屋敷内に寒珋を運んで貰った日からだいぶ日が経った。
なのにも関わらず、目が覚める気配は無い。
いわば植物状態というのだろうか。
「私のせいだ…」
私が自分勝手に暴れたから…
そんな呟きをしても返ってくるのは無音の静けさ。
藤の龍の力を使えれば寒珋のことも助けれるのかな。
でも藤の力が使えたのって強い感情が動いた時と突発的に起きるのしか…
いや、違う。
もう1つあった。
おばあちゃんから教わった歌を歌った時。
でも前歌ったのは召喚みたいだったし…
おばあちゃんが歌ってた歌…
=====
「『特の花を想い人に向け、あはれと思え。力は汝らに告げた。【自互いの手を握り、強く思え。さすれば汝らの望みが叶うだろう】と。』捧げ物は要らず、備えも要らず。ただ志を捧げることを我は望まん。」
「ばあば、それなんの歌?」
「この前の歌と違う〜!!」
「これはね、『想い人の癒し唄』よ」
頭に流れ込んでくる記憶。
そういえば幼い頃は『ばあば』って呼んでたっけ?
こう呼んだらおばあちゃんは笑顔になるんだよなぁ。
だから呼んでた。
だけど成長していくにつれ、
呼ばなくなってて…
そのままおばあちゃんは亡くなっちゃったんだっけ…
最期くらい呼んであげればよかったな…
唄と共に懐かしく切ない記憶を思い出し、
浸りながらもその唄を歌った。
だが、何も起こらなかった。
「え?なんにも起きないじゃん…」
「もしかしてもう手遅れとか…?」
思いが口に出てしまう。
でも、
それくらい、
私にとって寒珋は大事な人なのかもしれない。
いつの間にか、
気づかないうちに、
そうなっていたのかもしれない。
てか唄だけじゃなかったような。
なんか前文みたいなのもあったような…
「あ!!」
思わず声が出てしまい、
慌てて自身の手で口を塞ぐ。
でも思い出した。
想い人の癒し唄。
「想い人の光を好く者よ
それが途切れし時に この唄歌わん」
「特の花を想い人に向け、あはれと思え。力は汝らに告げた。『自互いの手を握り、強く思え。さすれば汝らの望みが叶うだろう』と。」
「捧げ物は要らず、備えも要らず。ただ志を捧げることを我は望まん。」
そう唱えるように唄うと辺りが光に包まれた。
いつもは藤の花も一緒に舞ってたのにも関わらず、
今は藤の花弁以外も舞っている。
黄色いものもあれば、
緑の葉のようなものもある。
中には時々白く光るものだってあった。
それに見とれていると
「先生…?」
という声が聞こえた。
馴染みのある声。
寒珋が目覚めたのだ。
「先生!!」
急に寒珋が抱き締めてきた。
どうやら私を誰かと間違っているようだった。
「寒珋、私だって…!!」
「先生じゃないから…!!」
そう私が叫ぶとハッと我に戻ったかのように
「小娘…?」
「…今のは忘れてくれ」
そう言って私から顔を逸らした。
何か隠し事をしているかのように。
どのくらい時間が経っただろうか。
数分ほどだろうか。
そんな時くらいに寒珋は涙を零し始めた。
鼻をすする音だって聞こえる。
私にはどうすることも出来なかった。
寒珋のことなんて何も知らないし。
千秋と赤の女帝みたいに仲良くもないし。
それでいて、
藤の力はもう私のモノじゃないし。
でもさっきはなんで力を使えたんだろう。
もしかして…
まだ無くなってない?
じゃあ私の勘違いでこんなことになったってこと?
じゃあ結局悪いのは私じゃん…
千秋には悪いことしちゃったな…
「小娘、俺と先生の話を聞いてくれるか?」
「…独り言のように流してくれても構わない」
口調には何ら変わりない。
だけどいつもの凛とした雰囲気とは違って、
幼い子供のような雰囲気が漂っていた。
「うん…」
「分かった」
「俺の…冬の帝王の先生は藤の龍だった」
「でも何故か赤の地の奴らは先生を嫌ってる」
嫌ってるってことは何か理由があるとか?
「そういえば赤の地の “ 奴ら ” ってことは他にも赤の地の帝王とか女帝は居たの?」
「赤の地の奴らは元々、人間だった奴らだ」
「でもそれ以外の各地は神が司っている」
赤の地以外ってことは、もしかして寒珋も?
てことはだいぶ私、
無礼働いちゃってるってこと?!
「それで話を戻すが…」
「元々、季節は9つあって春夏秋冬の4つとそれを繋ぐ4つ。そして全てを司る透の龍が居た」
透の龍?
てことは他の8つの龍の母体っていう感じかな。
「そしてもう1つ、黒の龍が居た」
「黒は瘴気を放ち、ニンゲンと協力をして龍たちを捕らえ始めた」
「俺と赤の女帝以外の地は死んだ」
「藤も死んだと思ったんだ」
なるほどね。
でも、
じゃああの白猫と桜を纏っていた女性は何なのだろうか。
春夏秋冬はまだ生きてるんじゃないの?
「そんな時に小娘、お前が現れたんだ」
「しかも藤の力を持って」
「それで確信したんだ」
「『藤』はまだ生きていると」
もし、他の地の龍が生き返ったら寒珋は笑ってくれるかな。
きっと笑ってくれるよね。
あのハープの力を使えば、
無理やりにでも生き返らせることは出来るんじゃないかな。
たとえ私自体が消えたとしても。
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