私はうなづいて、心からオーナーに感謝した。
「でも、嘘をついたのはやっぱり心苦しい」
「嘘? 嘘じゃないだろ。全部、未来には現実になる話だ」
「そんな……。ちょっと強引過ぎませんか?」
「まずはお前のご両親やお見合い相手にわかってもらうために同居したんだ。俺達は結婚するから諦めてほしいと。ただ、それを徹底させるには穂乃果の周りの人にも同じように知ってもらう必要がある。もちろん、今はまだ……」
悠人は、一瞬下を向いた。
そして、ゆっくりと顔をあげて言った。
「俺はまだ穂乃果を振り向かせることができないでいる。不甲斐ないな。でも、俺は必ず……お前と結婚するから」
「悠人……。どうしてそんなこと言うの? だって、私とあなたは見た目から何から全部釣り合わないのに。私なんかと結婚するって言ったら、悠人のご両親や周りのみんながきっと反対する」
「俺が穂乃果と結婚したいんだ。周りは関係ない。ただ……それだけだ」
悠人はそう言うと、私の手を取って車に乗せた。
「食事をしたら店に行く。みんなに紹介するから」
「う、うん」
2人とも黙って、ちょっと気まずい空気が漂ってる。とにかく、オーナーが気持ち良く送り出してくれたから、私はしっかりと新しい環境で頑張るしかないと思った。
「あの……悠人のお店の人達は、私が急に働くことを何も思わないのかな? ちょっと不安で」
「それは気にしなくていい。ただ、まだ一緒に住んでることは誰にも言ってない。穂乃果を紹介する時に話すつもりだ」
「あっ、それは……まだ話さなくていいかな」
「……なぜ?」
「今、それを言ったらね、ちょっとお店でやりにくいかなって。いきなり同居してるなんて……」
「穂乃果は、俺が嫌いなのか?」
「だ、だから、そうじゃないよ。嫌いなわけないから。でも……」
「悪い。ちょっと……言い方がキツかった」
私は、首を大きく横に振った。
「……わかった。お前は俺のいとこ。同じマンション内に住んでることにする。だけど、俺も嘘をつくことになるから、だから……早くお前とのことを現実にして、みんなに伝えたい」
今度は、私は……首を縦に振った。
ごめん、もう少し待って……
今は、早くお店にも慣れたいし、もっといろいろ考えてから、ちゃんと悠人に返事をしたい。
それに、まだこの状況を信じられない自分もいる。こんなシンデレラストーリーが本当に自分に起こるのかって……
確かに、私さえ全てをOKすれば、2人とも嘘をつかなくて済む。でも……
複雑な気持ちを抱えながら、悠人と食事をして、夜になってから店に向かった。閉店時間を過ぎて、この時間はまだみんな揃っているらしい。
緊張する……ものすごく。
心臓の音がはっきり聞こえる。
この前、悠人と久しぶりに会って、その夜に髪を切ってもらい、そして、初めて悠人と……一夜を共にした場所。
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