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雲の少ない空に陽が昇り、その様子を、頬杖をつきながら窓硝子越しに焔が見ている。少し前に確認した懐中時計は午前十時を指していた事を思い出し『流石にそろそろ起こすか?』と彼は考えた。


それにしてもだ、『魔王を倒して元の世界へ帰る』という最終目標の為には、リアン曰く、彼との“好感度”とやらを上げていないといけないらしいのだが——


(……既に『最高値まで上がった』とか言っていなかったか?昨夜)


じゃあもう魔王が住むらしい城に向かっていいのか、それともまだ色々と準備や工程が必要なのか。その辺についても随分と詳しく知っていそうなのですぐにでもきちんとリアンに訊きたい気もするが、昨日の事を思い出してしまい、焔がテーブルにゆっくりとした動きで突っ伏していった。頰や耳がほんのりと赤く、とてもじゃないがまともにリアンの顔を見られる気がしない。だがしかし、白い布の目隠しのおかげで視線を合わせる事は絶対に無いのだし、適当に誤魔化せる気がしなくもなかった。


「なぁ、ソフィア」

『はい、お呼びですか?主人』

焔が着て寝た寝衣などを洗い、外の木と木の間を紐で繋げて作った簡易物干しにそれらを干して来たばかりのソフィアが明るく返事をする。もうすっかり家政婦状態で、本来の役割とは全くかけ離れた仕事ばかりなのだが、やっぱり本人は気にしていないみたいだ。

彼は根が世話焼きの性格なのだろう。だからオウガノミコトに今回この任務を任されたに違いない。


「リアンのページを見せてくれないか?何か変化が無いか、知りたいんだが」


突っ伏していた顔を少し上げて焔がテーブルを指先でトントンッと叩く。此処へ来いという意味に違いないと受け取り、ソフィアが『はい只今』と答えて焔の前に寝転んだ。

『リアン様のページは——』と言いながら、勝手にページがパラパラと開かれていく。リアンの説明書がされている所までたどり着くと、捲る動きがぴたりと止まった。


中世辺りの古い書籍に描かれているみたいなデザインながらも割とリアルに描かれた線画で、リアンの立ち絵は本人並に美しい。名前の欄には“リアン”と書かれてはいるが、種族などの詳細は相変わらず鍵マークが入ったままだ。だが、身長・体重といった見ればある程度は推察出来る情報だけは解禁になっていた。

『昨日よりは埋まっていますね』

「スキルも昨日使った一つだけは書かれているが、他はまだ不明なままか」

そう言って、残念そうに焔が息を吐く。 どうやら色々な能力をまだ複数個持っている事は確かみたいだが、実際に使わせてみないとリアンがどういった能力を持っているのか知る事は出来そうに無い。この辺はゲームの様に、事前にわかった上で命令するというわけにはいかないみたいだ。


『おや?この、“好感度”とは何でしょうか?ここは昨日見た時にはまだ鍵マークで何の欄なのかすらも不明でしたよね?』


「……」

黙ったまま、焔の肩がビクッと跳ねる。 二人で話していたおかげで気が逸れていたのに、ソフィアのせいで昨日の行為を再び思い出してしまった。浮気などをした訳ではないのだ、後ろめたい事など何もないのに何だか無駄に気不味い。とても、かなり。


『……しかも最高値にまで上がっていますね。いつの間にそこまで親しくなったのですか?』


特に深い意味も無く訊いたソフィアの一言で、焔がガンッ!と大きな音を立ててテーブルに頭突きをしてしまう。こんなに動揺するようなタイプだとは思っていなかったので、ソフィアが驚き、焔の頭突きのせいで洋書である彼の体が天板の上でポンッと跳ねた。

『ど、どうかされましたか?主人』

「いいや……何でもない。——それよりも、だ」

『はい。何でしょうか、主人』

「あー……あれだ、えっと、『ふりぃふぃいるど系』?だったかのゲームによくあるようなサブクエスト一覧みたいなものは、この世界にもあるのか?あるのだとしたら、何処かギルドみたいな場所へ行って受けるのか?それとも最初からもういくつかあるのか」

『よくご存知ですね!』

「聞き齧った程度の知識だから、これ以上は知らんぞ」

好感度の件からは話を逸らすことに成功したか?と思いながら、焔が顔を少し持ち上げて様子を伺う。ソフィアはスルースキルが相当高いのか、驚きながらも焔の意図をきちんと汲み取って逸れた方へ話を合わようと決めてくれた。

『初期段階から何個か用意されています。が、“薬草を五個集めましょう”といった収集系のものは……その、昨晩の収集の結果、勝手にワタクシがクリアしてしまい既に“回復薬”を複数個受理済でございまして……。ふ、不思議ですよね!勝手に持ち物一覧の中に報酬が追加されてしまうのですから。元の世界では配達人の方々が苦労して届けて下さるというのに、この辺は流石ゲーム世界といった感じです』

早口気味にそう言うソフィアの声はちょっと居心地が悪そうというか、焔の機嫌を伺っている感がある。焔がまさかクエストなどに興味を持つとは思っておらず、勝手な行為をしてしまった事を悔いているが、これはきちんと謝るべきなのかと迷ってしまう。

「いいんじゃないか?別に。俺は自分で森中のあちこちを巡って色々集めまくる様な面倒事を一々やる気なんか元より更々無いのだしな。宝物庫に襲撃をかけて、全てを一度に奪い取る方が性に合ってる」

『良かったです、主人が面倒くさがりなお方で!』

「……ハッキリ言うんだな、まぁ嫌いじゃないが」

頬杖をつき、焔がクスクスと笑う。穏やかな雰囲気に包まれ、ソフィアもちょっと嬉しそうな空気を纏った。


「さてと——」

銀色の懐中時計で時間を確認しながら、焔が立ち上がる。

「特に用事も無いが、流石にそろそろリアンを起こしてくるか」

『ではワタクシは、新たに発生した収集系のサブクエストをクリアして来てもよろしいですか?』

パタンッと体を閉じて、ソフィアが浮き上がった。

『リアン様が昨日色々と主人の能力値を割り振りしてくれていますので、素材さえ集まれば裁縫用の作業台などの作成が出来るかもしれません。なので、それらの素材も集めて参りますね』

「便利だな、お前は」

『はい!多分……焔様の性格を見越して、オウガノミコト様がワタクシをお選びになったのでしょうねぇ』

ちょっと遠い目をしているふうにしみじみと言われたが、焔は言い訳もせずに「そうだな」と素直に認めた。


『では主人、行ってまいります。荷物が満杯になるまでは戻りませんが、よろしいですか?』

「あぁ」と短く答え、着物の懐に懐中時計を焔が仕舞う。

そして、ソフィアの外出を見送るでもなく椅子から立ち上がり、彼に背を向けて二階への階段をあがって行く。そんな主人の後ろ姿を見ながらソフィアは自分の体をこっそりと開き、リアンについて書かれたページを再確認した。


(……しかしこの、次から何ページも続く、【リアンとの思い出】というものは一体何なのでしょうねぇ?まるで、恋愛シミュレーションゲームのイベントスチルでもそのうち絵描かれそうな、鍵マークの入った四角いコマが何個も並んでいますけども。まさか、まさか……この世界って……。いやいや、オウガノミコト様はそのようなゲームの企画を使ったなどとはおっしゃっていませんでしたし、ワタクシの気のせい……ですよね?はははっ)


軽く首を振るみたいに洋書が動き、パタンッ体を閉じる。

あと数ページ捲った先に、昨夜の風呂場での痴態をバッチリと描いた絵が我が身に既に表示されているとも知らず、ソフィアは意気揚々と素材集めの為、森へと出掛けたのであった。

いつか殺し合う君と紡ぐ恋物語

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