テラーノベル
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ここは剣と魔法と精霊の世界。
そこにある一つの国に、「聖人宰相」と歌われた一人の男がいた。王国の名門の家に生まれ、幼いころから秀才として名を知られていた。それだけに、地位を争う他の貴族から何度も命を狙われたが、持ち前の才能を生かし、その度に窮地を脱してきた。
そうした境遇にも関らず、彼は決して擦れることなく、誰に対しても分け隔てなく、公平に、そして誠実に接した。その人柄は、多くの国民から愛され、尊敬を集めた。
敵対する他貴族たちも、あくまで利害関係から彼を殺そうとしたのであって、心から彼を憎んだものはほとんどいなかった。こうして彼が大人になったとき、全員一致で宰相に推されることになった。もちろん、中には彼の宰相就任に反対したら、それだけで邪心ありと見られてしまうことを怖れた者もいただろうが……。
こうして、彼は王国の宰相となり、王国の発展のために生涯を捧げる決意を固めた。
彼のもとには多くの有能な人材が集まっていた。国民は彼を慕い、共に国を盛り立てていこうと協力を惜しまなかった。王国は彼のもとかつてない発展を遂げていった。だが……。
彼は一つだけ闇を抱えていた。決して表には出せない、醜い欲望を抱えていたのだ。彼は、幼い女の子が好きだった。いや、「好き」といっていいのかどうか。彼は、美しい少女を、徹底的に汚し、辱め、人間の尊厳を奪って、泣き叫ぶ姿を愛していた。少女を誘拐して監禁し、性の玩具にすることもいつも夢見ていた。
彼は、自分でもその欲望の異常さを理解していた。だからこそ、誰にも自分の欲望を打ち明けることなく、ただ一人で耐え忍んでいたのだ。彼は今や絶対的な権力を持っていた。だから、やろうと思えば、少女を誘拐し、思うがままに辱めることは可能だった。だが、彼にはそれはできなかった。それを他人に命じたとき、何と思われるか。想像しただけでも恐ろしかった。たいていのことなら、人々も許してくれたことだろう。しかし、さすがに「少女を誘拐して、思うがままに辱め、人間の尊厳を奪って」などというのは許されることではない。そんなことをすれば、もう宰相としての地位は終わりだ。いや、そんなものではない。人間としても終わっている。
しかし、彼の欲望は強まる一方だった。そんな時、彼にとって転機となる出来事があった。ある日、一人の男が宰相の元にやって来た。普通なら多忙な宰相のこと、こんな訪問者に会うわけがない。ところが……。
「なに、魔霊? その男は魔霊に関連する情報をもってきたというのか?」
この世界には「魔霊」と呼ばれる存在がいた。姿を持たず、力と意志の身をもつ存在。その力に触れることは禁忌とされている。ただ、もう数十年、魔霊の存在は報告されていない。この情報は人に任せるわけにはいかない。宰相は自らが直接その男の話を聞くことにした。
「宰相様、本日はわざわざお時間を作っていただき……」
言葉遣いは丁寧だが、どこか不気味で、不快な雰囲気を漂わせる男だった。
「なに、堅苦しい挨拶はよい。それより、そなたの持ってきた魔霊に関する情報というのは何だ?」
「はっ! 私は昔から、魔霊に関する研究をしておりました。――もちろん、邪悪な存在を滅するためです。その研究の結果、魔霊を見ることのできる人間を発見したのです」
「何?」
「宰相様もご存じのとおり、魔霊は力と意志のみの存在、姿はありません。ですから、見る、というより、感じる、と言った方が正確かもしれませんが、ともかく、そうした人間がいる、ということを突き止めました」
「仮にそれが本当だとしても、――それがどうした、というのだ? ただ魔霊を感じるというだけでは、害はないのではないか?」
「はっ、ここからが大切なことなのですが、魔霊を感じることのできる人間は、その力を借りることもできるのです」
「それは本当か?」
「はい。魔霊は恐ろしい力を持っています。その力を自由に操れるとしたら――」
「なるほど、国家にとっての一大事かもしれん」
「さすが宰相様、その通りでございます。このままでは国が大変なことになります。そこで、私めがそうした者達を狩りますので、どうかその支援をお願いしたく、参上しました」
「話はわかった。ではまず、お前の話が真実かどうか証明してみせろ。その上で、支援として何を望む?」
「はっ、わずかばかりの研究費と、研究室として使える館のひとつでももらえたら、と思います」
「そうか。それくらい容易きこと。で、どうやって証明する?」
「そうですね、魔霊を感じる者を実際に連れてきて、そういう能力があると証言させる、というのはいかがでしょうか?」
「そのものが魔霊の力を使ったら危険ではないか?」
「まずは力の弱い、単に魔霊を感知できるだけの人間を捕まえてきましょう」
「だが、それではお前と口裏を合わせているかもしれんではないか? 魔霊など感じていないのに、そのふりをするだけなら簡単だろう?」
「それは、取り調べの様子を宰相様が実際にご覧になって確かめていただければ……」
「ふぅむ」
「それで、取り調べる場所なのですが、ことがことですし、なるべく人目につかぬ場所がよいのですが――」
「そうだな、王国の僻地に捨てられた砦がある。そこでどうだ? もしおまえの言うことが真実なら、そこをそのまま研究室として使うがよい」
「ありがとうございます。それでは数日以内に準備し、宰相様をお呼びいたします」
そういうと男は立ち去って行った。(続く)
コメント
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重田さん、第1話読ませていただきました。 聖人宰相の“表の顔”と“内に秘めた歪んだ欲望”のギャップがすごく生々しくて…最初は理想的な人物像に惹かれたけど、読み進めるうちに背筋が冷えました。それでも彼が欲望を抑えて耐えてる描写に、むしろ複雑な気持ちになる。魔霊の話を持ち込んだ不気味な男も、宰相の闇を利用するつもりなのかな…今後の展開が気になります。続きも静かに読ませてください🌙
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