テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ふーん、やっぱじゃあ、ブリリアント卿にあってたのか」
「そう。偶然」
「偶然ねえ……」
「いや、そこは本当に偶然だから!」
さすがに、そこを疑われるのはたまったもんじゃない。だって、示し合わせて、会える相手じゃないだろうし。ブライトは貴族だし。
まあ、それを分かっていて、いっているんだろうけれど、この目の前の紅蓮は。
アルベドは、頬杖をつきながら、ガラ悪そうに私を見ていた。ノチェは、今休憩中。あれだけ振り回しちゃったんだから、休憩の一時間や、二時間取って欲しいところ。そして、私はアルベドに、事の経緯を説明していた。アルベドは、しっかり聞いてくれていたけれど、私が帝都に行ったことに対して怒っているようで、何処か不満そうに棘のある言葉を吐いてくる。
「何?」
「いーや。んで、覚えてたのか?」
「覚えてなかった……でも、ファウダーは覚えていた」
「混沌か」
「うん」
覚えてくれていたのは、ファウダーだった。人智を越えた存在だから、彼は覚えていたのだろう。じゃなかったら、誰も私の事なんて覚えてくれていなかっただろう。アルベドが覚えているのが未だに謎だけれど、問題はそこじゃない。
ブライトの好感度は、0%に戻っただろうか。マイナスになってしまったとき、冷や汗をかいた。ブライトは、元々、人を信じないタイプの人間だし、少し冷ややかというか、他人事みたいな対応をするとことがあるし。それもこれも、私が不審な行動を取ったからだけど。
「そうか、やっぱり覚えてねえのか」
「そう。だから……で、いきなりヘウンデウン教が襲ってきて」
「まあ、なんでブリリアント卿が帝都の方まできていたかは置いておいて。それを狙ってきたんだろうな。ヘウンデウン教の奴らは」
「そう、だと思う」
「混沌を手に入れるために」
アルベドの意見に同意する。私は首を縦に振った。
ヘウンデウン教の狙いはあくまでファウダー。彼が、混沌だとヘウンデウン教にはバレている。今思えば、前の世界の地点で、それがバレていなかったのが奇跡に等しいだろう。だって、じゃなきゃファウダーを何故狙ってくるのかという理由にもなるし。ブライトは、一人で、ファウダー混沌だと存在を隠していたのだろう。ずっと、墓場まで持っていく気だったかも知れない。まあ、それが叶わなくて、最後は私に暴露したわけだけど。
(それか、もしくは、私がファウダーの存在に気づいていると思って警戒していた?)
ヘウンデウン教だと思われたのは、私が、ファウダーと触れ合っても何もならなかったからか。他にも理由がありそうだけれど、ブライトのことだし、何もかも疑っただろう。疑われたこっちは、すごい嫌な気持ちにしかならなかったのだけど。
「ブリリアント卿は何か言っていたか?」
「何も……てか、凄く警戒されちゃって」
「まあ、お前が変装魔法をかけていたおかげで、お前の顔は覚えられていないだろうな。ただ、エトワール・ヴィアラッテアの耳には入ったかも知れねえ」
「そう……でも!世界は広いから、私だってまず、結びつけないかも」
「だといいな」
「やめてよ。そんな言い方するの……」
不安になるなあ、と私は思いながら、目の前にあるハーブティーに口をつける。スッとした香りが鼻腔をくすぐり、少し熱めのお茶は喉をゆっくり通っていく。
「勝手にいったのは悪かったと思ってるけど、アルベドだって、何も言わずに出ていくらしいじゃん」
「俺は、ここの家の者だからな」
「それって、関係あるの?使用人たちは、皆心配しているっていってたけど」
「……」
「アンタが、誰も信用出来ないのは分かるけど、何かあったら。ほら、一応、公爵子息だし……」
今のところは、まだ爵位を譲渡して貰っていない子息の状況。いつ、譲渡して貰ったのか、曖昧というか、アルベドのお父さんが生きているのか、生きていないのかも分からない。でも、昔、勝ち残った方が、公爵だと認める、見たいなことを聞いた気がする。今もそれを守っているのかとか。
アルベドをちらりと見れば、何やら難しい顔をしていた。何を考えているのか聞いてみたかったが、また、変に口を挟むと怒られそうでやめた。気むずかしい性格ではないけれど、腹の底が詠めない人っていうのは間違っていない。
「彼奴らに、会いたい気持ちは分かるけどよ。もう少し、大人しく出来ねえもんか」
「だ、だから謝ってんじゃん」
「フィーバス卿から返事が来た。明日、辺境伯領地に出発する」
「は!?」
いきなりいわれ、思わず私は立ち上がってしまった。ソーサーにぶつかったカップがガタガタと震える。まさか、こんなに早くいくことになると思わなかったから。心の準備が出来ていなかった。かねてから、行くということは決まっていたけれど、それでも、明日といわれて、驚かない方がおかしかった。
そう、明日か。
だから、アルベドは大人しくしていろといったのかも知れない。それなら合点がいく。私は一人でそうまとめて、もう一度アルベドの方を見た。アルベドの難しそうな顔は、フィーバス卿に会うからだろうか。ブライトも、アルベドも苦手な人物。彼らより、十歳くらい年が離れているのかも知れない。私の年でいえば、お父さんの弟とかそこら辺の年かも。
その人の、養子になれれば……という話である。アルベドも、手札を増やしたいし、私も、何かしら身分があることで、動きやすくなる。そのために、少し教養を身につけて、きた。アルベドには、「ステラが貴族か、似合わねえな」なんて小言を言われたけれど、辺境伯ってかなり上の階級だし、それなりの教養がないと、白い目で見られそうだと思ったから。
まあ、そんなことは置いておいて……
「明日……」
「明日だな」
「もっと早くいってよ」
「いおうと思ったら、お前がいなかったんだよ。そしたら、帝都に向かったって聞いて……また、面倒事起こしてねえかって」
「……悪かったって」
何度謝ればいいのやら。けれど、心配してくれていたことには変わりないので、私はもう一度、ごめん、といって顔を上げる。どんな風に話がまとまるか分からない。フィーバス卿の事もまだ全然知らない。けれど、道はそれしかないのだと示してくる。
不安もあるし、公爵家から出たくない気持ちもある。けれど、リースに近付くには、それなりの階級である必要があると。
(エトワール・ヴィアラッテアの動向も気になるし……それよりも……)
フゥアダー、混沌の権能がエトワール・ヴィアラッテアに奪われたというのが一番厄介な気もした。彼女は何故、混沌の力を欲したのか、得る必要があったのか。未だに分からない。でも、彼女と衝突することも考えた方がいいだろう。
そのために、フィーバス卿との話し合いを上手く勧めるしかない。本当に、不安しかない。
「私、上手くやれるかな」
「さあな」
「さあなって、薄情すぎない!?一応、協力者よね!?」
「俺も、試されるだろうしな」
「誰に」
「フィーバス卿だよ。お前を見極めるのもそうだが、俺へも何か課してきそうだしな。彼奴の性格からして」
「どんな性格よ……」
珍しく、アルベドが内気になっていたので、私は気になった。やっぱり、アルベドも嫌なんだろうなって。それでも、付合ってくれるのは私の為か、自分のためか。もう、この際どっちでもよくて、明日、上手くいくことを願うしかない。
「ええっと、まあ、頑張ろう」
「そーだな。頑張るしか、いえねえよな」
「嫌そうに」
「別に?」
と、アルベドはフッと眉を下げて笑った。その顔は、何処か不安そうで、緊張しているようにも思えた。