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「ふぁーあ、良く寝た」
朝がきて、鳥のさえずりで目が覚める。
地面がゴツゴツとしていて身体が痛い。無理な体勢で寝てしまったせいか顔に石がくっついていた。
「それにしても何だったんだ?」
食事を終えた後、猛烈な眠気が押し寄せたのだがあれがキノコか蜘蛛の毒によるものなのかいまいち判断がつかない。
「一見するとどこも悪くない……むしろ、力が溢れているくらいだぞ」
モンスターを倒した後の調子のよさとも違う。何か身体の造りが変わったかのような、腕や足を動かした際に違和感を覚える。
「まあいいか、ひとまず朝食にするとするか」
俺は荷物の中からコメを取り出し昨晩の鍋に入れる。
「やっぱりしめの雑炊は欠かせないよな」
しばらくすると良い匂いが漂ってくる。
「惜しむらくはここに卵がないこと」
雑炊といえば溶き卵を回すのが基本だ。水分を吸って崩れ柔らかくなったコメと半熟の卵の味わいがマッチする。それは絶妙なハーモニーを口の中で奏で、活力を与えてくれる。
「いっそ、卵を産むモンスターを飼育するのもありかもしれないな?」
鳥形モンスターも存在しているのは知っている。それなりに強いのだろうが、エリクサーがあるので生け捕りにすることも難しくない。
「と、そろそろできたかな?」
俺はキノコと蜘蛛脚の良い出汁が出た雑炊を啜ると、足りない食材について考えた。
★
「はぁはぁはぁはぁ。まったく、何で私がこんなところまで……」
アリサは悪態をつくと顔を上げる。
憎らしいくらいに太陽の光が差し肌を焼く。
「私はインドア派なのに」
ミナトの行方不明を知ってから五日、アリサは彼を捜索するべく【ユング樹海】を訪れていた。
魔力を身体強化に回し、常人では出せない速度で走ってきたお蔭で普通よりも早く到着することができた。
それでも、ミナトが行方不明になってからちょうど一ヶ月、普通に考えるなら生きているはずがない。
「私も本当に馬鹿。ギルドマスターの反感を買ったし、戻ったらクビかもね」
例の犯人も見つかっていないのに、他にも厄介な問題もあるのに、たった一度話しただけのミナトを探すために来てしまった。思わず自虐の笑みが浮かんでしまう。
「それにしても、ところどころにモンスターの気配もするし、方向感覚も怪しい。迷ったら出るのに苦労するわね」
魔導師の自分ですらそうなのだ。一般人が迷い込めばなすすべもないに違いない。
――ドオオオオオオオオオオオオオオン――
「な、何事!?」
そんなことを考えていると爆発音が上がり、続いて煙が立ち込める。
「燃えてる、この真っ赤な炎に見覚えがある……もしかしてフェニックス?」
幻獣と呼ばれているフェニックス。超高温の炎を纏い、周囲を燃やし尽くす。出会えば逃げ出すしかない超強力な存在だ。
アリサも知識では知っているが、本体と遭遇したことはない。
(もしフェニックスだとしたら、おつりがくるかも?)
正面から戦うのは御免こうむりたいが、先程から争うような音が聞こえてくる。
フェニックスと対峙できるのはドラゴンがデッドリースパイダーなど上位モンスターだが、実力が近ければどちらも傷つく。
そうなれば超希少と言われたフェニックスの尾羽根やドラゴンの鱗、デッドリースパイダーの脚爪などが手に入る可能性が高い。
いずれも売れば金貨百枚を余裕で超えるので、こうして辺境まで来た甲斐があったというもの。
(ひとまず、敵に気付かれないように移動して……)
戦闘に巻き込まれず気付かれない場所に陣取り、どちらか一方が勝利して立ち去ったところで素材を回収する。
アリサは真剣な表情をし、木々の間を縫うように歩くと徐々に近付いて行った。
(いたわ、やっぱり……ドラゴンとデッドリースパイダーとフェニックス)
炎の大きさに戦いの規模、鳴き声から判断していたがまさか三つ巴の戦いをしているとは思わなかった。
これは一財産あるかもしれないとほくそ笑むアリサだが、その場にはもう一人戦っている者がいた。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』
『キュラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
あろうことか、ドラゴンもフェニックスもデッドリースパイダーもそれぞれの方を向いておらず、アリサに背を向け何者かに襲い掛かっている。
(あの三匹が争わずに何と戦っているの?)
これ以上近付けば高ランクモンスターに気付かれてしまう。そんなもどかしさを覚えていると、
「これも弱肉強食、悪く思わないでくれよな」
『ガッ』
『キュラッ』
『グオッ』
次の瞬間、剣閃が無数に走り、三匹を斬り裂いた。
「なあああああああああああああああっ!?」
あまりの信じられない事態に、アリサは立ち上がると叫び声をあげてしまう。
「ん、誰かいるのか?」
モンスターの間から何者かが歩いてくる。
魔導剣を肩にのせ、飄々とした態度を見せる黒髪の少年。
「ミナト!? あなた生きてたの!?」
「アリサ? 久しぶりだな」
熱海 湊が笑顔を向けていた。