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「そうして、陰陽師を連れて来たと、内大臣様に取り入る。もしんば、姫君が、お健やかになられたら、幾ばくかの謝礼を頂き……と、秋時《あきとき》様、ご自身の為に、私が使われる訳ですか。やれやれ」
役目を終えた晴康《はるやす》が、戸口でぼやいていた。
皆の視線が、一斉に秋時へ向けられる。
「え?な、何を、また、そんな」
「その通りなんだね?秋時!」
「みっちーったら、何、眉間にしわ寄せて、なんだか、髭モジャみたいな、顔になってますよ!」
「また、みっちーなどと!秋時!守満《もりみつ》様ですっ!」
「いやー、紗奈《さな》ちゃままで、なんで、怒鳴ったりするのかなぁ?」
どうやら、晴康の指摘は、図星だったようで、秋時は、おろおろするばかりだった。
「全く、陰陽師、と、名がつけば、怨霊退治ができると思っているのですから、私としても、生き辛くて、困りますよ。いったい、誰が、そのような夢物語を言い広めたのでしょうかねぇ」
晴康は、ぼやき続けた。そして、自分は、陰陽寮で、吉凶を記す暦を作っているだけであり、呪文など使えるかと、息巻いた。
「え、え、使えないって……、晴康様って、本当に、使えない人だったんですね!」
「秋時!いい加減にしないかっ!」
常春《つねはる》が、怒鳴った。
友を愚弄されて、さすがに、我慢ならなかったのだろう。守満に仕える身でありながらも、その御前で、声を粗げたのだから。
「ひいいーー!長良《ながら》兄さんまでっ!」
「だから、常春様、でしょうがっ!!秋時!」
「ひゃあっ!再び、紗奈ちゃまの雷がっ!ああ、桑原、桑原!!」
ここまでと、見切ったのか、向けられる怒りに負けたのか、秋時は、その場に平伏して、許しを乞おうとしている。
「さてと、これまで、ですかねぇ」
と、晴康は、言って、縮こまる秋時の前へ、どかりと腰を落とし、座り込んだ。
「あのですね、私、先程より、非常に気になる事が、ありまして、秋時様、お教え願いますか?」
今度は、何事かと、秋時は、晴康を、恐る恐る見た。
「もしかして」
「はい?もしかして?」
晴康は、秋時へ微笑む。
「あのですね、あの、あそこにいる……」
「あそにいる?」
言って、晴康は、タマの姿を見る。
「あーー!勘弁してくださいよっ!タマ!お前、本当は、犬だろっ!私など、喰っても、美味しくないぞぉ!そ、それに、お前、よく、カワハギの乾き物、やってただろ?その、恩をわすれたかっ?」
「あら、タマったら、秋時様に、お世話になっていたのですね。それで、時々、食欲がなかったのね」
守恵子《もりえこ》が、秋時に餌付けされていたのかタマに問うと、タマは、わん!と、嬉しげに答えた。