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ガチャ、ギィーーッ。カランカラン。
恐る恐るドアを開けて入った。けれど二人とも気づかない。
- まじか、、、
- あの人まじ何者だよ、、、
- でもこの状況は少しワクワクする
二人は話を続けてて、俺が少し離れた席に座っても、それで物音がたっても気づかない。
話の内容は先生とナギがどういうやり取りをしてたかだった。榊さんも鍵閉めて奥にいってたから知らなかったもんな。俺が聞いた範囲じゃ今は、ちょうど俺が退席した後の話に移ってたところ。
- このまま聞き続けてもいいかな
- ずっと俺ばっか心覗かれてたんだし
- これくらいは許されるだろう
- たぶん、、、!
- ってこんな安直な考えするからか
- 先生じゃなくても思い通りってなるわ
- いや、やめよう
- これは考えない方がいいな、、、
雑念を捨てて、二人の会話に耳をすませた。
*
*
*
「アキーわたし頑張ったよ!?」
「ほんとうにすまない」
「じゃあ“これ”飲んでいい??」
「彼が来てからだ!それに許可はちゃんともらったか?」
「まだ、、、」
「じゃあ待て」
「えー!ちばーーー!!はよ帰ってこい!!」
「彼にも彼の繋がりがあるだろう。だから待ちなさい」
「うぅ、、、ちぃばぁああああああ!」
- そんな悲痛そうに叫ぶなよ、、、
ナギが俺が持ってきた酒を抱きしめて、俺を呼んでいる。けれど俺は既にいる。
- なんかもう出て行きづらい、、、
- ってか俺がいない間の先生やばいな、、、
俺が去ったあとの一部始終を聞く限り、ナギが不憫に思えてきた。でもなんか、発言の一部が変に“ノイズ”が入って聞こえてんだよな。
ある程度の概要はわかるからいいけど、、、
たぶん途中に入ったノイズは、対価として俺に課された制限なんだと思う。どうせナギの正体に関する発言だろうよ。
まぁそこはどうでもいいってしといてやろう。また痛むのは嫌だし、ここまでやってくれた相手が嫌がることをすんのもアレだし、、、
とりあえず今はバレないように気配を消しとこう。形だけでも。
- ってかどうやったら解けるのこれ?
*
*
「それにしてもよく耐えたな?」
「だって千葉が、、、危ないっていうけぇしょうがないっちゃんね?」
「お前のことだから、自分なら簡単にどうにかできる、なんて考えていると思ったんだが」
「やっぱアキも心読める?最初はそう考えてたよ??でもアキとか鬼海の方が、千葉をしっかり守れると思ったから、、、」
「俺はそこまでの力はないし、あの方なら力はあると思うが不安要素しかないぞ」
「それでもだよ。ボクだけじゃダメなんだよ。僕だけじゃ!癪だが鬼海に言われて気づいたんだよ、、、」
「なにをだ?」
「アタシだけの考えで行動してちゃダメだって。だからこれまでも失敗したし、、、きっとこれからも、、、たぶん、、、だから、ね?」
「ナギ、、、」
「それで最悪の結果になんてしたくないから。千葉を失いたくないから!それで頑張って耐えた!!店も壊さないようにもしたよ!!だからさ!!褒めて!!!そんでめちゃくちゃに甘やかして、、、ねぇ千葉?なんでいるの?」
「は?千葉くんは、、、あぁ、、、なるほど」
ナギが俺の方を見ずに話しかけてきた。
というか呟いたような感じだった。
榊さんは俺の方を見ると数秒ほど驚いたあと、なにかに納得した様子を見せ、その後に気の毒って目を向けてきた。
- わかってます榊さん、、、
- もっと早く、、、
- 俺から言い出せばよかったですよね
- でも言いたい、、、
- なんでこのタイミングでバレんだよ!!
恐る恐るナギに視線を戻す。
固まっている。
いや、よく見ると震えてる。
顔を下に向けたまま、両肩を抱えて、固まっている。銀色の髪の隙間から耳が飛び出てて、赤かった。
ちょうど着ている羽織りくらいに。
誰かこの状況でどう動けばいいのか教えてほしい。何を話すべきか、何を思うべきかでもいいから一刻も早く教えてほしい。
下手したら、脳内になにか思考を浮かべただけで俺の死が確定する。
気づけば俺も固まってた。
- いやナギは震えてるだけだから俺だけか
バッって
ナギが振り返った。
- しくった、、、
目が合う。
今度は色が揺れて赤くなって、、、いや充血してるのか?涙目?
- 顔も赤い、、、
- 酔っ払ってるように、、、
カランッ!コロンッ!
ナギの手から酒が落ちる。
それで視線も足元に落ちて、気づく。
少しずつ近づいてる。
- またなんかやらかしたか!?
恐る恐る頭に視線を戻せば、顔は下に向いて、ゆらゆら揺れてる。
「ナギ!落ち着け!!」
「お前が殴ったら千葉くんが死ぬぞ!!」
「だいじょうぶぅ〜うふふふ!ちょっと?ね?デコピン!ですよ?かるくかる〜く、、、ね?記憶なくす程度の、ね?ね?ね?いいでしょ?全部全部聞いたんでしょう?」
俺と榊さんの声にちょっと理性が戻ったみたいだ。けれどまだやばい。正気じゃない!
本能が死を予感している。
- やばいやばいやばいやばい!!!
加減するって言ってるけど無理だろ。こいつの加減って言葉に信用は皆無だ。それにもし記憶が飛ぶ程度で抑えられたとしても、障害が残りそうなんだが。
「ナギ!デコピン以外の方法はないか?それでさっきの記憶だけ消すとか無理があるだろ?今日の地獄を見た記憶まで消えるなら俺は恨むぞ!」
「じゃあ何?契約でも改めて結ぶ?でもねぇ、なんかね、ちょっとだけでいいから、ね?ちょっと千葉を小突きたいの今ワタシ」
ダメだ。言葉が通じない。
- ああ!もう!
- なんでこうなった?
- 俺が悪いのか?
- いや盗み聞きしてるから悪いか、、、
- いやいや!違う!その前だ!
- そうだよ!全部全部!
- あの妖怪外道精神科医のせいだ!!
- なにが
- 『今から君はぬらりひょんだ』
- だよ!!
- このやろう!!!
どうする、、、なにか!打開策を探せ!もうなにを考えても終わりなんだ!いっそ思考をフルに回せ!!!今日を振り返れ!いや人生の全てを振り返れ!!
って走馬灯を自発的に見始めた。そのとき榊さんの声が聞こえた。
「ナギ!酒飲んでいいぞ!!!」
この一言でナギの動きが止まった。
そして俺は反射的に便乗した。
直感が導き出した最適解に従って。
「その日本酒は今季限定の銘酒だ!めちゃくちゃにうまいぞ!!!」
「ほんと!?!?!?」
光を思わせる速さで急接近してきた。
腰が抜けそうになりながらも、ギリギリで耐えて頷く。
「アキーー!!お猪口!!!早く!!!」
「ほれ!」
榊さんがツチノコが描かれたお猪口をナギに投げた。それをやすやすとキャッチした。そして流れるように俺が持ってきた酒が落ちてる床にあぐらをかいて座った。
気づいたら酒瓶のキャップは外れていて、そのまま注ぐのかと思えば、ナギは目を閉じて静止した。黙想でもするかのように。
- いや実際に黙想してるわ
- めちゃくちゃ真剣だな、、、
数秒後、ナギが開眼した。ガンギマリすぎて、ちょっと引いた。
でもそのあとに続く動作はあまりにも流麗だった。酒を注いで、豪快にクイッと飲み干した。それだけなのに。
ちょっとだけ感嘆したが、そのあと台無しにされた。本人によって。
「クゥーーーーーーー!!!!」
ナギは酒呑み特有の鳴き声を発する。
- やっぱさっきの感動は無しだわ
天を仰ぎ、余韻に浸ってる。
満足のいく品だったのは明白だ。
ナギの暴走も収まったと考えていいだろう。
そう思ったら俺は床に崩れた。膝が笑ってる。
でも、この状況も少しおかしくて、顔も笑ってしまってる。安心もあるだろう。それ以外にもいろいろ。
「ははは、、、はは、、はぁ、、、、、、」
笑い声が自然にため息へと変わった。
- マジで死ぬかと思った
- 榊さんマジ救いの女神
どっかの国みたいに、ソフトクリーム持った巨大な像にしてもいいんじゃないかな。国を挙げて称えて欲しいくらいだ。
コメント
1件
わあ、めっちゃヒヤヒヤした……!千葉くん、バレた瞬間の「しくった」がすべてを物語ってますね。でも榊さんの「酒飲んでいいぞ」のナイスアシストと、日本酒で一瞬で機嫌直るナギのギャップに笑いました。走馬灯を自発的に見始めるところ、めちゃくちゃ共感。死ぬかと思った、のタイトル回収もかっこよかったです。次が気になります!