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第3話「砕く者と跳ねる者」
> 「お前のドリル、回ってねぇじゃねぇか。そんなんじゃ、鉄も泣くぞ?」
火花が散る。空にまで届くほどの振動が、地面を揺らしていた。
**“跳ねるドリル”と“砕く杭”**がぶつかるその場所に、
カンナと――爆裂杭を担いだ女海賊が対峙していた。
その女の名はエンカ。
肩まである紫の髪は、焼け焦げた風に吹かれながら揺れている。
片目はバイザーで覆い、右腕は黒鉄でできた義手。
背中には**重量過多な爆砕杭《タナトラ》**が無造作にぶら下がっている。
「へぇ。あんたが“鉄ノつめ”の再起組?随分と細い腕で鉄掘ってるんだね」
「腕は細くても、ドリルは太いよ。あと……唄える」
赤茶の三つ編みをなびかせ、カンナは腰に固定していたドリルを持ち上げた。
起動音とともに刃が唸り、風を裂くような旋律を描く。
エンカはニヤリと笑い、爆砕杭を肩に担ぐ。
「唄?……ちっちゃい金属がお喋りしてるのを真に受けたか。鉄は砕いて掴むもんだよ」
次の瞬間、爆音。
エンカの杭が地面を叩くと同時に、破片が弾丸のように飛び散る。
カンナは一歩踏み込み、回転ドリルを盾のように立てる。
火花と衝撃音が重なり、煙の中で姿が見えなくなる。
「ドリルってのはさ、回すだけじゃダメなの」
煙の中から聞こえる声。エンカが目を細める。
「“踊る”んだよ!」
その刹那、カンナが煙の中から跳躍する。
空中で身体を半回転させながら、右手のドリルで地面に斜めに突き刺さる。
キィィィィン!!
斜面に沿って回転したまま滑降するカンナ。その軌道はまるで火の弧。
その背後を追うように、小型の採掘獣ヤスミンが軽やかに跳ねる。
カンナは地を掘り、跳ね、斬るように軌道を描いていく。
エンカが次の一撃を叩き込もうと杭を持ち上げたとき、
真下の地面が割れ、彼女の足元が崩れる。
「“お喋りな金属”が、あんたの足元が空っぽだって教えてくれたよ」
爆裂杭が落下とともに地面に突き刺さるが、カンナのドリルが真横からそれを払う。
ガァァアアン!!
炸裂のエネルギーが軌道を外れ、上空で爆ぜた。
カンナは静かに、地面に手を添える。
ドリルはまだ小さく回っている。
> ……うん。ここにも“いた”ね。
言葉にしなくても伝わる何かを、地の奥に感じる。
怒っていたのか、泣いていたのか、喜んでいたのか。
ただ、そこに確かに“誰か”の気配が残っていた。
「鉄を砕くのもいいけどさ。あたしは、その声を、もう少し聴いていたい」
エンカは立ち上がり、鼻で笑った。
「妙な掘り方だね。けど──ちょっと、格好よかったよ」
そしてそのまま、闇の中へ消えていった。
カンナは火花の残光のなかで、もう一度ドリルを握り直す。
「じゃあ、次の唄。聴きにいこっか、ヤスミン」