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凌先輩と別れて、少し冷えてきた夜道を一人で歩く。
角を曲がったところで、自販機の明かりの下、自転車に寄りかかっている人影を見つけた。
「……遥?」
声をかけると、遥はハッとしたように顔を上げた。どこか落ち着かない様子で、地面を蹴っていた足を止める。
「……おう。遅かったな」
「待っててくれたの?」
「別に。……ちょうどジュース買おうと思ってただけだ」
そう言いながら、遥の手には飲み物なんて持っていなかった。
二人の間に、少しだけ気まずい沈黙が流れる。遥は自転車を押しながら、私の歩調に合わせてゆっくりと歩き出した。
「……見てたんだよ。お前らが話してるとこ」
遥が前を向いたまま、ぽつりと溢した。
隠れて見ていたんじゃなくて、二人の時間を壊さないように、でも心配だから離れずに待っていたんだ……。
「……何か、言われたのか」
「うん。先輩の、昔の話。……今まで知らなかった、先輩の弱いところ、教えてくれた。先輩も、怖かったんだなって」
正直に話すと、遥は小さくため息をついた。その横顔には、さっきまでの尖った雰囲気はなく、どこか寂しげな色が混じっている。
「……あいつ、ズルいな。……でも、それだけお前に本気だってことなんだろうな」
遥は立ち止まり、私の顔をじっと見つめた。その瞳は怖いくらい真っ直ぐで、でも少しだけ震えていた。
「俺は、兄貴みたいに上手いことは言えない。……でも、俺だって怖いよ。お前が、またあいつの方に行っちゃうんじゃないかって。……でも、待つって決めたから。無理にこっち向かせるようなことはしないけど……俺がずっと見てることだけは、忘れないでほしい」
遥の手が伸びてきて、私の頭をポンと軽く叩いた。
それは「大丈夫だ」と自分に言い聞かせているような、切なくて優しい感触だった。