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私はあの雪山で確かに死にました。身も心も氷漬けになって、あそこから生き延びることなど出来るはずもありません。
そして目が覚めた時にそばにいたのは言葉を話す狼さんと、その飼い主であろう男の人。
綺麗な白い毛並みの狼さんはきっと私が死ぬ間際に見たあの影に間違いありませんわ。それは私たちの願いが叶ったことを告げた事からも間違いはないはず。
それにこの男の人からはただならぬ雰囲気を感じます。私のようなものでは及びもつかない、そんな雰囲気。
「第二の人生と言いますと、私は……その、どうすれば良いのでしょう?」
ここが極楽や天国ならば、これまでとは在り方もルールも違うはず。聞かずにはいられなかったのです。
「どう、と言ってもな。好きにするがいい。もちろんいきなり放り出すようなこともない。まずはここを拠点にするといい。2階に部屋を用意してある、取り敢えずはそこからのスタートだ」
大きな男の人は死んだ後の私が迷わずに歩き始められるようにここにいたのでしょうか。なんてお優しい。狼さんはどうかしら?
「それには賛成する。ここを拠点に巫女には新しい人生を歩むことを願う。いっそこの男の伴侶とでもなるのもいいやもしれぬ」
私が意見を求めるような視線を向けたからでしょうけど……そこまでの提案をされるとは。私にはどうすれば良いのか……男の人も眉が一瞬動いたようですけど、私のような生贄に捧げられたモノなど欲しくもありませんでしょう。
「いや、この男にそのような些事は関係ない。どうせ独り身だ、押しかけ女房のようにでも世話を焼いてやれ」
また眉が動いてます。いいのか、悪いのか…でもこの狼さんがそう仰るならそれも良いのでしょう。
初めて会った男の人と。そのお顔を見上げてみても、嫌な顔ひとつされない。ああ、もしかしたら生贄になるという行いはまだ終えていないのかも知れません。つまりはこの方と結ばれることこそが──。
「改めまして、私の名前はサツキと申します。不束者ですが……よろしくお願いいたします」
こうして私はあの世で見知らぬ男の人の伴侶となりました。
突然のことに頭の整理が追いついていたのか不安ではありますが、あれで正しかったかどうかは別にして、とりあえずのご挨拶を済ませた私は部屋を見てこいと言われて、2階にあてがわれた部屋へと来ました。
既にベッドメイクもされた部屋は、思いのほか広く、また私のサイズにあった服なども収納にあり、何故……と考えてでてきた結論に顔が耳まで真っ赤になってしまいました。
そこまでくると何を恥ずかしがることもないですね。いえ、恥ずかしいですが。
破れた巫女装束の替えもありました。全く同じデザインの……素材も、寸法も……? 再び顔が耳まで真っ赤に……。もうやはり嫁ぐ先はあの方、ダリル様の他にありません。そういえば服も乾かされてあった事を今更ながらに思い出して……身体も綺麗で傷ひとつなくて……服を乾かして身体を綺麗にするにはどうするかを想像して三度顔が耳まで……。
モジモジしてるとなんだかおかしくなりそうで、汚れて破けた服を着替えようとズラっと並んだその中から──とはいえ普段着ることも無かった服を選ぶ勇気もなく、着なれているものに着替えてしまいました。