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恵
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「圭ちゃんが豊田駅に着いたみたいだから、私、そろそろ行くね。かなチー、今日は時間を作ってくれて、ありがとう」
「いえいえ、こちらこそありがとう。っていうか、美花、お義兄さんの事を『圭ちゃん』って呼んでるんだ〜?」
奏がニヤニヤしながら美花を揶揄うと、『恥ずかしいからやめてよぉ』と、彼女が頬を赤く滲ませる。
「じゃあ、かなチー、またね。れいチェルにもよろしくお伝え下さいっ」
「美花、また遊びにおいでね」
玄関まで見送ってくれる奏に、美花は小さく手を振ると、葉山夫妻の自宅マンションを後にした。
豊田駅北口に着いた美花は、圭の車を隈なく探すと、ファストフード店のすぐ近くに、艶やかな黒いSUV車が止まっている。
「あっ…………いた!」
美花は圭の愛車を見つけ駆け寄ると、彼はスマートフォンを操作しているのか、彼女がいるのに気付いていない。
どことなく厳しい表情の圭に、戸惑いつつも、美花は運転席のガラス窓を軽くノックさせると、彼が、ハッとしたように美花へ顔を向けた。
慌てた様子で、スマートフォンの画面を伏せ、ダッシュボードの上に置いた後、運転席側の窓が開かれる。
「美花。気付かなくてごめん。乗って」
何事もなかったように振る舞う圭に、僅かな疑心がチクリと胸を刺す。
美花は助手席のドアを開き、シートに身体を預けた。
(何だろう……このモヤッとした…………変な気持ち……)
細い指先が辿々しくデコルテに伸び、彼から贈られたネックレスのペンダントトップに触れる。
胸中で蠢く不安の種が、跡形もなく消えて欲しい、と願うように。
「…………か? 美花?」
「…………あっ……ああ、ゴメン、圭ちゃん」
「どうした? ボーッとしているみたいだったが……」
「…………ううん。何でもないよ」
本当は……すごく聞きたい。
スマートフォンを見ながら険しい表情を浮かべ、美花が来た途端、焦りながら画面を伏せた事。
『もしかしたら、彼には私とは別に、付き合っている女の人がいるのだろうか』と、あらぬ事まで考えてしまう。
けれど、彼に核心を突いたとしても、濁されるのではないか、と思えて。
だから、聞けない。
美花もまた、圭を失う事が、一番怖いと思うほどに、彼を好きになってしまったのだから。