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「記憶にないのか」
うん、と美守は頷いた。すると彼は
「お母さん、お父さん……コウくんと由貴くんとお話ししたい」
と言うと美帆子夫婦は部屋を出た。
「コウくん、頼んだわ」
美帆子は心配な顔をしながらもマスターに背中を押されて部屋に出た。
「大丈夫か、まだ横になってろ。もう少し回復して一眠りしてほうがいい」
と虹雨に言われても美守は首を横に振る。
「今は寝てるよりかは座ってた方がいい」
「……いくつか聞くが無理だったら答えなくていい。由貴は手を握ってやってくれ」
由貴は頷いて美守の手を握るととても冷たかった。
虹雨は指を鳴らし、とある幽霊を呼び出した。それはあの仕立て屋で見た霊。美守にとっては血はつながらないが、親族でもある。
「美守くん、いまこのおじさんは見えるか」
「うん、見えるよ」
「わかった。おじさん、ありがとう」
え、それだけ? と言いかけたところで虹雨に消される。
「なるほど、まだみえる。一年前に市役所に花子さんを連れてきた自覚は」
「……はい。学校のトイレで啜り泣く声がすると噂が出てて。僕が一人乗り込んだら汚いトイレで辛そうにしていた花子さんがいたから……ちょうどその日は市役所見学だったから着いてきてもらったんだ」
「……そうやってやったことは他には?」
「何回か。コウくんはできる?」
「んー、さっきみたいに呼び寄せることはできるが、連れて行くか……それはしたことがなかった。霊の移住能力は美守くんの特権かもな」
美守はうつむいた。
「いけないことしちゃったかな」
虹雨は首を横に振った。
「花子さんは汚いところから出られたからよかったと言ってた。まぁ……奥のトイレだったけどもさ。今回のあの口裂け女みたいなやつは君のことを悪用してた、だから悪くないから」
「……あの口裂け女さんも助けてくれって叫んでた……だから助けてあげたんだ」
虹雨はそれを聞いて由貴を見た。
「もしかしたら本当に救いを求めていた人間が死んで恨みに恨んで口裂け女に化けてもっと悪霊化したんじゃないか?」
「かもしれんな……厄介なことだ。にしてもあの力はすごい強力だった……俺らが退治せずあのまま市役所にいたらたいへんなことに……」
「まぁ取り壊されるからそのまま置いといてもよかったんやない?」
「でと新しい建物作る時に地鎮祭で成仏できんかったらたいへんやぞ」
二人はぶつぶつと考えていると、美守が言った。
「ねぇ、僕を運んできたのは二人?」
「槻山さんがここまで運んでくれたんだ。まだ仕事あるのに、息子なんでって……いいお父さんじゃないか」
と由貴が言う。由貴には今父がいない。両親が離婚した。母親とも会っていない。
美守の母の美帆子、本当の父親槻山、今の父親のマスターに心配されている美守を見て由貴は心の奥で何か感じ取ったものがあったようだ。
「お父さんが……」
「君にとってはマスターも槻山さんもお父さんなんだね。二人もお父さんがいる……たくさん多くの人に愛されている」
「だよね、ふふふ」
美守がようやく笑った。
「自分で愛されてる、そう分かるのはいいことだね」
「へへっ。そういう由貴くんも」
「うん、わかってる……僕は引きつける霊力があるからね」
気づくと部屋の中にいくつか霊が入ってた。
「僕もあるみたいなんだ。だからより一層引きつけちゃったかな。あ、コウくん。除霊しますか?」
虹雨は部屋に入ってきた霊たちを見渡す。
「まぁ悪さしそうにはないけどな、まず美守くんの体調回復のためにも……」
と手を構えて呪文を一言唱えた。
虹雨たちは美帆子を呼び、部屋を出て家に帰る。
「美守くんは能力消えるけど僕らはいつまで……」
「しらん、お前が天狗様と変な契約したから死ぬまでやろ」
「そか」
「あっさりやな」
「……でもさ、子供も能力引き継いでしまうのかな」
「しらん……俺は子供を作る気はない」
「そうなん。まぁお前には浮いた話はないけどさ」
虹雨は由貴とは違う方向を見た。
「そういう人間もおる。別に人といることは嫌いではない」
「じゃあ人を好きになることもあるってか」
「ああ、その人となら一生一緒におりたい」
「僕も。その人と一緒に……ん?」
由貴は自分の右手に何か温かいものを感じた。虹雨の手だ。
「虹雨?」
「……握っとるだけや。昔も握ったったやろ」
「そやけどさ……」
虹雨の顔は真っ赤になっている。さらに強く握る。
「別に今は誰にも見られとらん、ええぞ」
「うん……」
由貴も握り返す。
「由貴、気づいとったん」
「……今気づいた」
二人は立ち止まる。
「一緒におるしかないやろ、僕が巻き込んでしまったし」
「……俺もお前が助けてくれたから今ここにおる」
「僕もあの時助けてくれたから……」
二人は見つめ合う。が……。
「てかおるやないか、俺ら以外にも」
「さっきからずっとついてきとったん」
「こんな雑魚退治しとるのは無駄や」
「無視しとったんか」
「けど流石に無視できん。由貴、ビデオ用意してや」
由貴は咄嗟にカバンからビデオを出し、虹雨はサングラスとグローブを出した。
「人のプライベートを覗き見る幽霊めっ!!! ええかげんにせぇや!」
続く
#衝撃のラスト
山根利広
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コメント
1件
読了しました🌙 美守くんが「僕を運んだのは二人?」って聞くところ、すごく心にきました。自分がたくさんの人に愛されてるってちゃんと自覚して笑えるの、尊すぎる……。 最後の虹雨と由貴の手、めっちゃ熱いじゃないですか。でもその後ろで覗き見霊がいて笑いました(笑) 続き、口裂け女の真相も気になるし、二人の関係も見守りたいです。お疲れさまです🤍