テラーノベル
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コソコソ・・・「もう母さん達は寝てるから静かにっと・・・」
桜子の部屋は二階の南向きの六畳間だった、祖母が建てたこの家はもう五十年近く経っていて、両親が何度も改装を重ねてきたせいで外壁だけは真新しいく張り替えられているが、中に入ると古いままだ
一階には両親の寝室とリビング、それから台所があり、二階には桜子の部屋ともうひとつ、かつて兄が使っていた部屋がある、兄が出て行ってからは二階全般が桜子の住居になった
キッチンの電気をつければまぶしさで親が目を覚ましてしまうため、桜子は流し台の上にある小さな蛍光灯だけをカチリと点けた
ジジ、と一瞬だけ明滅してから灯る明かりの下で、桜子は泥棒のように抜き足差し足で食べ物を漁り、戸棚の奥からカップラーメンとポテトチップス二袋、冷蔵庫からプリンを二つ拝借して二階へ戻った
ズズズ・・・「夜中に食べるから太るのよね~でもこれがやめられないのよ」
カップラーメンを啜りながら、再びデスクトップパソコンの前に腰を下ろした、液晶画面の縁は指の脂でうっすら曇り、キーボードの隙間にはパンくずや、スルメの繊維が入り込んでいる・・・あした掃除しよう・・・
「え?いつの間に?ポテトチップスなくなっちゃったの?」
何か作業をしながら物を食べるとあっという間に無くなって、食べた記憶が無い、しかしいくら記憶が無くても体にはしっかり蓄積される
長年座り続けた椅子には、毛玉だらけの汚れたひざ掛けがかけてあり、足元には毛糸のスリッパ、散々とした机も自分しか座らないのだから気にならない
桜子はまたマウスを動かし、『春ウララ』の更新された話を開く、すると!
「げっ!春ウララ!!商業デビューしたんだ!!しかも大手出版!!マジッ??」
思わず声が裏返った、倒しそうになったカップラーメンの容器を押さえ、桜子は慌てて画面を二度見した
春ウララのお知らせページには堂々と自分の原作がコミックになると宣伝していた、桜子はショックを受けた・・・
自分が小説教室でウザい生徒相手に四苦八苦していたり、兄に説教をされているうちに、「春ウララ」には商業化の話が来ていたのだ・・・
しかもコンテストで賞など取らないで、小説サイトに投稿しているだけで出版社が目をつけた、いわゆるシンデレラのような「拾い上げ」だ
多少なりとも商業作家ならば、桜子であれ誰であれ・・・全く苦労せずして成功の大当たりを引いた人物に必ず妬ましさに駆られる
そしてその不公平に対する苦々しさを、これでもかと噛み締める、冷えた部屋の空気が急に肩に重たくのしかかってくるようだった
カチッカチッ「あれ?・・・あれ?どういうこと?春ウララのページ見れなくなっちゃった・・・え?「X」も?なんで?」
何度リロードボタンを押しても、「投稿が見当たりません」の文字だけが白い画面に浮かぶ
そこで桜子は春ウララに「ブロック」されたことに気が付いた、そして余計に彼女に腹が立った
ムッカーッ!「何よ!春ウララ!私をブロックするなんて!読ませない気ね!そんなこと無駄なのよっっ!」
すかさず桜子は怒りに任せて、新しいGメールアカウントを取得して「ハブリスタ」と新規「X」さらにウララが投稿している小説サイト全部の新規アカウント「ウララの作品を読む専用垢」を取って投稿を読む
マウスをクリックする手つきには、さっき「パクりすぎたかな?」と思った罪悪感など消え失せていた
「フンッ!私をブロックしたって無駄よ!違うアカウントで読んじゃうもんね~~っだ!そもそも、こうやっていくらでもアカウント取って読めるんだからブロック機能なんて必要ないのよ!」
悔しい思いを抱えながら春ウララの小説を読んでいく、大手出版局のコミカライズ化を勝ち取るにはおそらく何百人ものサイトに小説を投稿している輩を出し抜かないといけなかったんだろう・・・
春ウララは小説界隈ではまだまだ小者かもしれないが、少なくとも、彼女の作品を評価して商品として世に出したいと思った編集者がいたのだ、そう思うと桜子は妬むと共にすっかりへこんだ
画面にもたれるように肘をついたまま、しばらくぼんやりとカーソルの点滅だけを眺めていた
空音
37
シュメール
604
39
2,810
コメント
3件

ブロックしてるのに別垢なんてストーカーじゃん💦
ブロックされてもなお…負の連鎖だね🥺
星キラリさん、第13話読みました。 夜中のこっそりカップラーメンとポテチ、めっちゃ共感しちゃいました(笑)。でもそこから春ウララさんの商業デビューを知って嫉妬する流れ、ものすごく生々しくてドキドキしました。特にブロックされて逆上して複垢を作るところ、現実のネットの恨みが透けて見えるみたいで怖かったです。桜子の心情の揺れが細かく描かれていて、続きが気になります!