テラーノベル
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ラバウルの過酷な特訓が始まってから、数ヶ月が瞬く間に過ぎ去った。
僕の真新しかった飛行服は、今やガソリンと油、そして流した汗のせいで、ベテランたちと同じように黒ずみ、独特の凄みを帯びていた。
そして、ついにその日がやってきた。
ガタルカナル島上空。敵戦闘機(F4F)の大編隊と激突した瞬間、僕はこれまでにないほど、自分の頭の中が冷徹に冴え渡っているのを感じていた。
「速中、大石! 右から二機突っ込んでくるぞ!」
坂井一飛曹の鋭い警告が無線から響く。
以前の僕なら、その声にビビってがむしゃらに引き金を引いていただろう。けれど、今の僕は違った。
「大石、俺の左後ろをキープしろ。宮部さんの死角をカバーする!」
「は、はいっ!」
操縦桿をわずかに傾けるだけで、僕の零戦はまるで体の一部のように滑らかに、かつ獰猛に空を切り裂いた。
宮部一飛曹から叩き込まれた「徹底的な空間把握」と、景浦から実戦で奪い取った「狂気的な急旋回」。それらが、一年半で士官学校を卒業した僕の天性の才能と完全に融合していた。
突っ込んできた敵機の動きが、まるで止まっているかのようにハッキリと見える。
敵が射線を通そうとしたその一瞬先を読み、僕は機首を強引にひねって敵の死角へと回り込んだ。
バリバリバリッ!
無駄のない、正確無比な一連射。
20ミリ機銃の曳光弾が敵のコックピットを正確に撃ち抜き、敵機は爆発を起こしてジャングルへと消えていった。
「……っ、うそだろ」
後ろを飛ぶ大石の、驚愕に満ちた声が漏れる。
けれど、僕の猛進はそこでは終わらなかった。
背後から忍び寄る別の敵機を、首がちぎれるほどの後方警戒で察知する。
ひらりと身を翻すその軌跡は、かつてこの空で消えた笹井中尉の美しい三色尾翼を、そして「ラバウルの魔王」と恐れられる西沢一飛曹のあの不気味なひねりを彷彿とさせた。
二機目、撃墜。
「おいおい……なんだあいつは」
無線越しに、坂井一飛曹の呆れたような、けれど歓喜に満ちた声が響く。
隣を飛ぶ宮部一飛曹の零戦が、風防越しに僕を見て、深く頷いたのが分かった。あの景浦でさえ、獰猛な笑い声を上げて敵を蹴散らしている。
恐怖に叫びながらうっかり落としたあの日から、僅か数ヶ月。
僕は、怪物たちに育てられ、彼らを超えるための『本物の怪物』へと羽化を遂げていた。
この戦功を皮切りに、僕はラバウルの空で凄まじい数の撃墜記録を叩き出し、周囲の度肝を抜きながら「中尉」への昇進を果たすことになる。
コメント
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読了しました。「怪物ノ羽化」というタイトルが、まさにこの回のためにある感じで痺れました。数ヶ月前まで恐怖で叫んでいた主人公が、先輩たちの技を全部飲み込んで「本物の怪物」に羽化する——その成長の説得力が凄い。飛行服が黒ずむ描写とか、敵機が止まって見える感覚とか、覚醒の瞬間が映像として浮かびました。笹井中尉や西沢さんの名前に触れて、「受け継いだ者」としての強さも感じられて胸が熱くなります。次が気になります!
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