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このとき、グロスター公リチャードは
劇場の第二幕を開けた。
ざわめきの中、ゆっくりと立ち上がる。
視線は議会ではなく、
その先にいる“すべての観客”へ向けられていた。
「国王とエリザベス・ウッドヴィルの婚姻は無効である」
静まり返る。
「婚約者エレノア・バトラーは、過去においても現在においても健在である」
誰も動かない。
「ゆえに――」
一拍。
「その子、エドワード、リチャードともに庶子である」
空気が割れた。
「その王位継承は、無効である!」
リチャードの投げ入れた爆弾は、確かに炸裂した。
議会は騒然となり、
法律の専門家と教会関係者が呼び出される。
書類の山がひっくり返され、
過去が現在に引きずり出される。
貴族たちは動き出した。
それぞれの思惑を胸に。
そして、誰もが見ていた。
この“劇”を。
だが、まだ誰にもわからなかった。
これが――
悲劇になるのか。
それとも、喜劇として終わるのか。
あるいは。
誰にとっての悲劇で、
誰にとっての喜劇なのか。
カルドには、何が起こっているのか分からなかった。
「会いに行かなくちゃ」
口に出していた。
「会って、聞かなくちゃ」
だが――
足がすくんで、動けなかった。
知らせが、次々と届く。
リヴァーズ伯――処刑。
ドーセット侯弟リチャード――処刑。
ドーセット侯――グラツィアへ逃亡。
ヘイスティングス男爵――処刑。
エリザベス王太后――ウェスター寺院へ逃亡。
まるで、帳簿に数字を書き込むように。
人の生き死にが、淡々と並べられていく。
「リチャードは言ってた……」
カルドは、ぽつりとつぶやく。
「国王は自慢の兄貴だって。
ほれぼれするぐらい、かっこいい男だったって」
その言葉が、頭の中で何度も反響する。
「王家を守るために、俺はいるって……」
理解できなかった。
自分の知っているリチャードと、
目の前で起きていることが、つながらない。
その頃――
役者は、舞台の中心に立っていた。
そして高らかに宣言する。
議会はそれを受け入れた。
反論は、もうどこにもない。
万雷の拍手。
歓声。
そして――
リチャードは王となった。
カルドがどうしても気になったのは、
ただ一つだった。
あの塔にいる――
二人の兄弟のことだった。
頭の中が、恐ろしい速度で回転する。
「会うべきか」
「会わないべきか」
「聞くべきか」
「聞かないべきか」
「何を話す」
「何を話さない」
「どう話しかける」
——どれだけ考えても、答えは出なかった。
はじめは、王都での噂だった。
いまは、国中がそれでもちきりだ。
「塔にいる二人の王子は、リチャードに殺されたらしい」
「即位以来、見かけた者はいない」
「悪党が王とは、この国も終わりだ」
そんな中、王都に来いと命が来た。
カルドは短剣を忍ばせる。
覚悟を決めた。
「殺される前に……」
#追放
少年の心は、押し潰されそうな絶望に、
かろうじて耐えていた。
——後年、カルドは語っている。
この時ばかりは、自分の死ぬ姿を、
いくつも思い描いたと。
政治は恐ろしい。
権力とは、コインのようなものだ。
表には、顔がある。
——裏には、死者に花が添えられている。