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END.2 夜更、あと一歩の光
飛行機を降りて、フランスの街を徘徊した先。
ふと思い立って、パリの街へ行こうと思った。フランスの家の付近。パリの、オペラ地区。心のどこかでは止めてほしいのだろう、自然と私の足はパリへ向かっている。
やっぱり好きなんだ。好きだったんだ。
貴方は、私の全てだったから。
一度だけ、フランスとアメリカとカナダでこのオペラ地区に遊びにきたことがあった。
冷戦終結から数年、疲弊したアメリカを癒す目的でフランス旅行へ向かった。
パリで美味しいものを食べて、観光して、お土産を買って。
その観光地の一つに確か、オペラ地区も含まれていた。ちょうどアメリカの誕生日に合わせて、誕生日プレゼントとして欲しいものも全部買い与え。
US「親父…無理してねぇか?こんなに買ってもらってさ…」
珍しく遠慮がちに笑うアメリカに、確か
GB「誕生日プレゼントですから。素直に受け取ってくださいバカ息子」
皮肉も混ぜてそう言ったんだっけ。
そうしたらアメリカは、心底嬉しそうに笑って。全力ではしゃいでた。
そう、あれ以来私はアメリカにプレゼントを渡せて…渡していなかった。
多少無理をしても渡せただろうに。
プレゼントで思い出す。
アメリカと、カナダの瞳をもしたサファイアとルビーのブレスレット。
サファイアは蒼いアメリカの美しい目を、ルビーはカナダの赤く見惚れる様な目を模している。
どちらも100万は下らないものだが、折角だということでプレゼントとして贈ることにしたのだ。
全てのことへの償いの一部として。
GB「そろそろ手紙と共に届くはずですが…まだでしょうかね」
ロヴァニエミで送った手紙たち。そろそろ着いていてもおかしくないだろう。
仮にそれで自殺を疑われても、その頃にもう私は此処にいない。
なんの不自由も不都合もない筈だ。
思い出に耽りながら、エレベーターを使って屋上まで上がっていく。
エレベーターの階層に何があるかを示すパネルには、思い出を呼び寄せる欠片が散らばっている。アメリカがずっとプラモを見ていたお店、高級だあ、なんて笑ってたお店。
最上階には、何もお店が載っていない。
当たり前だった。
かつてアメリカに沢山のものを買い与えた、オペラ地区のデパート。その最上階である屋上からは確か、パリ全体が見下ろせる。
美しい夕日と共に、沈み出す光と共に。
その景色は息を呑む様で。
そのまま、その景色に溶けてしまいたくなるくらいに美しくて。
エレベーターの扉が開いた先にあるその景色を見るのは数十年ぶりだった。
かつて、アメリカとフランスと、カナダと私。愛してくれた3人から逃げた末に私は此処で自分からも逃げる。
GB「ほんとう…っ、どうしようもない」
美しい景色のせいで、私の心の濁りが鮮明に見える。とれないもやもや、消えない疲れ、隠し続けた本音、これから諦める人生。全部汚くて、最悪で、唯一の救いはフランスや息子達がいることだった。
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でも、じゃあ
彼らさえ裏切る私は何者なのだろうか。
目の前の景色の美しさに、足がすくむ。
一歩踏み出せばいいだけなのに
あまりにも綺麗な景色に、泣き崩れることしかできない。
そのままただ1人、景色を眺め続ける。
沈む夕日、ゆっくり藍に染まる空。
少しづつ明るくなる夜景、月明かり。
どこかで誰かが談笑する声、雲の動き。
誰もいなくなった夜更の、ほのかに建物の輪郭を映し出す一筋の月光。
ほんの少しだけ明るくなり始めた空に、私の後ろから声が聞こえた。
⁇「ここにいたんだな」
私より少し低い大人びた声。
幼い頃から聴きなれていた声の、怒号を含まぬ声。
GB「…なぜここに?」
振り返りもせず答える。その必要をもう感じ取れなかったから。
⁇「おいて行かないでくれるかい」
その声にあるのは諦観の様な、全てを達観している人の声。
怒りも恨みも悲しみも寂しさも喜びも、何もそこにはない。
EN「親として、そして私として。私は息子である君を1人にできなくてね。いわばお節介というやつかもしれないが」
EN「…それに、忘れ物だよ」
銀の淵にチェーンのついた片眼鏡。
フランスが1700年頃に手紙に入れて贈ってくれたもの。
右頬に触れながら、私の左目に合わせ眼鏡をつける。慣れた手つきで。
EN「死ぬならば…せめてもの形見として持っていきなさい」
そういうお父様の顔は、月明かりに照らされ淡く輪郭だけが見えていた。白いシルクハットに白い、目立つスーツ。
今は夜に調和している。
やがて、朝焼けが見え始めた。
そろそろ、パリの人々も起きる頃だろう。
GB「…ありがとうございます、お父様。今までずっと…此処までしてもらって」
EN「嗚呼、最期にもっと何かできれば良かったがな。止めようとは思えないんだ。恋人を失って、息子さえも失う前に….と、私にもきっと…どこかに希死念慮があったんだろうな」
EN「さぁ、そろそろ行こうか」
お父様がフェンスを軽く乗り越え、此方に手を差し出す。
GB「…はい」
遺書を置き、旅行鞄を重しにする。
夜更に光る朝焼けに気づく人は、私たち以外にいるのだろうか。
お父様の手をとって、フェンスの向こうへ行く。
膝を屈伸させるだけで、すぐにでも体は宙に浮く。
お父様の顔も穏やかだ。
「ッりす………、まっ……」
落ちて行く衝撃とともに、一瞬聞こえた声の方に目をやった。
私を見つめるフランスと、目があった。
まともにその目が見られなくて、すぐに目をそらす。
ただ、拙いフランス語で呟いた。
「……Pardon」
最後に見えたのは、此方に手を伸ばすフランスだった。
END.2 夜更、あと一歩の光
コメント
1件
うわあああ読んじゃった…このEND.2…!!😭💔💔 パリのオペラ地区のデパート屋上で、夕日から夜更、そして朝焼けへと移り変わる景色、すごく綺麗なのに、心はどんどん沈んでいく感じが切なすぎた…!! イングランドが出てきて「忘れ物だよ」って片眼鏡渡すシーン、あれはもう…親子で一緒に逝く覚悟決めちゃったのかよって思って涙出たよ…😢 それなのに最後にフランスが走ってきて、「Pardon」だけで終わるのずるすぎない!?!? イギリスの罪悪感と後悔、全部詰まってて胸がギュッてなった…。続きが気になりすぎるよおおお!!くじらさん、この物語本当に好き…!!!🌸