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第二話 届かない想い
嵐の夜から数日が経った。
海は再び穏やかさを取り戻し、青く透き通る水面がどこまでも広がっている。
けれど、リリアの心だけは落ち着かなかった。
「また来てるの?」
また呆れた声が聞こえる。
振り返ると、兄のレオンが腕を組んで浮いていた。
「……うん」
「最近ずっとだな」
レオンはため息をつく。
「そんなに人間の世界が気になるのか?」
リリアは少し迷ってから答えた。
「人間の世界っていうより……」
言葉が詰まる。
あの日助けた王子の顔が頭に浮かんだ。
金色の髪。
優しそうな瞳。
意識を失う直前の苦しそうな表情。
「気になる人がいるの」
レオンの顔が固まった。
「……は?」
「人間の王子様」
「はあ!?」
海中に声が響き渡った。
近くを泳いでいた魚たちが一斉に逃げていく。
「ちょっ、声大きい!」
「いや大きくもなるだろ!」
レオンは頭を抱えた。
「お前まさか恋とか言わないよな?」
「こ、恋じゃないもん!」
「顔真っ赤じゃないか!」
リリアは慌てて顔を隠した。
自分でも分かっている。
最近ずっと王子のことばかり考えていることを。
目を閉じれば顔が浮かぶ。
眠る前も。
目覚めた後も。
気づけば考えてしまう。
「危険だぞ」
レオンは真面目な声になった。
「人間と人魚は違う世界の生き物だ」
「……分かってる」
「ならやめておけ」
リリアは何も答えなかった。
その日の夕方。
リリアは再び海面近くへ来ていた。
最近の日課だった。
人間の世界を眺めること。
そして——王子を探すこと。
王城の近くの海岸。
そこからなら王宮が少し見える。
「あ……」
リリアは思わず声を漏らした。
F . K . #⛄️ 🍼 🥷
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ヨハク
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#BL
りすぐみ
23
りすぐみ
17
王宮の庭園。
そこに王子がいた。
遠くからでも分かる。
あの金色の髪。
間違いない。
「本当に生きてた……」
助かったことは分かっていた。
それでも実際に元気な姿を見ると安心する。
王子は庭園を歩いていた。
周囲には護衛がいる。
だが王子は気さくに使用人へ声をかけ、子どもたちには笑顔で手を振っていた。
「優しい人なんだ……」
自然と笑みがこぼれる。
その時だった。
庭園へ一人の少女が現れた。
白いドレス。
長い栗色の髪。
あの日、浜辺で王子のそばにいた少女だった。
「あ……」
王子は嬉しそうに少女へ近づく。
少女も笑顔を返す。
二人は楽しそうに話していた。
距離も近い。
親しげだ。
リリアの胸が少し痛んだ。
「そうだよね……」
あの日。
王子は少女に助けられたと思っている。
当然だ。
目を覚ました時に目の前にいたのは彼女だったのだから。
「別に……いいもん」
小さく呟く。
助かったのだから。
それでいい。
そう思おうとした。
けれど。
胸の奥が苦しかった。
それから数週間。
リリアは何度も王子を見に行った。
王子の名前はエリオット。
この国の第一王子。
民からも慕われているらしい。
ある日は剣術の訓練をしていた。
またある日は街へ出ていた。
老人の荷物を運んでいる日もあった。
困っている子どもを助けている日もあった。
知れば知るほど。
好きになってしまう。
「どうしよう……」
海底の自室で呟く。
会ったこともない。
話したこともない。
それなのに。
こんなに胸が苦しくなる。
これが何なのか。
もう分かっていた。
恋だ。
認めたくなくても。
数日後。
海王国の大広間。
リリアは父である海王に呼び出されていた。
巨大な珊瑚の玉座。
厳しい表情の海王。
「リリア」
低い声が響く。
「最近、頻繁に海面へ行っているそうだな」
「……はい」
「人間の王子のことも聞いている」
リリアの肩が震えた。
知っていたのだ。
海王は静かに目を閉じる。
「やめておけ」
その一言だった。
「お父様……」
「人間の寿命は短い」
海王は続ける。
「人魚は数百年生きる」
「……」
「たとえ想いが通じたとしても、お前は必ず別れを経験する」
リリアは唇を噛んだ。
何も言い返せない。
全部正しい。
人魚と人間は違う。
結ばれることはない。
「忘れなさい」
海王はそう言った。
だが。
リリアは俯いたまま答える。
「……できません」
海王の目が見開かれる。
「リリア」
「分かってます」
涙が溢れそうになる。
「でも……好きになっちゃったんです」
静寂が落ちた。
海王は何も言わなかった。
ただ悲しそうな顔をしていた。
その夜。
リリアはひとり海面へ向かった。
月の美しい夜だった。
満月が海を照らしている。
王宮のバルコニーにはエリオットが立っていた。
夜空を見上げている。
どこか寂しそうな顔だった。
リリアは岩陰からその姿を見つめる。
会いたい。
話してみたい。
名前を呼んでほしい。
そんな願いが次々と浮かぶ。
けれど。
それは叶わない。
人魚だから。
「……どうして」
涙が頬を伝う。
海の中へ溶けていく。
その時だった。
背後から不気味な声が聞こえた。
「それほど会いたいなら、人間になればいいじゃないか」
リリアは振り返った。
誰もいない。
だが暗い海の奥から、妖しい笑い声が響いていた。
「人魚姫」
その声は囁く。
「願いを叶える方法を教えてあげようか?」
月明かりの届かない深海の闇。
そこから、何かがこちらを見ていた——。
コメント
2件
儚い感じが、より伝わってきました!
読ませていただきました……第2話、切なさがじんわり沁みますね。「好きになっちゃったんです」というリリアの台詞に胸がぎゅっとなりました。海王の「人間の寿命は短い」という現実的な指摘、それでも想いを止められないリリアの心情が丁寧に描かれていて、冒頭の穏やかな海との対比も効いていました。最後の不気味な囁き——“人間になればいい”——で一気に物語が動き出しそうで、続きがすごく気になります。次話も楽しみにしています🍀