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いつか殺し合う君と紡ぐ恋物語

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いつか殺し合う君と紡ぐ恋物語

12 - 【第一章】第十一話 その頃、魔王の城では——

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2024年12月31日

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「——今戻ったぞ、魔王殿」

漆黒の鎧を纏った男が低音ながらも甘さの混じるバリントンボイスで帰宅の挨拶を口にした。 口元に薄っすらと笑みを浮かべ、魔王の城・トイフェルの中で一番頑丈に造られた鉄の扉を軽々と片手で押し開いていく。この扉の先には魔王であるリアンの私室があり、そこで優雅に寛ぐ主の姿をすぐにでも見たいとはやる気持ちを抑え切れない。

ギギギーッと鉄製の扉が軋んで酷い音が鳴るが、それを構わずそのまま力任せに押すと、重い扉は難無く全開になった。

声を掛けたのに部屋の持ち主の返事は無い。だが男は私室の中へカツンッカツンッと靴音をたて、内側が血のように赤いマントを翻しながら天蓋付きのベッドの方へどんどん進んで行く。


「我らが魔王殿は、もう休んでいるのか?」


室内を見渡してもリアンの姿を確認する事が出来ない。 普段ならばこの時間はまだ、窓辺に座り、外に見える月の変化を楽しみながら読書をしている事が多いので男は不思議に思った。呼び掛けへの返事が無い事も気になる。


(まさか……声に気が付かぬ程、何かに集中でもしているのか?)


変な期待が胸の奥に湧き、男がごくりと喉を鳴らす。『 ……期待通りの状態なのならば手伝わねばな、部下として!』と前へ進むたびに自然と揺れる腕の先で力強く拳を握った。

男が歩きながら鎧兜を脱ぎ取り、それを左腕に抱える。 脱いだ事で見えた顔は四十代後半くらいの厳つい風貌で、垂れ目がちの瞳なのに眼光はとても鋭い。黒い髪は短く切り揃えられていて清潔感がある。肌は健康的な色をしており、ガタイの良い筋肉質な体をしている事は全身に漆黒の鎧を着ていてもなおハッキリとわかる程だ。


「魔王殿……」


天蓋付きのベッドはカーテンの様な物でしっかりと覆われており、中の様子が全く見えない。それに加え、いくら近づいても内側から音はせず、主の気配も無く、返事も返ってこないままだ。流石に不穏な空気を感じ始め、男の歩みが急に速くなり、彼の感じている焦りが靴音からも読み取れた。


「魔王殿⁉︎」


大声をあげながら天蓋付きベッドのカーテン部分を男が勢いよく開ける。そして、誰もベッドには居ない事を知ったと同時に彼は怒号に近い声で「キーラァァァァ!ナーガァァァァ‼︎」と、同僚二人の名前を叫んだ。


「——聴こえるわよ、そんな大声で呼ばなくてもねぇ」


両の耳を手で塞ぎ、ナーガがズルズルと蛇の半身を床の上に這わせながらリアンの私室までやって来た。後ろにはキーラもついて来ていて、彼も顔を顰めながら耳を塞いでいる。

「やっと戻ったんだねぇ、遅いよケイト」

室内に居る男の姿を確認し、溜息混じりにキーラが言った。すると、『ケイト』と呼ばれた男が一足飛びに距離を詰め、小柄なキーラの胸倉を無遠慮に掴んで高らかに持ち上げてしまった。


「くっ、苦しいよ!ケイトったら、離してよ!」


キーラがケイトの手を強く掴み、鎧に覆われた手だろうが構わずに爪で引っ掻き、さっさとこの手を離せと怒りを露わにしている。だがケイトは持ち上げたキーラの瞳を睨み付けるばかりで、降ろす気など無いようだ。


「魔王殿は——リアンはどこだ!」


ケイトのバリントンボイスが地を這う様な怒気を孕む。そのせいで、此処に居る三人で決めた『リアンに好きな相手が現れるまで抜けがはしない証』として、魔王リアンの名前を口にしない約束を勢いのまま破ってしまった。

「何故この部屋に居ない?この時間なら私室に居るはずだろ」

「あらぁ、城中が大騒ぎになっているのに、此処へ来るまでの間で何かオカシイとは思わなかったの?」

ナーガが自らの長い金色の髪をサラッと手の甲で後ろに払いながら、ゆったりとした口調で訊いた。

「そこの窓から入って来たばかりだからな、知らん」と言ってケイトが廊下側の大きな窓を指さす。指の先にある大きな窓はまだ開け放たれたままになっていて、鉄製の縁には彼の靴跡と土が少し残っていた。

「……コレだから、自力で空を飛べる奴って憎らしいわぁ」

呆れ顔をし、ナーガが額を押さえる。ほぼ蛇とも言える細長い自らの巨体では空を移動する事は不可能なので純粋にケイトが羨ましい。


「いい加減にボクを離せって!ちゃんと説明するから!」


キーラの叫びに従い、ケイトが掴んでいた胸元をパッと離した。 ドサリと音をたてながら床に落ちると、彼は尻餅をついてしまったお尻を「いててっ…… まったく!」とボヤきながらさする。ショートパンツからチラリと出ている尻尾の位置を直し、その場で立ち上がると、キーラはひどく不貞腐れた顔をしていて機嫌を相当損ねている事がハッキリとわかった。

お前の機嫌なんかどうでもいいとばかりに「さっさと話せ」と言うケイトの声はまるで尋問官の様で仲間にかける声じゃない。

「……魔王様は——」とまで告げてキーラの口が開いたまま一度言葉を失う。召喚陣の中に消えていくリアンの、複雑な心境を抱いていそうな瞳を思い出してしまったからだ。


「多分、誘拐された……と、思う」


「何でそんなに曖昧なんだ」

「だって!急な事だったし、ホント数分の出来事で、魔王様も何が起きているのかわからないって顔をしていて!……でも、召喚陣に対して抵抗は……しなかったから。『御自分で手引きした可能性もゼロじゃ無いのかも』とか思ったり……そんな気がしなくもないと、言うか……」

曖昧なままの報告を聞いてケイトは呆れ顔になった。

「魔力の残滓を追って、追跡は出来なかったのか?」

「無茶言わないでよ!ボクは犬じゃないんだから」

自身の服の裾を掴み、頰を膨らましながらキーラが叫ぶ。

「そうよねぇ。そういった行為が得意なのは、よりにもよって、消えちゃった魔王ちゃんだもの。ワタシもキーラから報告を聞いて現場を見には行ったけど、残念ながら痕跡らしいモノは全く無かったわ」

頰を押さえ、ゆるりと首を傾げながらナーガがため息をこぼす。本当にお手上げで、どうするべきかキーラとナーガが軽く唸った。


「あー……こうなったらもう、部下達に地道に捜索させるしかないのか」


『くそっ!』とでも言いたそうな顔をして、目蓋を閉じてケイトが天井を見上げた。

「世界中の蛇達には『魔王ちゃんを見掛けたら知らせろ』とは伝達しておいたわよ」

「ボクも、一応羊達には……まぁ、あまりアテには出来ないけどね。彼らって中途半端な場所にしか居ないから」

「他の魔物達への伝達は済んでいるんだよな?」

「もちろんだよ!いの一番に、ケイトを呼び戻すと同時に、もうその辺は全て手配済みだから、見掛けたらすぐに報告が来るはずだ」

ドヤ顔で胸を張るキーラに対し、やっとケイトが微かな笑みを向けた。


「しかし……召喚陣の中に消えたと言う事はだ、誘拐犯は召喚士か?油断していたな……目下の敵は勇者だとばかり思っていたのだがなぁ」

「そうよねぇ。魔王ちゃんも、気にしているのはいつも勇者の存在だったし」

「仕方ないよ。勇者御一行の中に混じっている事があるかも程度の職種の奴への警戒なんて、一々しないもん」


「だが……よくよく考えれば、警戒すべきは今回の様に、直接魔王殿を誘拐出来る召喚士だった、という訳か」


「えぇ、そうね」

「だよねぇ……悔しいよぉ、ホントに」

俯く二人の前に立ち、小柄なキーラの頭をケイトがぐしゃっと撫でた。


「……やはり、地下で厳重に監禁しておくべきだったな」とケイトが後悔を口にした。


「前にも言ったけど、そんな事しても無駄よ。魔王ちゃんは周囲にある物で色々錬成出来ちゃう子なんだから。『監禁されたな』って認識した途端に自分で地下迷宮でも造って逃げちゃったでしょうね。あの能力の仕組みはワタシ達もよくわかっていないんだし、下手な事は出来ないわよ」

口元に長い指先を当て、残念そうにナーガが息を吐く。

「あの子は今くらいなんとなーく真綿で包むくらいに閉じ込めるくらいだと、仲間達への義理や愛情、私達からの忠誠心を裏切りたくない一心で城から逃げずにいてくれる。そのくらいの鎖が魔王ちゃんには丁度いいのよ」

ふふふっと仄暗い笑みを浮かべるナーガを前にして、キーラは呆れ顔になったが、ケイトの方は「それもそうだな」と真顔で頷いた。

「だからぁ、自分から手引きして逃げた可能性はほぼ無いと思うわ。でもぉ……予想外の事に便乗した可能性はあるわねぇ。最近ずっと『暇だ暇だ』って顔をして、異世界の物を錬成しては玩具にして遊んでいたし」

「あぁ、そういえば…… 消える直前にも、“まいく”とかいう鉄の塊で遊んでいたよ。ちなみに——コレなんだけども」

そう言って、キーラが懐からマイクを取り出してケイトに渡す。ちょっと重たくって硬い物が服の中から無くなりキーラは少し楽になった。


「……まさか、コレは挿れて遊ぶモノ……か?」


受け取ったケイトが卑猥な想像をし、ごくっと大量の唾を飲み込んだ。

頭の中では、王座に一人で座り、中途半端にトラウザーズや下着を脱ぎ、自分でアナルにこの塊を挿れながらアヘ顔になっているリアンの姿でいっぱいになっている。

ケイトはリアンに対して永年の片思いを拗らせ過ぎ、些細なきっかけで脳内の回路が何でもすぐに彼を犯す事に繋がってしまうみたいだ。

「こんな鉄の塊を?まっさかぁ、魔王ちゃんの可愛い腸内が傷ついちゃうじゃないのよ」

ツンツンとマイクを爪の先でつつきながら、ナーガが否定する。 だが、どうやらこの三人は、彼らにとっての異世界の物の事はよく知らないみたいだ。

「……そう、か」

残念そうにケイトが項垂れる。そんな彼の背中をバンバンと叩き、「そのうちもっとぶっといモノを突っ込む気でいるくせに、そんなガッカリしないのぉ!さぁ、いつか来るかもな未来の為にも、子憎たらしい誘拐犯から我らが魔王ちゃんを取り戻そうじゃないの!」とナーガが言った。

「魔王様を探すのは当然だけど、ケイトのモノになる前提な事は気に入らないぞ!」

ナーガの発言に、キーラが喰って掛かる。

「だってぇ、キーラは抱かれたい側でしょ?」

「……まぁ、うん。で、でも……そうハッキリ口にされると恥ずかしいんだけど」

クスクス笑うナーガの横で、キーラが顔を真っ赤にして俯いた。

「ワタシは、ケイトに犯される魔王ちゃんがぁ、同時にキーラを犯してる所を見ながら、あの可愛いお口でたっぷり愛して欲しいわぁ」

倒錯している嗜好を口にしてナーガが全身をくねらせる。流石にそんな妄想にはついていけず、キーラとケイトの表情がスンッと冷えたモノになった。


「……さっさと魔王殿を探すか」

「うん、そうだね。ボクは魔物達からくるかもしれない情報の収集をやるよ。執事業務一辺倒なボクはそもそもあまり戦闘向きじゃないし、直接探しに行っても、魔王様を呼び出せるレベルの召喚士に勝てる自信……正直無いからね」

まさか、焔が召喚士レベル1のまま呼び出した事など知るはずがないので、キーラは少し怯え気味だ。

「じゃあワタシは城内の警護強化をしておくわ。召喚士って確か、能力や運に応じてランダムで魔物を呼ぶんでしょう?だとしたら、魔王ちゃんを魔王ちゃんだと知らずに呼び出して、阿保面引っ提げて魔王討伐の為に此処へ乗り込んで来るかもしれないから。それに、ワタシは変身も出来なくって目立つから、捜索向きじゃあないしねぇ」

「それもそうか。じゃあ二人ともそれで頼む。オレは魔物達と連携しつつ、ドラゴン化して空から探す」

「駄目よぉ、そんな事をしたらワタシ並みに目立つじゃない。今、トイフェル城に魔王ちゃんが居ないと人間共に悟られたら厄介よ。折角ケイトは人型に近い姿も出来るんだから、んな重そうな鎧は脱いで、軽装を着て、その立派な足で探してきて頂戴な」と言って、ナーガがケイトの背中をバンバンとまた叩いた。

「……本気か?」

今も尚広がり続けているこの世界の中を歩きで探すと思うと、ケイトはちょっと鬱になりそうな気持ちになった。

「生まれたばかりで“名も無き”な地域はドラゴン化して、名前ありな森や街とかは人型になってとか、きちんと能力を使い分けなさいって。ほらほらー」

「それでも、気が遠くなりそうな範囲だぞ……?」

「数キロ内に魔王ちゃんが居たら、愛の力できっとわかるわ!」

「適当な事を言うな、他人事だと思いやがって」

「まぁまぁ。そもそもケイトだけで探す訳じゃないんだし。召喚士が動けば、クラフト素材や経験値欲しさに魔物とかを狩るだろうから、いずれは誰かから連絡が来るわよ。そしたらそこへケイトがお迎えに行けばいいだけでしょ?ほら、どうせすぐに見付かるわよー」

「……わかったよ。じゃあ、行くか」


魔族の領地内にはまず居ないだろうと推測し、三人がそれぞれの役割を果たそうと動き出す。

リアン達の手によって“ノトス”と名付けられたばかりの地域が半日前までは“名も無き”森であった事を知らず、焔が全く経験値稼ぎの必要も無い事も知らない彼らは、ちょっと的外れな捜索の開始となってしまったのだった。

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