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「…奈緒、頼む。話を聞いてくれ……」
リビングの床に這いつくばる健一は、かつての傲慢さが嘘のように小さく見えた。
高級ホテルのラウンジで里奈に暴れられ
さらには「ナオミ」にまで愛想を尽かされたショックで、魂が抜けたような顔をしている。
私はテレビのボリュームを少し下げ、冷え切った緑茶を一口飲んだ。
「話って?帰りが遅くなるから飯はいらないって言ったのは、あなたでしょう」
「それは……ごめん。俺がバカだった。あの、変な女に絡まれて……仕事も危ないかもしれないんだ」
健一は必死に言い訳を並べる。
里奈との不倫も、ナオミへの貢ぎ物も
すべて「魔が差した」「仕事のストレスだった」と。
どこまでも自分勝手で、反吐が出る。
「仕事が危ない? 困るわね。あなたが稼いでこなくなったら、この家も維持できないじゃない」
「わかってる! だから、お前だけは味方でいてくれ。奈緒、お前は俺を見捨てないよな?」
健一が私の膝に手をかけようとした瞬間、私はスッと立ち上がった。
「そうね……。とりあえず、そのボロボロの服を脱いで。洗濯してあげるから」
「……! 奈緒……!」
健一の目に、救いを見つけたような光が宿る。
バカな男。私が彼を許したとでも思っているのだろうか。
私が彼の服を洗濯するのは、証拠を確実に押さえるため。
そして、彼を「私がいないと何もできない無能な子供」として飼い殺すためだ。
◆◇◆◇
翌日
健一が出勤した後、私はナオミとしてのスマホを開いた。
そこには、健一から何百件もの謝罪メッセージが届いている。
私はそれをすべて無視し、代わりに「里奈」へと連絡を入れた。
『サレ妻の味方:里奈さん、昨日はお疲れ様でした。健一さん、家では「あんな女、最初から遊びだった。やっぱり妻が一番だ」なんて笑っていますよ。悔しくないですか?』
すぐに里奈から、怒りに震える音声入力の返信が届く。
『里奈:絶対に許さない!あいつのデスクから盗んだ重要書類のコピー、全部週刊誌と、あいつの実家にも送ってやるわ!』
(いいわ、その調子。あなたの手で、彼の「逃げ道」を一つずつ塞いでいって)
夕方、健一が疲れ果てて帰宅すると
私は彼のために「彼の大好物」ばかりを並べた豪華な夕食を用意しておいた。
久々の手料理に、健一は泣き出しそうな顔で食らいつく。
「うまい……。やっぱり、お前の飯が一番だ。奈緒」
「そう。しっかり食べて、元気を出してね。……明日からは、もっと大変になるんだから」
私は微笑みながら、彼のグラスにビールを注いだ。
健一は、その笑顔の裏にある「毒」に気づかない。
彼が今食べているのは、彼をこの家に縛り付け、自立する力を奪うための「餌」だ。
社会的に死に、愛人に呪われ
唯一の光だと思っている妻は、実は自分を地獄の底へ突き落としたナオミその人である。
その事実に彼が気づくのは、すべてを失い、一歩も動けなくなったとき。
「健一さん、美味しい?」
「ああ、最高だよ、奈緒」
健一の頬を、引っ掻き傷の上から優しく撫でる。
私の指先は、復讐の悦びでわずかに震えていた。
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#大人ロマンス
#サレ妻