流石に深夜になると誰もいないなぁ〜。と、思っていたら、人が居た。
その人は、ロウソクを持って、崩れた瓦礫だらけの家だったであろう山の天辺に立って、弧月を見上げていた。
多分女の人だ。ピンクの狐面を着けて、それに全く似合わないはずの黒色のワンピースを美しいまでに着こなしていた。
少し、いや、大分その人を不思議に思って、見ていると、俺の気配に気づいたのか、パッと此方を向いた。
「あれぇ?こんな時間に人?」
その人は俺に話しかけてきた。声からしても女性なのだろう。
黒色のヒールをコツコツと鳴らして俺の方に近づいてきた。
「おにーさんってドールでしょ」
深夜の静けさに狐面の女性の甲高い声が響き渡った。“おにーさん”と呼ばれている所、美味いぐわいに男に見えているみたいだ。
「そうだけど。お前も俺と同じドールだろ?」
「そー」
彼女の発する異様な雰囲気で、同族だとすぐに分かった。
声ででも女だとはバレていないらしい。この時初めて俺は、地声が低くて良かったと思えた。
「うちは鈴華。気軽に鈴って呼んでよ!此処日本国のもう一人の化身、にゃぽん様のドールだよ。私達ドールの持つ能力の関係でね、この面を付けてるの。おにーさんは?」
妙に高いテンションで鈴はそう尋ねてきた。
初めのドールでは無い、ならば、本命を話さず、兄貴から貰った名前を名乗ろう。
「俺は津逸だ。ヨーロッパの方から来た」
なるべく簡潔に、悟られないように、俺はそう名乗った。
「あれぇ〜?そんな名前のドールっていたっけ?」
鈴は怪しむように俺をジロジロと見た。変な冷や汗が流れそうだった。
「ま、いっか!姉さんに聞いたら全部解決するし〜」
吹っ切れたような声を出してそう言った。俺は胸を撫で下ろしたい気分だ。
「おにーさんも姉さんに、あ、いや、おにーさんには初めのドールって言ったほうが伝わりやすいかな?初めのドールに会いに来たんでしょ?案内したげるよ」
声だけで、なんとなくだが、あの面の下、絶対ケタケタ笑ってる。というか、初めのドールの妹なんだな。信用はできる、か。
「頼む」
暗闇で良くは見えないだろうが、フードで顔を隠しながらそう言った。
暫く歩くと大阪に着いた。大阪、と言っても、府の端の方で、山の中だ。
鈴は山の中を慣れたように進み続けた。俺も木々に囲まれて過ごしていたからこういう獣道には慣れているので難なくついて行けた。
そうして暫く歩くとこれ又デカイ屋敷が見えた。それはもう、開いた口が塞がらないぐらいにはデカイ。兄貴の居た部屋のある館よりデカイ。
「ま、今日は遅いしさ、泊まっていきなよ。んで、明日、姉さ、、、初めのドールに会えばいいじゃん」
玄関の引戸を開けて猫みたいに手招きをしながら鈴はそう言う。愛華とその主とにゃぽんは流石にもう寝てるみたいで「静かにね」と釘を刺された。
風呂と布団をこの日は借りて、ゆっくり眠った。
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