テラーノベル
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完璧にできなくて、たとえ転んでも、どれだけ遠回りしても、それで駄目なんてことは決してなくて
いつだって立ち止まって、そこから選び直すことだってできる。
俺は尊さんの隣で初めて、未来を怖がることより、自分の意志で何かを「選ぶ」ことをしてみたいと思えるようになった。
いろんな“はじめて”を一緒に経験し、そのたびにモノクロだった俺の世界に、鮮やかな彩りが一筆ずつ増えていった。
尊さんと切磋琢磨して仕事をして、心から愛し合える恋愛をして。
尊さんと出会ってガラッと変わった、この愛おしい毎日が、たまらなく幸せで愛おしい。
ふと、温かな視線を感じて顔を上げると、そこには夜景よりも深く穏やかな瞳をした尊さんが、優しく微笑んでいた。
「恋、改めてだが……」
「はい?」
「これからも、よろしくな」
わずかに低く響いたその声に込められた、飾らないけれど真っ直ぐな温かさに、胸がいっぱいになる。
「っ……尊さん……」
視界がじわりと滲み、言葉に詰まって涙腺が緩みかけた。
けれど、尊さんはそれを察したように口角を上げる。
「おい、泣くなよ?」
「だって……こんなに…嬉しいこと言われたら…」
「まだ、プレゼントが残ってるだろ」
その言葉に、跳ね除けていた緊張が再び心臓を強く叩く。
そうだった。
俺もこの鞄の中に、今日という日のために用意してきた想いを忍ばせてきたのだ。
「……あっ、じゃあ、俺から先に渡してもいいですか?」
「ああ」
尊さんが深く、優しく頷いたのを確認し、俺は足元の鞄を慎重に探った。
取り出したのは、100均で用意した洒落た紙袋。
その中から、深いロイヤルブルーが目を引く、重厚な装いのギフトボックスを取り出す。
表面には、寄せては返す波のような優美な曲線が型押しされ、控えめな光沢を放っている。
中央で鈍く輝く「WATERMAN」の金文字が、安価な紙袋とは不釣り合いなほどの気品を漂わせていた。
「これ、一年記念のプレゼントです……どうぞ」
「…開けてもいいか?」
「はい」
尊さんが長い指先で丁寧に蓋を持ち上げると、白いサテンのクッションに鎮座した一本のペンが姿を現した。
光を吸い込むような漆黒のボディは、指に吸い付くようなしっとりとした質感を予感させる。
それとは対照的に、クリップや中央のリングは鏡のように磨き上げられたシルバーが硬質な輝きを放ち、全体の印象を凛と引き締めていた。
実物は、カタログの写真で見たとき以上に気高く、美しい。
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