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『……逃げてくれ』
そう言い……
月明かりの下、健は狼の姿のまま森の奥へと走っていった。
追いかけようと足を踏み出すが、紗羅の胸が強く締めつけられる。
あの目。
人を傷つけたくない、でも止められないという葛藤が滲んでいた。
「健!」
必死に叫ぶ声は夜に吸い込まれていく。
森の中は静まり返っていた。
獣の気配すら消えた闇をかき分け、紗羅はただ彼の背中を探す。
すると、遠くで低いうなり声が響く。
その先にいたのは、村の男を押さえつける健だった。
鋭い牙が喉元に迫る……。
「やめて!」
紗羅は彼の体に飛びついた。
一瞬、健の動きが止まる。
その瞳に、かすかに人間の理性が戻ったのを見逃さなかった。
「……お願い、戻ってきて」
健は大きく息を吐き、牙を引っ込める。
次の瞬間、彼はその場から飛び去るように姿を消した。
残されたのは、震える紗羅と腰を抜かした村の男だけだった。