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「「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございませんでしたっ!!」」
「いや…、大丈夫。大丈夫だから。ホント。そんな頭下げられると…。」
「「本当に…すみませんでした…」」
先ほどから、ずっとこの繰り返しである。
参ったな…。
話によると、白い着物を着た少年は、「白蓮」、黒い着物を着た少年は、「黒蓮」というそうで、二人は双子の九尾弧らしい。
「ね、ね、そんな頭下げられてたら、凄く気まずくなるし、そろそろ頭上げて、大丈夫だよ…?ほらほら、土下座なんかしなくていいからさ…」
それでも、二人は頑なに頭を下げ続ける。
「こちらの世界では、お客様の前で変化の術が解けてしまうのは、御法度に当たるのですっ。本当に、お見苦しいものを見せてしまったことに、なんとお詫びを申し上げたらよろしいのかっ…。」
白蓮が床に頭をつけながら、必死に謝っている。
「いや、本当に大丈夫だって…。気にしないで?ね?」
「変化の術が解けてしまうのは、動揺してしまったときや、取り乱してしまうとき、驚いてしまったときです。わたくしどもの変化の術が解けてしまったという事は、わたくしどもがまだ接客をするのに未熟だということを表しています。普段から心を落ち着かせて、何事も冷静に対処しなければならないはずなのに、わたくしどもがしっかりとしていれば、本来、この様なことは起こらなかったはずです。申し訳ございませんでした。深く謝罪させていただきます。」
黒蓮も床に頭をつけて、謝罪している。
「ね、ね、本当に!そろそろ頭を上げてよ…、私が困るから!!」
これ以上耐えられなくなって、無理やり頭を上げてもらう。
「私は全然気にしてないから!ね?誰にだって、失敗はある!」
「ですが…。」
「大丈夫!それより、二人とも、畳におでこつけてたから、あとが残ってるよ…。ちょっとまってて。」
私はポケットからハンカチをだし、水道を探すが、見渡す限りこの部屋には水道が無かったため、仕方なく、そばに置かれていた水差しを手に取り、水差しの中の水でハンカチを濡らす。
「白蓮、目つぶって?」
「あ、はいっ。あ、ありがとうございますっ。」
おでこをハンカチの濡らしたところで拭いてあげる。
「黒蓮も。」
「いや…俺はいい…。遠慮する…。」
「遠慮だなんて…ほらっ、早く目つぶって?」
「大丈夫…。俺はいい。本当に。」
「黒蓮!大切なお客様だから!」
「いや、白蓮…お前、その『大切なお客様』とやらに顔拭いてもらったんだぞ!?もうちょっと、自分が宿の従業員だってことを自覚しろ。客に顔など拭いてもらうことなどあってはならな…うわっ!!」
ささっと黒蓮のおでこをハンカチで少し強引にぬぐってやると、黒蓮は驚いて飛びのいた。
「わわっ、きゅ、急に何するんだよ…。危ねっ、危うく変化の術が解けるところだっつーの。」
ぷるぷると首を犬のように振って、こちらを警戒しながら壁にぴとっと張り付いてる黒蓮が可愛くて、くすっと笑ってしまった。
「な、なに笑ってんだよっ…」
「いや、可愛いなって…。」
「は、はぁ…!?お、俺が可愛い訳ないだろっ!?つーか、可愛いじゃなくてかっこいいじゃないのかよっ!?」
慌てている黒蓮に白蓮が少し笑って言う。
「黒蓮?顔が赤くなってますけど、心が乱れてるのでは?」
「白蓮!!お前が言うなって…。」
私は、白蓮と顔を合わせて、笑った。
二人が言うには、この世界は、七つの世界に分かれているらしい。
人間界、神域、常世、地獄、黄泉、天界、下界、そして、鏡界。
私のような人間が住んでいる世界は、「人間界」、または「現世」と呼ばれる世界らしい。
そして、今私がいるのは、「常世」と呼ばれる世界だそうで、この世界には人間ではなく、「あやかし」や「妖怪」と呼ばれるものが生活している世界なんだとか。
少し前の私だったら、この様な事を言われても絶対に信じていなかっただろう。
だが、彼岸花の咲き誇る空間とか、二匹の変化の術を持つ九尾弧とか、そんな摩訶不思議な事をこんな短時間で目の前で見てしまったからか、今では簡単に受け止めることができる。
「ここは、お宿屋さんなんだよ!青雲屋っていうの!総支配人様が、千歳様を見てあげなさいってお仕事をくださったんだ!」
白蓮が嬉しそうに言う。
「総支配人様?」
「うん!この宿の一番偉い人!黒蓮がその総支配人様に憧れてるんだよ!」
「へー!そうなんだ!」
「ちょ…、白蓮、あんま言うなって。」
「黒蓮、総支配人様ってどんな人なの?」
「総支配人か…?あの方は…あの方は、別格だ。この世界に住まう者なら誰もが知っているほどの偉大なお方だ。」
「え、凄いじゃない!」
「ああ。凄い方だ。」
私は、総支配人と呼ばれる人の事を話すときの黒蓮の顔に、影がかかったのに気づくことができなかった。