テラーノベル
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朝になると、ハーロルトは落ち着きを取り戻した。窓から差し込む淡い光が、部屋の薄暗さを少しずつ押し返している。昨夜の出来事は、まだ身体に微かな重みとして残っているが、意識は確かに戻っていた。
そのとき、扉の外から静かな声が聞こえる。
「ハーロルト様……お目覚めでしょうか。」
レイラの声だ。彼女は両手で朝食の盆を持ち、扉の前に立っていた。ハーロルトはしばらく沈黙した。目を閉じ、深く息をつく。やがて、低く短い声で答える。
「……入れ。」
レイラは軽く頭を下げ、部屋に入る。
「……昨夜は、大丈夫でいらっしゃいましたか?」
「見苦しい姿を見せたな。」
「とんでもございません。」
手に持っていた盆を机の上に置く。ハーロルトはしばらく机の上の食器を見つめたまま、言葉を探しているようだった。やがて、視線をゆっくりとレイラに向ける。昨日とは違う、優しげな眼差し。
「この前はお茶を持ってきてくれたな。」
「は、はい……。」
ハーロルトは少し間を置き、窓の外の湖をぼんやりと眺めた。朝の光が水面に反射し、まぶしいほどに輝いている。その光景を見ながら、ゆっくりと言葉を続けた。
「なあ。もしこの国が平和になって、自由に生きられるようになったら、レイラ嬢は何がしたい?」
突然の質問に、レイラは一瞬言葉を探すように目を伏せた。光が彼女の髪を照らしている。
「私は、大好きな家族と一緒に過ごしたいです。」
切実な願いだった。ハーロルトはしばらく黙ったまま、湖の揺れる光を見つめていた。波紋が太陽の光を反射し、金色の光が水面に散る。まるで、心の奥底に沈んだ記憶を照らしているかのように。
「そうか……。」
低く呟いた声には重みがあった。彼はゆっくりと椅子に腰を下ろし、手を膝の上で組み直す。
「私も……平穏に過ごせたなら。」
思わず口にした言葉に、レイラは息を飲む。普段は無口で感情を見せないハーロルトの口から、こんな言葉が出るとは思ってもいなかった。しばらく二人は、窓越しに湖を見つめたまま沈黙を共有した。風がわずかにカーテンを揺らし、部屋の中に柔らかな光と影を落とす。その静けさは、昨夜の緊張や不安をかき消すかのようだった。
「では、私はこれで失礼します。」
レイラが部屋を去った後、静けさが再び部屋を満たした。手元の盆には、温かいスープとパンが置かれている。
ハーロルトはふと思い出したように机の引き出しを漁った。そして1枚の封筒を取り出す。封筒にはギッター家の紋章が描かれていた。
“ハーロルトへ
先日、イアン・ルーケの裁判が終了した。処刑は免れた代わりに、ルーケ家の娘、レイラ・ルーケを人質としてギッター家に預けることとなる。同封した写真が彼女だ。近いうちにお前のところへ行くだろう。彼女の監視がお前の仕事だ。拒否権はないぞ。もう契約の判子を押してしまったからな。まあ、そんな難しく考えなくてもいい。お前の元にいれば、変な行動はしないだろう。頼んだぞ。
ギッター家当主 クラウス・ギッター”
その封筒の中にはレイラの写真も入っている。ハーロルトは窓辺に歩み寄り、山の稜線を眺める。太陽は高く昇り、暖かな光が世界を照らしていた。
コメント
4件
話が進むたびにレイラちゃんが可愛く見えてくる ぎゅってしたい
イアンさん何したんだよ! ハーロルトさんのレイラちゃんへの印象が気になるな…