テラーノベル
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エルカが12歳になった頃、彼女の仕事の舞台は里から王都へと移っていた。
魔王軍の攻勢が激化する中、王国はエルカという規格外の戦力を国の象徴としてプロモーションしようと考えたのだ。そこで王城の軍師たちが立案したのが、伝説に謳われる勇者パーティーの再現だった。
王都の謁見の間。豪華な絨毯の上に立つエルカは、玉座に座る国王の言葉を、耳を素通りさせながら聞いていた。
「エルカよ。これからは一人ではない。国内から選び抜かれた若き才能たちが、お前の剣となり、盾となり、杖となるだろう。さあ、紹介しよう!」
現れたのは三人の若者だった。
重厚な白銀の鎧を纏った聖騎士アルフォンス。
慈愛に満ちた微笑みを浮かべる聖女セラフィナ。
そして、数多の魔導書を浮遊させて現れた賢者エリアス。
いずれも国内で天才、秀才と謳われる最高の人材である。
(……最悪だ)
エルカは内心で、目の前の三人をコストとして計算し始めていた。
(人数が増えれば、報酬は四分割。移動速度は一番遅い人に合わせなきゃいけないし、食事や宿の調整コストは四倍。意思決定の合意形成にも時間がかかる。……これ、私の利益が一つもないんだけど?)
「勇者様、お会いできて光栄です。僕は、命に代えてもあなたを守り抜く!」
熱く語るアルフォンスに対し、エルカが返した言葉は冷ややかだった。
「私の背後は常時発動型の自動防御魔法でカバーしてるから大丈夫。それより、あなたのその鎧、歩くたびにガチャガチャうるさいんだけど。隠密性がゼロ。次までに潤滑油を塗るか、軽量化してきて」
「えっ……あ、はい……」
初対面での業務改善命令。これが、伝説のパーティー(になるはずだった集団)の始まりだった。
最初の任務は、王都近郊の山嶺に巣食うワイバーンの群れの討伐だった。
エルカ一人なら、空を飛んでいって五分で更地にする案件だ。しかし、今回はチームワークの構築が優先事項とされた。
ふもとのキャンプ地で、賢者エリアスが地図を広げて意気揚々と語り出す。
「さて、僕の計算によれば、まずはセラフィナが障壁を張り、アルフォンスが敵の注意を引きつける。その隙に僕が広域拘束魔法を……」
「……ねえ。一つ聞かせて欲しいんだけどさ」
エルカがエリアスの言葉を遮る。
「この会議、あと何分続くの? 太陽の角度からして、あと十五分以内に攻撃を開始しないと、ワイバーンが夕食のために狩りに出て群れがバラける。そうなると各個撃破の手間が増えるんだけど。プランB、私が今から行って全部消す。これが一番早い」
「勇者様、それはあまりに無茶です! 仲間を頼ってください!」
聖女セラフィナが縋るような目で訴えるが、エルカにはそれが非効率の押し売り。という、あまりにもうざったるいものにしか見えなかった。
結局、エルカは不機嫌そうに三人の作戦に付き合うことにした。しかし、それが悲劇の始まりだった。
そして、いざ戦闘が始まると、エルカのストレスは頂点に達した。
アルフォンスが「ここは僕が食い止める!」と叫んで前に出るが、エルカからすれば射線が塞がって魔法が撃てない邪魔者でしかない。
エリアスが長い詠唱を始めたが、その魔力構成はエルカの基準からすれば冗長でエネルギー効率が悪いゴミのような回路だった。
さらにセラフィナが事あるごとに「怪我はありませんか!?」と駆け寄ってくるせいで、エルカの回避機動が制限される。
「危ない!」
アルフォンスがワイバーンの爪からエルカを守るために割り込んできた。
だが、そのせいでエルカが放とうとした[崩壊]の術式がキャンセルされ、反動で彼女の手首にわずかな負担がかかる。
「……っ」
エルカは無言で、襲いかかってきたワイバーンの頭部を、魔力を込めた指先だけで弾き飛ばした。
#ドライ
1,898
#主人公最強
杯雪乃
1,748
#勇者
りな
120
「アルフォンス。……今、あなたのせいで私の退勤時間が三秒遅れた」
「え……? いや、僕は守ろうと……」
「守る必要はないって言ったでしょ。私の防御魔法はあなたの盾より硬い。あなたの仕事は、私の邪魔をしないこと。それだけなのに、なぜそれすらできないの?」
エルカの瞳に宿ったのは、怒りというよりも、無能な部下を見る上司のような深い失望だった。
討伐完了後。ワイバーンの死体が転がる山頂で、三人はエルカに詰め寄った。
「勇者様! あなたの力は認めますが、今の態度はあんまりです! 仲間とは、手を取り合って苦難を乗り越えるものでしょう!?」
セラフィナが涙ながらに訴える。アルフォンスもエリアスも、それぞれの誇りを傷つけられた憤りに顔を赤くしている。
エルカは、彼らを冷めた目で見つめ、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。それは、この数時間の戦闘内容を分析した業務の評価レポートだった。
「アルフォンス。あなたの防御行動は、私が攻撃を行う機会を27%損失させている。エリアス。あなたの魔法発動までの平均時間は14秒。私ならその間に同じ規模の魔法を20回撃てる。セラフィナ。あなたの回復魔法は、そもそもダメージを受けていない私にとってオーバーヒール……つまり資源の無駄遣い」
「な……っ!」
「結論を言うね。あなたたち三人と組むことで、私の総労働時間は単独時の3倍に膨れ上がり、一方でリスクの分散効果は計測不能なほど低い。……つまり、あなたたちは私にとって資産じゃあない。維持費だけがかかる負債なんだよ」
エルカは淡々と、しかし容赦なく言葉を続けた。
「よって、本日をもってこのパーティーは解散する。王様には私から言っておくよ。あんな無能のインターンは教育しきれないって」
「ま、待ってください! これから一緒に成長していけば……」
「成長? 誰のお金と時間で? 私の睡眠時間を削ってまで、あなたたちの育成に付き合う義務がどこにあるの? もし義務があるとして、私にどんなメリットがあるの? ……もういい。私は帰る。これ以上一分でも一緒にいたら、ストレスで寿命が縮まる」
エルカは風属性魔法[浮遊]を発動させ、ふわりと宙に浮いた。
呆然と立ち尽くす三人を置き去りにして、彼女は夕焼けの空へと消えていった。
王都に戻ったエルカは、国王の前で単独行動の許可を勝ち取った。
当然、反対意見も多かったが、彼女が提示した単独の方が討伐ペースが500%向上するというシミュレーションデータと、実際に三人がかりで一日かかる依頼を一人で一時間以内に終わらせてくるという実績の前に、誰も口を挟めなくなった。
(ああ、清々した。……やっぱり、仕事は一人でやるに限るね)
王都の高級宿舎の一室で、エルカはふかふかのベッドに身を投げ出した。
仲間との友情? 絆の力?
そんな不確定な要素に頼るよりも、自分の魔力計算と効率的な術式の方が、よほど信頼できる。
だが、彼女はこの時まだ気づいていなかった。
仲間を切り捨てたことで、すべての案件が彼女一人に回ってくるようになるという、さらなるブラックな労働環境の始まりに。
「……さて。明日の予定は、北東の砦を一つ更地にする仕事か。……三十分で終わらせて、お昼はあのパン屋の新作を買おう」
エルカは心地よい眠りに落ちる直前、明日のスケジュールを最短ルートで組み立てた。
彼女の史上最強のソロ活動は、こうして皮肉な形で幕を開けたのである。
コメント
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よし、読んだよ!第7話。 もうね、エルカの「退勤時間が三秒遅れた」発言に爆笑した。徹頭徹尾コスト計算で動く彼女からすれば、三人は確かにレガシーコードみたいな足枷でしかないんだよな……でもそれって、周りが勇者像を押し付けているせいでもある。王都のプロモーション戦略に使われてる感もリアルで、この設定の地盤の作り方、すごく好み。 「明日は三十分で終わらせてあのパン屋の新作」って早起きのスケジュール考えてるところがなんか好き。自由を手に入れたはずなのに、実はさらにブラックな沼に片足突っ込んでる予感がしてニヤリとしちゃったよ。 次、あのパン屋はどうだったのか教えてほしいところだね。