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そしてまた、季節は巡る。
俺達は、警察学校での過酷な訓練を乗り切り、卒業することになった。卒業がゴールではなく、スタートと言うことは理解しているつもりだ。だが、ここでの思い出や、日々を置いて新たに進んでいくというのは何だか悲しいような気もした。俺は、小学校も中学校も高校も、どの卒業式でも泣いてしまうぐらい涙もろい。だから、きっと今日も泣いちまうんだろうなと、そういう所は見せたくないのにとも思ってしまった。
卒業を控えていたある日、つい、ぽつりと零してしまった。
「なあ、空、明智。お前ら何処に行きたい?」
気のないような言い方をしてしまったが、少し気になっていたことだった。
初めは地域の交番勤務とかそこら辺から始まるんだろうけど、スカウトや異動、試験を受けて階級が上がっていくとか色々考えると、希望の部署とかあるのではないかと思った。実際に、希望の部署だったり、勤務場所だったりを書くが、大抵は通らないと明智はいっていた。
「何笑ってんだよ」
「ミオミオ珍しい。それってこれからの未来について?」
「そうだよ、配属先は希望通りいかなくてもスカウトだったり、色々あるだろ」
まあ、大体は分かっている。
空は俺隣に椅子を持ってくるなりわくわくと効果音が聞えてきそうなほど身体を揺らしながら、自分からまず言うと手を挙げた。別に挙手せいでも何でもない。
「はいはい! オレは、警察航空隊のパイロット!」
「まあ、空はだろうな……」
「颯佐ならなれるだろ。免許持ってるのもつええし」
言うまでもない本心だ。
明智も、空がヘリコプターの免許を持っていることを知っている為、なれる。という意味で首を縦に振っていた。元来、ヘリコプターの免許を持っている人間は少ないわけだし、そう言うのもあって優遇されるだろう。若いときたら尚更かも知れない。将来有望。
俺と高嶺はだよな。と縦に首を振る。
「そういう、高嶺はどうなんだよ」
そう聞いてきたのは明智だった。
明智は、自分から聞いてきたんだから先に答えろと言わんばかりに俺を見た。
相変わらずの態度だなあと、頬杖をつき、俺は口角を上げて宣言するように言う。
姉ちゃんから聞いて、そこに行きたいと思っていたからだ。
「そりゃあ、勿論、刑事部……そこの捜査第一課強行犯捜査係狙いだ」
「刑事な、お前向いてそうだな。で、理由は?」
「格好いいからに決まってんだろうっ!」
俺が胸をはって答えれば、明智は大きなため息をつき、空は腹を抱えて笑い出した。
そんなに面白いことをいったつもりもないし、誰だってここを狙うものだと思っていたから、以外だった。空は抜きとして。
警察といったら刑事、捜査一課だろうとか勝手に思っていたため、何となく恥ずかしい気もした。だが、ここなら色々と調べられる気がする。それに、俺のレベルじゃそこ止まりな気がする。もっと頭のいいところとか、例えば、公安とか。
「なっ! 良いだろ!?」
「ああ、良いんじゃねえか?高嶺らしい」
「おい、何で疑問形なんだ」
「いや、なれるかとおもって……」
別にそこまで真剣に言ったわけではないのだろうが、明智がそんなことをいったため、俺は思わず明智の胸倉を掴んで揺すった。彼は、頭と耳が痛いと顔をしかめていたが、名残惜しい見たいな顔をしたため、俺は手を離した。
数日後にはこんな馬鹿をしていられなくなると。本格的に警察官として動くことになると。
明智はそれを分かっているんだろう。
(きっと、離ればなれになるんだろうな……)
それが普通なんだろうが、それでも悲しさは振り払えない。
「そんで? 明智、お前がトリだぞ。何処に行きたいんだよ」
「俺か? 俺は……――公安部」
「公安?」
先ほど、自分で離れないという候補に公安を挙げていたため、正直心が読まれたんじゃないかと思った。だが、明智は元々そこを目指していたようで、覚悟が決まっているような、叶えてやると言う強い意思が感じられた。そういう奴が上に行くんだろうなと改めて分からされる。
まあ、明智なら何処からでもスカウトが来るだろうと想う。
「明智ならなれるだろうな」
「確かに、ハルハルならなれると思う」
俺も空も明智の希望先に賛同する。
明智ならなれる。少なくとも俺達には無理だし、俺達を引っ張ってきてくれた明智なら……そう、公安になったらさらに会えなくなるかもだが、それでもそうなれるなら凄くダチとして誇らしい。
「まあ、配属先は取り敢えずばらけるとして、また三人で集まろうな」
「ミオミオ仕切るの珍しい~」
「いいだろ、たまには。明智にばっかいい顔させられねえし」
「いや、お前らが自由すぎるだけだろいつも……」
二人のツッコミをウケつつ、俺達は三人同時に噴き出した。
最初はぎくしゃくしていたし、空と二人きりになれたのにと、明智を邪魔者扱いしていた俺だったが、ここに来て十ヶ月、明智のことも知れたし、空とも一緒に過ごすことが出来て凄く満足していた。ここで満足してたらいけないし、明智に知られたら「そこがゴールじゃない」云々かんぬん言われそうだから何も言わない。
だが、同期と過ごした十ヶ月は色濃くて、忘れられない思い出になったと思う。
高校にいたときよりも、遥かに成長できた気もする。
「二十歳になったら酒飲みにいこうぜ。俺強い自信あるからな」
「え~ジュースがいい」
「俺も、颯佐に同感だ。甘い飲み物がいい」
俺達は、それから未来の話をした。
姉ちゃんも父ちゃんも酒には強いから、酒を飲みに行きたいという話しもした。二人には引かれたが、絶対にこの二人を連れてのみにいくと俺の中では決まっている。
そうして、そんな他愛もない話を続けながら卒業式の日を迎え、予想通り俺達はばらけることになった。
でも、きっと大丈夫だと言い聞かせる。何処かでまた会える、そう信じて……
――何処かの風の噂で明智が警察を辞めたと聞いたのは実に三年後の話だった。