テラーノベル
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撮影当日。
広いスタジオに、大勢のスタッフが行き交い、独特の緊張感が漂っていた。
単独での表紙撮影。そのプレッシャーは、渡辺が想像していた以上に重くのしかかってくる。
「渡辺さん、もう少し肩の力抜いてみましょうか!」
「はい、次はもう少しアンニュイな表情で…」
カメラマンの指示に応えようとするが、どうにも体が硬い。表情がうまく作れない。
焦れば焦るほど、どんどん深みにハマっていく。
💙(…くそ、なんでだよ…)
内心で悪態をついた、その時だった。
スタジオの隅の機材の影に、見慣れたシルエットがあることに、渡辺は気づいた。
💙(…涼太?)
宮舘涼太が、腕を組み、静かにこちらを見つめていた。
いつからそこにいたのか。
彼は別に今日の仕事はオフのはずだ。
その姿を認めた瞬間、渡辺の心の中に不思議な感覚が湧き上がった。
焦りや緊張とは違う。
もっとこう、しゃんと背筋が伸びるような感覚。
💙(…見てんじゃねぇよ)
心の中で、悪態をつく。
でもその口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。
一番、かっこ悪いところは見せられない。
こいつにだけは。
その瞬間渡辺の全身から、すっと余計な力が抜けていった。
カメラのレンズの奥にいる、たった一人の男に、見せつけるように。
渡辺翔太はその日、最高の表情をカメラの前に晒した。
撮影が終わり、スタッフへの挨拶も済ませ、一人になった楽屋で、荷物をまとめていると。
ガチャリ、と静かにドアが開いた。
❤️…お疲れ様
💙なんでいんだよ、お前
そこに立っていたのは、やはり、宮舘だった。
彼は、ゆっくりと部屋に入ってくると、渡辺の隣に当たり前のように立つ。
しばらくの、沈黙。
先に口を開いたのは、宮舘だった。
❤️翔太
💙…なんだよ
宮舘は悪戯っぽく、ふっと笑うと一言だけ、静かにでも、はっきりと渡辺の耳元に囁いた。
❤️…世界で一番、かっこよかったよ。
それは他の誰からでもない。
渡辺が、世界で一番欲しかった言葉だった。
あまりにもストレートで、あまりにも優しい褒め言葉に渡辺の全身が、カッと熱くなるのが分かった。
💙…っ、
何か言い返さなければ。
いつもみたいに「当たり前だろ」って、クールに。
でも口から出てきたのは、完全に裏返った子供のような声だった。
💙…っ、あたりまえだろ、バーカ!
顔を、耳を、首まで真っ赤にしてそう言い返すのが精一杯だった。
俯いて顔を見られないようにするのが、今の渡辺にできる最大限の強がり。
そんな渡辺の姿を、宮舘はどうしようもなく愛おしそうに、ただ静かに微笑んで見ていた。
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