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#追放
「どうだった?」
グロスター公は聞いた。
「こ、国王陛下は……病が重いような」
「そうだな」
「たぶん、もうすぐ……」
「死ぬ」
カルドは息をのんだ。
リチャードは、まるで明日の天気でも言うように口にした。
「皇太子は?」
「立派なお方です。よい王様になられるのではと」
「……俺もそう思う」
リチャードは薄く笑った。
「だから困るんだ」
カルドは黙った。
一言も聞き漏らすまいと、全神経を耳に集める。
「お前さん、もし俺が」
「皇太子を殺してこい、と言ったら――どうする?」
カルドの頭が、ぐるぐると回る。
なんと答えるのが正しい。
いや、このヒトに“正しい答え”なんてあるのか。
「え、ええと……」
「冗談だよ、馬鹿」
リチャードは鼻で笑った。
「“はい、行きます”なんて言ったら、その場で殺してた」
カルドは乾いた喉で、どうにか言葉を返す。
「……それも、冗談ですよね」
「冗談と本気を混ぜることが人生だ」
「覚えとけ」
カルドは思った。
このグロスター公リチャードという男は、
恐ろしい。
だが、それ以上に――目が離せなかった。
カルドはその後、屋敷にとどめ置かれた。
ギルドのマスター、サッシャーもそれは承知していた。
ギルドに顔を出すのは構わない。
だが――グロスター公に呼ばれたときは、必ず屋敷にいること。
それが条件だった。
暇つぶしだったのか。
それとも、別の思惑があったのか。
グロスター公はカルドに剣を習わせた。
天賦の才か、あるいは生き延びるための勘か。
その腕は、見る間に上達していった。
「俺が出かけるときは、そばにいろ」
「剣は帯同してもいい」
そう言われた。
給金も支払われた。
最初に手にした五千ディナールは、
翌年には四万ディナールに膨れ上がり――
その翌年、海の藻屑となった。
ここで、エスカリオ王家の王位継承戦争について、
少しお話しいたしましょう。
エスカリオでは古くより、
二つの大貴族が王位を巡り争っておりました。
一つはヨーク家。
現在の国王、エドワードはこの家の出です。
もう一つはランカスター家。
先の王、ヘンリー六世、そしてその子エドワードは――
先年の戦いにおいて、
グロスター公リチャードの手により討たれております。
サイラスは一度言葉を切る。
「――さて」
わずかに口元が歪んだ。
「ここからが、実に興味深い」
「討たれたエドワードの未亡人、アン」
「彼女はこのお話の時点で――」
一拍。
「そのグロスター公リチャードの、妻なのです」
静寂。
「理解に苦しむでしょうな」
「だが、これが現実です」
扉を開けると
そこには美しい女性が窓の外を見ていた
「すいません、部屋を掃除するように言われました」
カルドは隅のほうに移動すると
近くに来るようにと促された
「あの人が港で拾ってきたおもちゃね」
「おもちゃじゃありません、
カルドといいます」
「ふうん、あなた彼女はいるの?」
「います」
「いないのね」
「もし、港に私が欲しがりそうなものが出てきたら
持ってきて頂戴、買ってあげるわ、
代金はあの人が払うわ」
「それと
私が本当に欲しいものあてられるかしら」
「人はね、欲しいものを言葉にできないのよ」
カルドは後年、アンのことをこう語る。
「最初に見た“大人の女”だったな」
少し笑って、続ける。
「本当に欲しかったものは――今でも分からん」
一瞬、間。
「ただな」
「リチャードは、本気で惚れてたと思う」
「……まあ」
肩をすくめる。
「俺と同じで、女心には疎かったんじゃないか」
「ん?」
「あんたの奥さんは、料理つくったり、洗濯したりはしないのか?」
「……なんだ急に」
「いや、ケンプの母ちゃんはやってたからさ」
「ああ、会ったのか。あれに」
リチャードは軽く鼻で笑う。
「彼女の父は、リチャード・ネヴィル――キングメーカーだ」
「この国の王を“決めてきた”男だよ」
カルドは眉をひそめる。
「なんだよそれ、国で一番偉いのは王様じゃねーのかよ」
「……ふむ」
リチャードは少しだけ考える素振りを見せた。
「確かにな」
「お前たちにとっては、我々の争いなど取るに足らん話かもしれん」
カルドは構わず言う。
「じゃあよ、好きでもないのかよ」
「愛してないのかよ」
一瞬、沈黙。
リチャードは――笑った。
「お前、面白いな」
「退屈しない」
ゆっくりとカルドを見る。
「もちろん、愛しているさ」
わずかに間を置いて、続ける。
「……まあ、お前ごときには分からん話だろうがね」
カルドは口を尖らせた。
リチャードは興味を失ったように視線を外す。
「そんなことより、友人が来る」
「だれ?」
「バッキンガム公ヘンリー・スタッフォードだ」
扉の方へ歩きながら、ふと振り返る。
「会ってみるか?」