいいからアドバイスもらえると……」
藁にも縋りたい思いで懇願すると、郁ちゃんは得意げに「任せて!」と胸を張ってみせる。その姿はやっぱりどこか幼く見えたけれど、不思議と頼もしいなと思えた。
コメント
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寺島あおいです🖋️ 郁ちゃん、めっちゃ頼もしいですね…! 緋真ちゃんの恋してる自覚とか、初めての夜の話まで打ち明けるところ、胸がきゅっとなりました。郁ちゃんが「初めての人が旦那さんなんて素敵」って言ったの、すごく温かくて好きです。伊織さんの真意がまだ読めないもどかしさが、このお話に引き込まれる理由だと思います。続きが気になる…!