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錬金術ギルドの職員が住む宿舎、そこの食堂でアリサは朝食を摂っていた。
ここ錬金術ギルドは王都でも有数の国が支援している施設で、勤めている人間にはエリート意識が備わっていることが多い。
無理もない。魔術学校は入学時点で多くの人間が保有魔力量でふるいにかけられており、卒業を果たし魔導師としての道を歩み始めた彼らは選りすぐりの希少な人材だからだ。
そんなわけで、彼ら彼女らの会話は基本ハイレベルだったりする。
『だから、そこは成分抽出の為の配合比をパーセントレベルで調整して……』
『それより、魔力の純度を高めてだな……』
『最高峰のエリクサーを精製するには賢者の……』
アリサは珈琲を口に含むとうんざりとした様子を見せる。彼らが議論している知識は彼女が数年前にとっくに結論を出したもの。
施設の食堂でそのようなことを朝から議論されていても耳障りでしかなかった。
減給のせいで懐事情が怪しい彼女だが、先日手持ちの魔導具を売ったお蔭で幾分か資金に余裕がある。
アリサはトーストを食べながら、彼らの声を遮断するべく気を紛らわせようと、王国が週一で発行している新聞に目を通す。
いくつかの記事を読み、自分と因縁のある貴族の名を見て眉根を潜め両手を強く握る。
紙がくしゃりと曲がり、これ以上不愉快な記事を読む気が失せたので燃やしてしまおうと考えるのだが……。
ふと、片隅に『行方不明』の欄が目に入った。
これは、冒険者や一般人などで、依頼達成予定日を過ぎても戻らなかったり、ある日突然家に戻らなくなり捜索依頼を出された人物の名を公表し情報を求めるもの。
その中にアリサは酷く浮いた、ここらでは聞き覚えのない名前を発見する。
『ミナト アタミ』
先日、アリサが魔導剣を売り払った人物と同姓同名だ。
「まさか、あの人……」
彼女は魔導剣を売る際にその特徴についても告げている。魔力を吸うことで威力が上がるが、訓練していない人間は魔力がゼロになると気絶してしまい、その後も魔力が回復するまで身動きが取れなくなる。
てっきり、転売をして少しばかりの小遣いを稼ぐのだと思っていたのに……。
記事によると、彼は【ポワレの花】の採集依頼を請けて行方不明になったとある。
「【ポワレの花】といえば人里離れた洞窟の中にひっそりと咲くと言われているわね……となると【ユング樹海】に行ったのかしら?」
奥に進むほど強力なモンスターが存在する魔境。魔導師でも単独での行動は自殺行為で一人でそこに向かうのは自殺願望がある者くらいだ。
だが、アリサが見た限り、ミナトが世を儚んで自殺したようには見えない。だとすれば自分が売った魔導剣の利用を誤った可能性が高い。
「とにかく、探さなきゃ……」
まだ魔力を満タンにした犯人が見つかっておらず、自信の立場も微妙。ここで暇(いとま)を申し出るとギルドマスターからの心象は最悪だろう。
だけど、ここで放っておくのは自分の信条に反する。
アリサは立ち上がると、旅の準備を始めるのだった。
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