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今日の天気も晴れ。穏やかな陽の光が何とも気持ち良い。
しかし――
「……疲れました」
「えぇっ!? まだ、ほとんど動いてないじゃないですか!」
1週間も寝込んだこともあり、今はお屋敷の裏庭で、軽く運動をしているところだった。
エミリアさんにも付き合ってもらってキャッチボールをしてみたのだが、早速疲れてしまった。
私はあまり肩が強くないからヘナチョコの山なりボールしか投げられないけど、エミリアさんは結構びしっと投げてくる。
本気で投げたら結構良い感じなのではないだろうか。……これも、修行や冒険で鍛えた賜物かな?
「うぅーん、私はもうダメ……。
ダリルくーん、ちょっと代わって~」
「はーい!」
近くで草取りをしていたダリル君……庭木職人ハーマンさんの息子に助けを求める。
少し離れたところのハーマンさんが一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、私のジェスチャーで許可をもらうことに成功した。
「アイナさん!? 今はアイナさんのリハビリですよっ!?」
「少し休憩させてくださーい! はい、ダリル君よろしく!」
「分かりました!」
ダリル君にボールを渡すと、ダリル君は嬉しそうにエミリアさんにボールを投げた。
エミリアさんは一瞬は慌てたものの、難なくボールをキャッチする。
「わぁ! エミリアおねーちゃん、すごい!」
「ふふふ。そうでしょう、そうでしょうとも! こっちからもいきますよー!」
「はーい!」
裏庭の椅子に腰を掛けて、エミリアさんとダリル君のキャッチボールをぼんやりと眺め続ける。
ああ、平和だ。何だか気持ちが安らぐというか、本当に良い気分だなぁ……。
神器とか世界線とか時間軸とか日常離れしたものよりも、今はこういう、まったりとした時間がとても気持ち良い。
「アイナさまー」
「ん?」
突然の声に振り向いてみると、そこにはダリル君の妹のララちゃんが立っていた。
「これ、あげます!」
そう言いながら手渡してくれたのは、草花で編まれた輪っかの髪飾り。
おぉ、これは何とも懐かしい。
「ありがとね。んー、どう? 似合うかな?」
「はい、とっても!」
髪飾りを頭に乗せてみると、ララちゃんが満面の笑みを浮かべてくれた。
ああ、もう! 癒される! 癒されすぎる!!
そのまましばらくララちゃんと遊んでいると、お屋敷の裏手からキャスリーンさんがやってきた。
「アイナ様、お茶をお持ちしました」
「わぁ、ありがとう」
「……あの、私はこれから休憩なのですが……。
ご一緒させて頂いても、よろしいですか……?」
「うん、大丈夫だよ。ぼーっとしてるだけだけど」
「はい、ありがとうございます!」
休憩時間なら、問題は無いよね?
もともとはこのテーブルと椅子は、メイドさんたちの休憩のために揃えたものなんだし。
「アイナさまー。
その髪飾り、キャスリーンおねーちゃんに教わったんですよ!」
「へー、そうだったんだ。
私も子供の頃に作ったけど、何だか懐かしいなぁ……」
「はぁ……。アイナ様にもそんな時代が……。はぁ……」
私の言葉に、キャスリーンさんは何故かうっとりした感じで、そんなことを口走った。
不思議に思いながらも、しばらくキャスリーンさんとララちゃんとでお喋りをしていると、ダリル君がこちらにやってきた。
「アイナさま、失礼します!
ララ、そろそろお手伝いに戻る時間だよー」
「はーい! アイナさま、それでは失礼します!」
二人は元気良く挨拶をすると、ハマーンさんのところへ走っていった。
それと入れ代わる形で、今度はエミリアさんがやって来る。
「はぁ~、さすがに疲れました。ダリル君は元気ですよね……。
すいません、キャスリーンさん。わたしにもお茶をください!」
「かしこまりました。それではカップをお持ちいたしますので――」
「あ、大丈夫。アイテムボックスに入れてるから」
そう言いながら、私はいつものお茶セットのカップを出して、キャスリーンさんに渡した。
「アイナさんを見ていると、やっぱり収納スキルが欲しくなってきますね……」
「あはは。私も夢の中で使えなくて、少し不便でしたよ。収納スキル様々です」
「夢の中で……ですか?」
キャスリーンさんはお茶を入れながら、不思議そうに聞いてくる。
「うん。エミリアさんには昨晩お話したんだけど、寝込んでいる間に長い夢を見ていたの。
変な夢だったから説明しにくいんだけど、そこではスキルが全然使えなくて」
「なるほど……?」
「そういえばアイナさん! 水の魔法が使えるようになったんですよね?
見せてください!」
「え? ああ、そうでしたね!
……えぇっと、どこになら撃てるかな?」
裏庭とはいえ、ここはハマーンさんが丁寧に庭木仕事をしてくれている場所だ。
いくら私の土地だからって、勝手に荒らしてしまうのは申し訳ない。
少し探してみると、土が盛ってあるだけの場所を見つけた。
ハマーンさんに聞いて、問題が無いことを確認してからそこに撃ってみることに。
「――アクア・ブラスト!!」
私が手をかざしてそう唱えると、夢の中と同じ感じで、手から水球が弾け飛んだ。
「おおっ!」
「アイナ様、凄い……!」
「ふふふ。……あれ? でも、何だか疲れ――」
不意に身体から力が抜けて、体勢を崩す。
その瞬間、エミリアさんとキャスリーンさんが同じタイミングで身体を支えてくれた。
「わわっ、大丈夫ですか!?」
「いかがされましたかっ!?」
「うーん、ごめんなさい。何だか急に力が抜けて……」
「それは、魔力が一気に無くなったときに起こるものですね。
わたしも例のイヤリングをしていると、程度の違いはありますがこうなりますよ」
「ああ、そうなんですか……。
夢の中だと撃ち放題だったんですけど――」
「夢は夢、現実は現実ってことですね!」
「うぅ、世知辛い」
「アイナ様、そろそろお戻りになられますか?
まだ体調も万全とは言えませんし……」
キャスリーンさんが心配そうに言ってくる。
まさにその通りなので、今日はもう切り上げることにしよう。
……結局、ほとんどお喋りをして終わっただけになってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エミリアさんに付き添われて自分の部屋に戻ると、時間は15時過ぎだった。
まだまだ早いけど、今日はもうのんびりすることにしよう。
本格的に動くのは、明日からになるかな?
体力が持つ分、出来ることだけをする……って感じにはなるだろうけど。
まずは錬金術師ギルドに行って、少しくらいは依頼を受けて、テレーゼさんにも挨拶をして。
お金をほとんど貸し付けに回しちゃったから、本腰を入れて現金を稼がないといけないしね。
「……あ、そうだ。エミリアさん、証書の管理をありがとうございました」
「いえいえ。少し緊張しましたけど、何事もなくてなによりでした」
エミリアさんから金庫を受け取って中を確認する。そこには預けたときのまま、証書が12枚入っていた。
外に出しておくのも怖いから、さっさとアイテムボックスに入れてしまおう。
「そういえば昨日今日って、私ばかりが話しちゃってましたよね。
私が寝ている間、何かありしました?」
「はい、それなりに!」
「え、そうだったんですか? 先に教えてくださいよ!」
「余裕が出てからにしようかな、って思いまして。
それに昨晩は、夢の話で大盛り上がりでしたし!」
思い返せば昨日は寝付くまで、二人で夢の話をずっとしていたのだ。
話し始めたら面白くなってきて、それで終始してしまった……っていうか。
「あぁー、確かに……。
ついでに私、結構早く寝ちゃいましたしね……」
「そうです、そうです。しかも今日はお昼まで寝ていましたし。
また寝込んじゃわないかって、結構心配したんですよ!」
「むぅ……。さすがに昨日よりはマシになったので、もう大丈夫です!
それじゃ、何があったか教えてくださいな」
「分かりました!
えっとそれじゃ、まずはルークさんの件からですね」
え? ルークの件?
お屋敷から出ていったあと、今まで何の連絡もきてなかったけど……今って、一体どうしているんだろう?