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■07■
もう一体のヴァイラも、残る一人へと襲い掛かる。
兵士は対決を避け、素早くヴァイラと距離を取ろうと後ずさった。
だが、ヴァイラの長い腕がそれを許さない。
大振りに真横へ振った腕が、兵士へ直撃した。
即座に兵士は防御して、殴り掛かるヴァイラの腕を剣で受ける。
ヴァイラの奮う腕は、その剣に切られる事に構わず、でたらめに強い力で兵士の体を弾き飛ばした。
殴り飛ばされた兵士は、一撃で離れた馬車まで吹き飛ばされ、
頭と背中を大きく打ち、そのまま昏倒する。
相手を倒した事に歓喜するかの様に、拳を地面へと何度も叩き付けてヴァイラは雄たけびを上げた。
ヴァイラの一体は馬車の上へ飛び乗り、笑う様な小刻みの咆哮をし、旅団の私兵達を威圧する。
もう一匹は四つん這いで走り、次々と旅団の私兵を殴り飛ばし、掴んで投げ飛ばす。
「くそ…っ!!まずいぞっ!!」
シンハは、召喚された二匹の魔物が情勢をひっくり返した事に驚愕した。
戦いに慣れて居る|武士《カッター》は、シンハ以外もう居ない。
シンハ一人と旅団に居る数名の私兵。
それに対して、圧倒的な多勢な狂信者達と2体の魔物。
「まさか、あんな博学な魔法使いが敵に居るなんてっ!!」
シンハは味方をまとめ、完成しつつあるザジー教徒達の包囲網から脱出する術を考える。
この状況で奴等と正面から闘い、相手を撃退する事は難しい。
もし、ザジー教徒に捕まれば拷問と死しかない、奴らはそういう教義で動いている。
少しでも多くの人命と物品を逃がす為、分散して逃げる方が損失は少ない。
「逃げろっ!!バラバラになって逃げるんだっ!!」
シンハは自らヴァイラの前へ躍り出て、奴らの注意を引いた。
土煙を巻き上げ、ヴァイラがシンハへ襲い掛かろうと駆け込んでくる。
迎え撃つ為に腰を低く構え、シンハは剣を握り直した。
「…シッ!!」
息を小さく吐き、シンハは剣を突進して来るヴァイラへ奮った。
強い一閃は、ヴァイラの大振りな腕へと食い込むが、正に暴力的な力で止まることなくシンハを襲う。
先刻の戦いを見ていたシンハは、ヴァイラの腕に刺さった剣から手を離す。
そして、尻餅をつく様に身を避け、ヴァイラのラリアットを躱した。
シンハの兜にヴァイラの巨大で長い腕が掠る。
シンハは尻餅をつき、その尻を軸にしてコマの様に体を回して移動した。
もう一体のヴァイラが馬車の上からジャンプし、シンハの頭上から襲い掛かって来る。
ボディプレスを仕掛けたヴァイラの巨体を躱し、そのヴァイラの背後へシンハは回り込む。