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#追放
パチッ──。
暗闇の中で、静電気のような魔力が弾けた。
「ねぇ、また来るよ」
カエデお姉ちゃんが、まだ誰も見ていない暗闇を指さした。
「え?」
私が振り向くより早く──
「なんとなくだけど」
カエデお姉ちゃんは空中で指をくるくると回した。
「……またその感じ?」
ツバキお姉ちゃんが半目で言った。
「うん、またその感じ。
今度は前じゃなくて、横から前に回ってくるやつ。……ほら」
その言葉の直後だった。
ズズ……ズズズズ……ッ!!
右側の何もない空間がぐにゃりと歪み、そこから溢れ出した巨大なモンスターの群れが、空間のループを通って私たちの“正面”へと回り込んでくる!
黒岩をへし折る音、獣の咆哮、そして先ほどよりもずっと濃い瘴気を含んだ風がこちらへ流れ込んできた。
「本当に横から前に来た!?」
私が思わず身構える。
だけど──もう、誰も慌ててはいなかった。
「ふふっ、いいじゃないですか。
連携の練習にはちょうどいい相手でしょ?」
辰美がニッと好戦的な笑みを浮かべる。
ツバキお姉ちゃんが静かに構える。
カエデお姉ちゃんがウィルソン(石)を握る。
ローザさんはペンを構えてる。
(ひとり戦う相手が違うよ!)
*
空間のループを抜けて、モンスターの群れが再び現れる。
戦場に緊張が走る中──
「……なら、火竜の出番だね! ツバキさんがビカビカやったなら、私はバチバチでいくよ!」
辰美が深く息を吐いて、炎をまといながらドラゴンの姿に戻る!
──そして、バグった重力を蹴って、暗闇の宙へ。
「辰美ふぁいやーぼーんッ!!」
どこかで聞いたことある技名──って思ったら、サクラお姉ちゃん命名のやつ!
「うわぁ名前可愛い!」
にこにこするカエデお姉ちゃん。
「名前それでいいの!?」
ツッコミを入れるツバキお姉ちゃん。
ゴォォォォォッ!!!
放たれた巨大な炎の牙が、ループ空間をぐるぐると這うように回り込みながら、複数のモンスターを一気に焼き払った。
「ギャアアアアア!!」
炎に包まれたモンスターたちが、のたうち回る。
──その時だった。
カエデお姉ちゃんが突然、しゃがみ込んだ。
「……発動、《スピリットコール草》!」
手早く、地面の黒岩にへばりついていた『明らかにヤバそうな紫色の苔』をむしり取り、髪に挿し、肩にのせ、石(ウィルソン)にまで被せる。
(えっ!? ここ奈落だから草なんてないよ!? それどう見ても毒の苔だよ!?)
「……私は草……草の一部……瘴気と共に在る存在……」
カエデお姉ちゃんはそう呟きながら、完全にその場に伏せた。
──でも。
その様子はどう見ても、ヤバい苔を頭に乗せた人が暗闇でしゃがんでるだけだった。
「……ねえ、カエデお姉ちゃん? 隠れてるの?」
私は不安になってキョロキョロする。
「あれがうちのカエデよ。ふはは……」
そう言うと、ツバキお姉ちゃんがドヤ顔で下を向いた。
「……隠れてるつもりになってるのが尊い……」
微笑み見守るローザお姉ちゃん。
「エストちゃん落ち着いて! うん、カエデさんも“サクラさんの友達”だから! それで、はいはいOKです!!」
辰美が自分に言い聞かせてる。
「あ! なるほど!」
私、手をポンと叩く。納得。
でも──そのヤバい苔の中で、一番冷静に戦場を見つめていたのは、他でもないカエデお姉ちゃんだった。
「──あそこだ。右の空間の歪み、来る……!」
そして苔むらから、静かにウィルソンを投げる。
ビュンッ!
ループ空間の死角から現れたモンスターの脳天に、完璧な軌道でヒット。奇襲を阻止!
「……ナイス、ウィルソン……!」
親指をグッと立てるカエデお姉ちゃん。
「……ホントにレベル1なの?」
私は、なんかもう、強いとか弱いとか分からなくなってきた。
「あの子、自分のレベルは上がらないのに、スキルだけレベル上がるからね……今はスキルレベル3000超えてるんじゃない?」
ツバキお姉ちゃんが腕を組んで、苦い顔をしながら呟いた。
は? 3000?
「……体はレベル1のままなのに、スキルだけが暴走してるって感じ……」
「聞いたこともない数字!?」
私はびっくりして叫んじゃった。
「サクラさんの友達。サクラさんの友達」
辰美が空中でぶつぶつ言ってる。
そんな中……。
「……あ、そっちはダメよ!」
カエデお姉ちゃんが、拾った黒い石をびゅん!
ゴンッ!!
──石は、ツバキお姉ちゃんを背後(上の空間)から襲おうとしていたモンスターの額に、完璧なタイミングで命中。
モンスターは脳震盪を起こしたように仰け反り、暗闇の底へと沈んでいった。
「危なかったねツバキ!」
にこぉって笑ってる。怖い。
誰も気づいていなかったツバキお姉ちゃんの死角への奇襲を、カエデお姉ちゃんだけが察知していた。
「………!?」
引き攣った顔でツバキお姉ちゃんが上を振り仰ぐ。
「……死神の鎌が、すでに我が背に……ぁあああああ!?
カエデぇえええぁああありがとぉおおおおお!」
ツバキお姉ちゃんがカエデお姉ちゃんに抱きついて泣いてた。
「……。」(無視)
カエデお姉ちゃんは、ツバキお姉ちゃんを完全に無視して、足元の黒岩から良い形の石を探してる。
怖い。
そして、ローザお姉ちゃんがループから現れたモンスターを聖典のカドで殴り続けながら言った。
\\ ていっ! ていっ! ぼか! ぼか! //
「実はカエデさんが戦況を完全に把握してるという……恐ろしい俯瞰の目……」
\\ ていっ! ていっ! ぼか! ぼか! //
「……目で見てるんじゃない。空間のバグごと、戦場全体の“流れ”を読んでる……」
\\ ていっ! ていっ! ぼか! ぼか! //
「──まるで盤上の神みたいに」
ポワポワしてるカエデお姉ちゃんにそんな能力が!?
(そして、あんた本でなにしてんの!?)
*
──最後の群れが突進してきたとき。
今度は誰も叫ばなかった。
光が空間のバグを掃き、炎がループを焼き尽くし、石が死角を貫き、ついでに本のカドが襲いかかる。(カド!?)
しばらくして──奈落の底に静寂が戻る。
辰美が灯してくれた小さな炎だけが、パチパチと音を立てている。
みんなそれぞれ息を整えて、炎を中心に集まった。
「この特異点でも“力”を維持できるとは思わなかったが……フフ、我ら……想像以上だな……特に貴様、カエデ」
左目を押さえながらツバキお姉ちゃんが言う。
「……貴様の投擲、まるでバグった空間の繋がりが見えているかのようだった。次元すらも見透かすか……!」
ツバキお姉ちゃんの視線がカエデお姉ちゃんに向けられる。
「うん! なんか見えるんだよね? ほら、私さ、部活でバスケやってたから? コートの端から端までパス通す感覚っていうかー」
石(ウィルソン)をギュッと抱えて、カエデお姉ちゃんが笑う。
「そういえば、ポワポワしたその性格でずっとポイントガードやってたな……って、え? ……バスケ上手いからって理由で説明つくの!?」
ツバキお姉ちゃんが頭を掻きながら──
「サクラが『カエデはバスケじゃなくてもパス通すよ。人の話とか、空気とか、たまに次元とか。あと、絶対に怒らせるな』って言ってたの思い出したわ!」
──ふふっと笑った。
──サクラお姉ちゃんの名前を聞いて、その声が頭によぎった。
『どうせ間違えるんだから、好きに進めば? 怒られるのは後でだし。そんときゃ無視して、美味しいもの考えとけばプラマイゼロ』
私はその言葉を思い出すように、小さく笑った。
(……背伸びでもいい。間違えても、進むって決めたんだ)
……うん。なら、きっとこの選択でいいんだ。
私は小さくうなずき、ふらりと立ち上がる。
そして、ぎゅっと唇を噛んだ。
怖い。私の中にある力も、これから行く場所も。
でも、力を込めた!
「さあ、行こう! 探しに行こう、お姉ちゃんを!」
「……それが、今の“魔王”の仕事だと思うから!」
そして、一歩前に出た。
みんなの背中を見て、叫ぶ!
「ま、ポンコツ……! わ、私だって!!魔王だしっ!」
「……って、ポンコツじゃないし!」
足元をつまづいて、転びそうになったけど──
なんとか踏みとどまって、前に出た。
そしてポケットからマントを取り出し──
バ……バサッ!!
……ちょっと引っかかったけど、無理やり翻した。
「──よし。いくよ!“新生☆魔王軍”!」
(決まった!!……よね?)
「はい!」
「ふん。」
「はーい(もぐもぐ)」
「……(カリカリカリッ)」
「……ねえ、誰か今の褒めてよ!?」
みんなが動いた。
バラバラだったはずの足音が、なぜか今日は揃っていた。
(つづく)
*
ふと、辰美がこっちを見てた。
嬉しそうな顔で、でも少し泣きそうな顔で。
「……辰美?」
「なんでもないです」
辰美はすぐに前を向いた。
……なんか、サクラお姉ちゃんのこと、考えてたのかな。
胸がギュッと苦しくなった。
──そして、辰美が小声で呟いた。
「……サクラさん。エストちゃんは……ちゃんと魔王やってるよ?だからもう、大丈夫だよ」
聞こえてた。
でも、なんて返せばいいか、わからなかった。
聞こえてないふりをした。
なんだか視界が滲む。
──私はただ、ぎゅっと拳を握った。
(……お姉ちゃん、待ってて)
◇◇◇
──今週のサクラ語録──
『どうせ間違えるんだから、好きに進めば? 怒られるのは後でだし。そんときゃ無視して、美味しいもの考えとけばプラマイゼロ』
解説:
考えすぎると止まるから、サクラは考えない。
ミスも怒られるのもセットで来る前提。
だったらそのぶん、先に楽しみを予約しておけばいい。
要するに、“現実は避けられないけど、気分は操作できる”という雑に強い生存戦略。
──その背中を、エストはちゃんと見ていた。
◇◇◇
【幕間:奈落の底のどこか】
「……なぁ! 腹減ったよ!」
「さっき食べたじゃないですか!」
「足りないからお前の分よこせ!」
「いやですよ!」
──黒く深い奈落のどこかで、ふたりの声が響いていた。
「……なあ、ここ、やけに静かだな」
「……またその話ですか」
「……ま、いっか。生きてりゃ、そのうちご飯も笑いも転がってくるだろ」
ボリボリと、得体の知れない肉をかじる音。
暗闇の中でも、不思議と恐怖はなかった。
──“家族なんてクソ”って、何度も叫んだくせに。
こうしてまた、誰かとバカ話しながらご飯を食ってる自分がいる──。
ほんと、人間ってやつは、しょうがない。
どうしようもなく、誰かと繋がっていたい生き物なんだ。
……あ。今は鬼か。
(つづく)